元勇者、魔皇となり世界を捧げる

琥珀のアリス

追放編

第1話 始まり

 日本時間、2XXX年11月26日。この日、五年間に渡り世界的人気を誇ったゲーム『幻想世界オフサルティ』がサービスを終了する。


 このゲームは開発者不明、配信企業不明という謎のゲームで、リリースされた当初からかなり話題となり、僅か数ヶ月で世界的に大ヒットした人気のゲームである。


 ゲームの内容は恋愛アクションRPGで、物語は主人公が帝都にある学園に通うところから始まる。


 主人公の生い立ちは少し複雑で、実は帝国にある三つの公爵家のうち、魔法の名家である公爵家の出身だが、とある理由から12歳の頃に家を追い出され、死にかけていたところを拾われたという過去がある。


 しかし、その恩人も主人公を庇って魔物の手により殺されてしまい、その出来事をきっかけに主人公は全ての魔物を世界から消し去り、魔物を生み出していると言われる元凶の魔族をも滅ぼすことを誓った。


 そんな過去を持つ主人公は、まずは自身が強くなるたに帝国で最も有名な学園へと入学する。


 学園に入学後、主人公は聖剣に選ばれて勇者になったり、ヒロインたちと出会って恋愛をしたり、多くの事件や危機に見舞われて成長していくというそんなありきたりな物語だ。


 ここまでであれば普通のRPGと変わらないためこれほどの人気も出なかっただろうが、このゲームの一番の特徴はその自由度にあった。


 このゲームでは、従来のゲームのようにセリフを選択するのではなく、セリフを入力することでキャラクターたちとの会話が進み、そこからストーリーが進んでいくのだ。


 例えば、ヒロインの一人が主人公に告白してきた場合、その時に入力した言葉でそのヒロインとの今後の関係が変わり、最悪ストーリーの途中で死んでしまう場合もある。


 死んでしまった場合、そのゲームを一度クリアするまではそのヒロインを復活させることはできず、そのリアルさが余計にプレイヤーたちをやる気にさせ、ゲームの人気に拍車をかけた。


 このゲームの物語は全部で二部構成となっており、一部目では聖剣を手にした主人公が様々な困難や元家族に邪魔をされながら仲間たちと共に成長し、最終的には魔族領にいる魔皇まおうを倒して終わる。


 二部目では英雄武器と呼ばれる武器を持つ強者と戦ったり、邪神を崇める組織と戦ったり、最後には元家族が主人公に復讐するために異界から呼び出した邪神を倒すことでゲームが終わる。


 その後はもちろん裏ボスも存在しており、封印されていた古の魔物たちや邪神の魂と融合した魔皇と戦ったりと、クリア後も楽しむことができた。


 難易度としては恋愛が絡むにもかかわらず非常に高く、初見殺しも数多くあるためプレイヤーの間では死にゲーとまで言われており、推しキャラが死んだ時には涙を流したり寝込んだ者たちが数多くいたそうだ。


 そんなオフサルティをプレイしていた最後のプレイヤーがゲームを終えると、机の上にコントローラーを置いて息を吐く。


「はぁ。何とかサービスが終了する前に全キャラでのハッピーエンドが見られたな」


 このプレイヤーがゲームを始めたのはサービスが開始された当日からで、自身でセリフを入力してストーリーを進める関係上、全てのキャラがハッピーエンドを迎えるにはセリフを慎重に選ばなければならなかった。


 このゲームではセリフを少し間違うだけで他のキャラに死亡フラグや不幸フラグが立ってしまい、一人が幸せになれば他が破滅するなんてことはザラにある。


 そのため、途中で諦めてしまうプレイヤーたちがほとんどで、このエンディングに辿り着けた者は世界中を探してみても彼だけだった。


「それにしても、魔皇は本当に可愛かったな。魔皇と恋愛できればよかったのに、ゲームのコンセプトが絶対的な正義だからなぁ」


 このゲームではセリフを自由に選べるにも関わらず、主人公が闇落ちしたり魔皇側に寝返るなんてことはできず、魔皇にはどんなセリフを投げかけても最後は主人公が魔皇を殺して物語が終わる。


 そのため、このゲームでも屈指の人気を誇る魔皇と恋愛をしたり仲間にすることはできず、多くのプレイヤーたちが血の涙を流しながら魔皇を殺していた。


「とりあえず、このゲームもこれで終わりか。本当に楽しかった。ありがとうございました」


 最後のプレイヤーはそう言ってゲームの画面を閉じると、寝る支度を済ませて眠りへとつくのであった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 日本時間、2XXX年11月27日。何もない白い空間の中、そこに無機質な声が響き渡る。


『お知らせいたします。これにて、世界番号1598番、惑星名『地球』と世界番号48736番、惑星名『オフサルティ』の世界連結を解除いたします。これにより、以降は惑星名『オフサルティ』は独立した一つの世界となります。皆様、大変お疲れさまでした。また、これまでの褒賞といたしまして、主人公にはいくつかのギフトをお送りいたします』


 無機質な声が淡々とそう告げると、何もなかった空間に意識を失った一人の青年が現れる。


『これより、主人公にギフトの授与を開始しいたします』


 無機質な声がそう告げた瞬間、青年の体は金色の粒子に包まれ、その粒子たちが青年の体へと吸収されていく。


『完了。これにて、ギフトの授与を終了いたします。最後に、主人公への名前の授与を行います。主人公改め個体名『ノア』。これよりあなたの人生は自由となります。また、世界の統括者アカシック・レコードより世界の管理者アカシック・レコードへと一時的に惑星名『オフサルティ』の権限を移行し、以降、個体名ノアのサポートへと当たらせます。以上』


 その言葉を最後に、空間の中心にいた青年は光の粒子となって消え去り、白かった空間も明かりが消えたように暗くなるのであった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…ア…」


(誰かが…呼んでる?)


 俺は誰かに体を揺すられる感覚がして、眠っていた意識をゆっくりと覚醒させていく。


「ノア様。早く起きてくださいませ」


「…んん?」


「あ、ようやくお目覚めですか?」


 俺がゆっくりと目を開けると、そこには綺麗な黒髪を後ろで纏めた13歳くらいの少女がおり、彼女は新しいメイド服を着て俺のことを見下ろしていた。


「エレ…ナ…?」


「おはようございます、ノア様」


「…おはよう」


 朦朧とする意識の中、ベッドから体を起こした俺は、ぼんやりとする意識を覚醒させるため軽く頭を振る。


「どうかされましたか?」


「いや、なんでもないよ。それより、今日は何かあるの?」


「お忘れですか?今日はノア様の職業選定の儀が行われる日です」


 未だ記憶はハッキリとしないが、エレナに言われてそんな予定があったなと思い出した俺は、彼女に着替えを手伝ってもらいながら鏡に映る自分を眺める。


 そこに映るのは、年齢が12歳ほどで身長は155cm程度。太陽のように輝く金髪に、氷のように透き通った薄水色の瞳をした少年で、それは見慣れたはずの青年の自分より、少しだけ幼い自分の姿だった。


(ん?見慣れた青年?)


 自身の姿を見た瞬間、何故か言いようのない違和感に襲われるが、その理由が何なのか分からず、モヤモヤとした感情だけが胸いっぱいに広がる。


(何だろう、この感覚)


 まるで世界の全てを知っているようで、どこか現実じゃない物語の世界を俯瞰して見ているような謎の感覚。


(なんか、気持ち悪い)


 原因が何なのか分からずしばらく考えてみるが、いくら考えてもその理由が分かることはなかった。


「準備ができましたよ、ノア様…ノア様?」


「あ、うん。ありがとう」


「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫。気にしないで。それより、お父様たちを待たせるのも良くないから、早く行こう」


 まだ怠さの残る体を動かして部屋から出た俺は、エレナを連れて父上が待つ屋敷の一階へと向かうのであった。





「遅いぞ」


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


「チッ。私を待たせるとは本当に愚息だな。お前に並外れた魔力がなければ、とっくに追い出しているというのに」


 そう言って睨みつけてくるのは俺の父親のセバルであり、青い髪に水色の瞳をしたその人は、まるでゴミなど見たくないとでもいうようにすぐに視線を外した。


(はぁ。疲れる)


 この人が俺のことを嫌う理由は単純で、好きでもない母上との間に生まれ、しかもその母上に似ている俺が忌々しいからだ。


 母上と父上はいわゆる政略結婚というやつで、当時父上には他に愛している女性がいたが、お祖父様が決めた婚約によりその女性ではなく母上と結婚することになった。


 もちろん、結婚後すぐに父上はその女性を第二夫人として迎え入れたが、初夜の時に母上が俺を身籠り、父上の愛する女性より先に男である俺を出産した。


 俺が今住んでいるアルマダ帝国では、よほどの理由がない限り長男が家督を継ぐ決まりとなっており、第二夫人との間に生まれた弟は俺がいる限り家督を継ぐことができない。


 そのため、溺愛している弟の将来を邪魔する俺のことを父上は殺したいほどに憎んでおり、顔を合わせるごとに嫌味を言われるわけだが、俺には人並外れた魔力があるらしく簡単には手が出せないでいるのだ。


「さっさと馬車に乗れ」


「はい」


 父上と二人で馬車に乗るのは正直嫌だったが、それでもこれから向かう場所には馬車で向かわなければ着くまでに時間がかかってしまうため、俺はいろんな感情を我慢しながら馬車へと乗り込んだ。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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