第23話

 あの後の事は病院へ運ばれたために先生からの話しか聞いておらず詳しくは知らないが、あの男は退学になったようで桜さんも屋上へと鍵を持ち出したこと、ショックを受けたであろうことから一週間の停学となった。学校と彼女の事務所が協力したからなのかあまり大事にはならずに済んだようだ。だが、噂はどこからでも立つようで、男が退学したことについていろいろ憶測が飛び交っているようだ。


 僕の腕の傷はあまり酷いことにはならなかったため直ぐに登校できるようになった。


 学校の授業がほぼ終わり、久しぶりに美鈴と下校しているときのことだった。美鈴はとても上機嫌であり、嬉し気に傷を負っていない方の手を握っていた。


「先輩、お久しぶりです」


 目の前に桜が現れたのだ。

 

 途端美鈴の機嫌は急降下し、死んだ目をして此方へと説明を求めてくる。


「........悟。説明してくれると嬉しいな」

「先輩って生徒会長さんと仲良かったんですね。私、びっくりしました」


 何故か桜の機嫌も悪そうで、笑顔ではあるものの目は笑っておらず寒気がするほどである。それにしてもなぜここに桜さんがいるのだろう。家で謹慎しているはずなのだが。


 美鈴に僕と桜さんの関係を話し、ここは一旦帰ってもらうことにした。もしかしたら、あの事件関係の大事な話かもしれないからだ。後日埋め合わせをすることを約束することによって何とか了承を得たので、とりあえず近くのファミレスへと入り話を聞くことにした。


「それで、どうしたの?」

「........先輩って生徒会長さんとどんな関係なんですか?付き合ってたりするんですか?」

「つ、付き合ってはいないよ。ただ、ちょっとしたことがあって縁があるだけ」


 ニコニコした笑みのまま早口で捲し立てられるので焦ってしまう。相変わらず目が笑っておらず、どう対処すればいいのかわからない。何か彼女の気に障ることでもしたのだろうか。美鈴と関わるのがそこまでいけないことだったのか?もしかしたら、彼女たちは何かしらの因縁があるのかもしれない。明日、美鈴に聞いてみるとするか。


「へぇ、そうなんですね。それにしては仲良さそうにしていましたけれど。普通付き合ってもいないのにあんな風にくっついたりします?それに生徒会長って学校だと生徒の模範みたいな感じなのに、先輩の前だとあんなふうなんですねぇー」

「い、いや美鈴はなんていうか仲良くしてくれてるだけで本当に付き合っていないから」

「…ふぅーん、まぁ先輩がそういうのなら信じてあげなくもないですけれど」


 と緑茶をストローで吸いながらジト目でこちらを見てくる桜さんの顔は相変わらず不満げである。


「そ、それより今日はどうしたの?今は謹慎中でしょ?」

「....先輩に感謝をしたくて、会いに来ました。まだお礼も伝えられていなかったので。本当にありがとうございました」

「いや、あの場面で助けないほうが人としてどうかしてるよ」

「あのこともそうなんですけれど、先輩、私の知らないところで勝手に色々してくれていたみたいなので」

「…それは、ごめん」

「いや、いいんです。私は先輩に感謝しているので。先輩のおかげで、親とも話せましたし、マネージャーとも話し合いが出来たので。....本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げて、お礼を言う桜。きっと、親との仲も改善できたのだろう。


「そ、それで、なんですけれど」

「うん」

「えーっと、その....」


 桜は頬を赤くしてこちらを恥ずかしげに見て言いにくそうに話を切り出した。


「あの事、覚えてますか?」

「あの事って?」

「その、先輩が私のこと妹のように思ってるって話」

「うん、覚えているよ」

「だから、その....」


 俯いた後、少しして決心がついたのか桜はこちらへと顔を向けた。


「先輩のこと、お兄ちゃんって呼んでいいですか?」

「え?うんいいよ」

「い、いいんですか?」


 僕としてはそのくらいのことは構わないけれど。それにしてもお兄ちゃんかぁ…なんか、新鮮だな。


「ありがとうございます。これからよろしくね。お兄ちゃん」

「うん。よろしくね。

「ッはい!!」


 彼女はニッコリと屈託のない笑みを見せた。


 

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