第18話
僕が一体どこで何をしていたのかを鏡花の名前や出自、そして僕が死にたいと口にしたことは伏せて話した。これ以上桜に誤魔化しや嘘を吐けば彼女は何をしてしまうか分からない。
僕が話している間、彼女はずっとニコニコと仄暗い笑みを浮かべて聞いていて口が閉じてしまいそうになったが、ゆっくり一つ一つを話していく。
そしてやっと話し終わったところで彼女は話を咀嚼し、ゆっくりと口を開いた。
「成程。...........つまり、私はそいつを殺せばいいんだね?」
「...........え?」
「だってぇ、私がこんなに辛い思いをしてたのにそいつはお兄ちゃんを独占して、幸せな思いをしてたってことでしょ?私、許せないかもなぁー」
「そ、それは...........」
「わたしが、お兄ちゃんが居なくて辛くて、寂しくて、寒くて凍えそうだったのにお兄ちゃんが頭撫でてくれたり抱きしめてくれたりしてたってことでしょ?私のお兄ちゃんなのに」
桜は相変わらずニコニコと笑みは浮かべてはいるものの目からは溢れんばかりに殺気が漏れ出している。
「私は、心配でもう死んじゃいそうなほど苦しんだんだよ?それなのにそいつはお兄ちゃんから優しくされてなんて許せないよ。お兄ちゃんが許しても私はその子を赦せないよ」
「…ごめんね、桜」
「うんうん、大丈夫だよお兄ちゃん。お兄ちゃんはなぁーんにも悪くないの」
桜は変わらず笑みを浮かべる。
「それに、これからもお兄ちゃんはそいつの家にいなきゃダメなんでしょ?私、嫉妬でおかしくなっちゃいそうだよ」
僕は、なんといえばいいのだろう。彼女に返せる言葉が見つからない。何を言っても僕の言葉は軽すぎて彼女に届かないのではないかと思えてしまう。桜をこんな風にしてしまった負い目もあるからだろう
「でもね、そいつも私と同じようにお兄ちゃんに助けられたのなら気持ちは分からなくもないの。私もお兄ちゃんを独占したいって気持ちだから。お兄ちゃん、覚えてる?私がお兄ちゃんを助けてくれた時の事」
「...........覚えてるよ。あの時の桜は、壊れてしまいそうだった」
「ふふっ、そうだね。懐かしいなぁー、多分あのままお兄ちゃんが助けてくれなかったらやけくそになって死んでたかもしれない」
当時の彼女は仕事でかなり心が擦れていた。学校でも気丈に振舞って何てことないように振舞っていた。学校でも家でも、どこでも彼女は演技をしなければいけなくて何処にも休める場所は無かった。
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