第3話 おまいら、勝手に変人を見たからってスレ立てすんな。

せいっ!! 性っ!! 性っ!!」

「……性っ……性っ……寒っ」


 息子を置いて夫婦2人だけでディナーを楽しんでいるお父さん、お母さん。

 僕は今、寒空の下で感謝の正拳突きをしています。

 東京の夜は、雪が降っています。


 ……なんで隣の一之宮さんはそんなに楽しそうなんだ……


「まじウケる!」

「てかあの女の子可愛くない?!」


 リア充たちが群がり始めた中、それでも一之宮さんは楽しそうに拳を振るう。


 いやクリスマスイブにほんとなにやってだ俺……

 牛丼屋で飯食って帰るだけのはずが、誰が好き好んでこんなことを……


 スレ立ても結局してないし。


「やべぇな。久々に見たわ」


 スーツにコートの冴えないサラリーマンが通りかかり、スマホを操作しだした。


 考えてみれば、結局スレ立てしてないのに正拳突きしてても意味無いよなぁ。ほんとなにやってんだろう……


「山田さん! 寒いですねっ!!」

「……すごい楽しそうですね……」


 白い息を吐きながらも楽しげに笑う一之宮さん。

 牛丼屋でのコンタクトからまだ数時間も経ってないのに、どうして俺は一之宮さんと正拳突きをしているのだろうか?


 ほんと意味わからん。

 まあでも、ネット掲示板でもそういう事ってあるよな。

 電車の男の話とかもそうだけどさ。


「頑張れよ!」

「にぃちゃん、コレやるわ」

「……っ?! いやいやいやッ!」

「山田さん、どうされました?」

「いやいやなんでもないですよ一之宮さんっ」


 おいそこのお前、一之宮さんがいる前でそんなもん渡すなよ!

 テン○エッグなんて渡しやがって!!


 テ○ガエッグニキ参戦とか細かいネタまでやんなくていいんだよっ!!

 知ってるやつしか知らないんだからさ!


「おいおいにぃちゃん、なんかスレ立ってるぞ」

「誰だスネーク! 出てこいぃ!」

「え? スネークがいるんですか?!」


 てかさっきからサラリーマン男が俺にウザ絡みしてくるんだが。

 どっかにスネークがいてスレ立てなんてしてるし、ほんといい晒し者だぞ全く。


「雪降ってきたな」

「マジでもうそろそろ限界なんだが……」

「山田さん、頑張りましょう! 22時までの我慢です」

「いや一之宮さん、鼻水垂れてますよ」

「えっ?!」


 おいおい高嶺の花、鼻水垂らしてていいのかよ。

 せっかく美少女なのに。


 ……ねらーたちなら、美少女の鼻水とか欲しがったりするんだろうなぁ。

 まあ、一之宮さんマジで美少女だし。


 てかこれあれだな、スレ立てを自分でしてたらたぶん手がかじかんでレスとか途中で出来なくなってただろうな、うん。


 今俺の頭の中にはマッチ売りの少女が再生されている。

 やばいないよいよ死亡フラグだ。


「VIPからきますた」

「あ……もしかしてアルミ缶ニキですか?」


 おいおいなんか知らん奴が合流してきたんだが?!

 誰だよアルミ缶ニキって?!


 俺らの知らないところで盛り上がって現地凸ってくるやつ増えてきてる?!


「山田さん山田さん!! 「VIPからきますた」って初めて聴けましたっ!!」

「そ、そうですか……」


 一之宮さんにとってのvipperってなんなんだろうか?


 ハリウッドスター、ロックスター、有名アスリート、vipperみたいな認識だったする?

 だとしたら俺、この子の将来が凄く心配なんだが……


 こんな形で一之宮さんと関わって、楽しそう話しているのがネット掲示板の話なんだぜ?

 ときめけねぇんだよなぁ……


「お前たちやばいぞ、お巡りさんだ」

「ガチでやばいじゃないですか逃げますよ一之宮さん!」

「まだ補導の時間では……」

「いいからっ!!」


 クリスマスイブの夜、俺は一之宮さんの手を引いて走った。

 ホットパンツサンタな2人の夜はまだ終わらない。

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