第46話 部活動勧誘

「お前ら〜、今日から部活動見学があるから入りたい部活がある人は見学しに行くようにしろよ〜」


季節はもう春が終わりかけていた。


まだ肌寒いので感覚がおかしくなっていたが、もう部活動に入る時期だ。


「柳〜、何部入る〜?」


「今のところ入りたい部活はない」


「せっかく運動神経いいのに勿体ないだろ」


俺が他の人より運動神経がいいのは知ってる。


だから親父の勧めで格闘技をやっていたのだ。


格闘技、俺がやっていたのはボクシングだった。


親父はボクシングの大ファンだったので、俺にもやらせたいと思ったのだろう。


親父は高校に入っても続けて欲しそうだったが、俺はやめることにした。


理由は単純、とてつもなく痛いからだ。


特にジャブをまともに食らったら、鼻血がドバドバ出る。


いくら血があっても足りない。


あと、変なやつに絡まれることが増えた。


この2つだ。


今は志歩との関係上変なやつに絡まれたくないし、ボクシングに復帰して血まみれで帰宅するのも嫌だ。


「水城さんたち、私たちの部活入ってくれないかしら?」


遠くで志歩たち4人が勧誘されていた。


「いや〜、しっかしあの4人も大変だな」


「部活動をする時間なんてないのにね」


そう、どう考えても彼女たちが部活に入ることは無理だ。


授業が終わったらレッスンが始まり、帰ってくるのは9時頃。


レッスンが部活動のようなものだ。


それが分かっていても、勧誘してしまうのは志歩たちが形だけでも入部しているというだけでかなりの宣伝効果があると分かっているからだろう。


特に男子の部活なんかにマネージャーとして入ってくれたりしたら来年からその部活の入部希望者が激増する。


「すいません〜部活動はちょっと〜」


「入部するだけでもお願い出来ませんかね?」


夏木がやんわりと断っているが、次から次へと勧誘されるせいで少し困った顔になっている。


これは次の日になっても続きそうだな。


頑張って欲しいものだ。


俺と神田は遠目から志歩たちを見守っていた。


すると、志歩の影に隠れてジッとしていた奈珠華と俺の目があった。


最初、気怠げな様子で俺を見てまた志歩の影でジッと身を潜めていた。


すると突然肩を跳ねさせた。


そして俺の再度見てきて、ニマ〜っと効果音が聞こえてきそうなくらい口角を上げた。


(不気味だ………)


俺は奈珠華の笑顔を見て呑気そんなことを考えていた。


「ここからはよろしく」


奈珠華が口パクでそう伝えてきた。


(どういうことだ??)


すると突然、奈珠華が志歩の前に出て先輩たちにこう宣言した。


「柳優さんが入った部活になら、私たちにも入部して良いですよ」


(??????)


俺の頭の中は?で埋め尽くされた。


こいつは何を言っているんだ、と。


しかし数秒ほど考えて俺は全て理解した。


俺は奈珠華の事を舐めていたようだ。


どういうことかって?あれだ、俺を引き込めばあいつら全員を部活に入れられる。


ということはだ、全部活の先輩たちが俺を勧誘しにくる。


勧誘先が志歩たちから俺へとシフトしたわけだ。


俺が全てを理解して奈珠華を睨むと、素知らぬ顔でそっぽを向いてしまった。


「そうすればいいんだ!ありがとう奈珠華ちゃん!」


志歩も賛同してしまったようだ。


「柳……心中お察しするよ。頑張れ」


神田がすごい優しい目で俺を見て離れていった。


周りにいた1年1組の生徒も察して離れていった。


そして俺の周りには人が居なくなった。


「では柳さんはどちらに〜?」


奈珠華が教室の真ん中に1人で突っ立っている俺を指差した。


(奈珠華ぁぁぁぁぁ!!)


先輩たちの目が一斉に俺の方を向いた。


完全にしてやられた。


そして俺は先輩たちからの怒涛の勧誘ラッシュを乗り切ろうと心に決めたのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……………」


放課後、俺は机の上で事切れていた。


一応ラッシュは乗り切ったものの


先生にも


「ここまで騒ぎが大きくなるとは思っていなかったよ……柳が部活入りたくないのは知っているが入ってくれると助かる」


と言われてしまい逃げ道が無くなってしまった。


「お疲れのようですなぁ〜」


元凶である奈珠華が声をかけてきた。


「誰のせいだと思っとんねん」


そう言ったが悪びれもせずに


「先輩のせいで〜す」


と答えた。


何をほざいてんだこのクソガキと言いそうになったがキレても、奈珠華の思う壺なので反論をやめた。


「で?お前らは俺に何部に入って欲しい?」


大体俺に何か入って欲しい部活があるから押し付けたとかだろう。


「ボクシング部よ」


ボクシング部なんてあるのか。初めて知った。


「で、どうして??」


「誰かさんの許嫁があんたがボクシングやってるところ見たいんだって」


志歩が奈珠華の近くでそんな事をぼやいたのだろう。


というかなぜ俺がボクシングをやっていたのを知っているのか。


「んで、お前は気を使って俺にボクシング部入るように仕向けたと」


「そうよ」


ただのドSクソガキかと思っていたがそうではなかったらしい。


普通に友達思いの行動だった。


「それでどうするの?入るの?入らないの?」


「見学行ってみて決める」


「ここはこの流れででズバッと入部決断するところでしょ」


そうヘタレな回答をしたのだった。

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