第3話 呼び出し

おそらく私以外のこの国全員が待ち焦がれたであろう、竜王陛下の運命の番である姉、スカーレットと、レナルド竜王陛下の結婚式当日になった。


 私はもちろん、体調不良で欠席――したかったところだけれど、そんなわけにもいかず親族席に座ろうとして、呼び出された。

「妹様」

 侍女のダヴィに呼ばれて振り向くと、彼女はきらきらと瞳を輝かせていた。

「何かしら?」

 とても嫌な予感が胸の中で膨らむ。ダヴィがこの顔をする時、あの人が関わっているのは決まっている。


「スカーレット様が、妹様をお呼びです」

「……。それ、拒否――」

 私が首を横に振ろうとすると、すかさずダヴィに妹様は、姉想いじゃないんですね! と大きな声で喚かれたのでしぶしぶ、頷く。

「……わかったわ」

 


 幼い頃ならいざ知れず成長した私たちの間には、ほとんど交流が無かった。

 最初は、私も姉に会おうと試みた。けれど、姉に会いに行くたびに、あの美しくて恐ろしい人が姉にべったりくっついている。否、それだけなら良かった。姉自身も、竜王陛下にべったりと抱き着いているのだ。


 私は、なぜだか、それを見るのが嫌だった。

 ……本当に、なぜだかわからないけれど。


 それだけじゃない。姉は、竜王陛下がそばにいると、私をまるでないものかの様に扱った。いちゃつく恋人たちは得てしてそういうものなのかもしれないけれど。

 流石に、それが何度も続くと、会おうという気にすらならなかった。


 我が国の結婚式のしきたりに、結婚式当日は、新郎と新婦は結婚式まで会ってはならないというものがある。


 だから、今、姉の傍には竜王陛下はいないはず。

 それなら、会うのも少しは億劫ではない――かもしれない。


 新婦の控室の間に通された。衛兵に取次ぎを頼んで、許可が出たので、その中に入る。

 深呼吸を一つして、顔を上げる。するとその名の通り、黄みよりの赤い髪にその髪とお揃いの衣装を身に着けた姉が立っていた。

「……久しぶりね」

「そうですね。スカーレット様。この度は、ご結婚おめでとうございます」

「ありがとう」

 その後しばらく家族の物とは思えない、天気の話など、空々しい話をした後。

 ようやく姉は、憂いを帯びた表情で、本題を切り出した。

「ねぇ、あなた、この国をでるつもりはない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る