初ログイン
翌日の午前11時半頃。
今日の12時にFree Area Online……通称FAOのサービスが開始するので、いつもより早めの昼食です。
「お姉ちゃん、いよいよだね」
そう言う咲希の目は今現在これでもかと輝いてらっしゃる。
ちなみに昨日の寝る前も相当興奮してたっぽい。
「ふふ、そうだね」
「あ、お姉ちゃん。ゲームが始まったらすぐにフレンドになろうね。フレンドになればゲームの中でチャットできるし」
「フレンドってあのゲームだとどうなるの?」
「オプションにローカルフレンド申請ってのがあるらしくて、それ使えばリアルで距離の近い人とフレンドになれるんだって!」
「なるほど」
そんなこんなでご飯を食べ終えれば咲希は自分の部屋まで一目散。
「お姉ちゃん、早く早く!」
「はいはい、こけないようにね」
パタパタと駆けていく咲希を見送ってから自分の部屋に入り準備を始める。
ベッドの上に置いておいた機器をセットして、電源を入れて寝転んで装着すれば準備完了。
『先日ダウンロードした〈Free Area Online〉がリリース間近です。プレイしますか?』
おぉ、選ぶまでもなくお勧めされました。
昨日に引き続き最新の技術には驚かされてばかりです。
そのままFAOを始めると視界が待機画面から切り替わり、おしゃれな字体の白文字でタイトルが表示されます。
その下には現在時刻が秒単位で書かれていて、ちょうど12時の10秒前になるとカウントダウンが始まりました。
最初は普通に10、9……という感じだったのですが、7あたりから挙動がおかしくなり次第に色彩を増し賑やかになっていきました。
……うわ、花火まで打ち上がっちゃって。
しかし、ラスト3秒になると今までの挙動がピタッと止まり、なんと風船みたいに膨らみ始めたではないですか。
さっきまではただ賑やかなだけだったはずなのに、唐突の爆発宣言に内心ビクついてしまう。
そしてカウントダウンが0になると……
ポヒュウ……。
……へ?
え、あれ?
し、萎んだ……?
一瞬状況が理解できずに呆けてしまったが、何とか平然を取り戻す。
こ、これが運営の遊び心ってやつですか……なんとはた迷惑な……。
さて、気を取り直して先に進みましょう。
タイトル画面を抜けると風景が青々とした草木の茂る森の中へと変わりました。
私が今立っている場所は結構開けていて、木漏れ日の降る神秘的な感じになっています。中々に壮観な光景ですね。
『Free Area Online、通称FAOの世界へようこそ。早速この世界でのあなたの分身となるキャラクターを作成しましょう』
おぉ、フルダイブ型となるとアナウンスも直接脳内に語りかけてくるんですね……!
こ、こいつ、直接脳内に……!ってやつでしょうか。
なんて思っていると、目の前に昨日スキャンした基礎データ、超絶私似のマネキンもどきが現れ、その周囲の空中に様々な項目のプレートが展開される。
適当に弄ってみると、よく分からないことになって悲惨だったので、素直にリセットして髪色とかを変えるだけに留めることにしましょう。
本当はあんまりリアルの顔そのままはよろしくないんでしょうが、ネットで調べた感じだと二次元的な補正が入るらしいですし、下手に弄って化け物を生み出してしまってもアレですからね。
おぉ、髪型も結構種類豊富ですね……姫ロングってなんですかこれ。巫女さんみたいな髪型ですね。
まぁここはリアルと同じで腰くらいのロングでいいかな。
髪色は普通に黒で、目は……琥珀色で。なんか猫の瞳みたいでちょっと憧れあったんですよね。
一通りの設定を終えてキャラクターを見てみると結構いい感じの出来だった。
さて、保存を押してっと。
『次に種族を選択してください。種族によっては現段階のキャラクター体に補正がかかります』
種族……このゲームRPGらしいのでエルフとかですかね?
人間
ステータスに山谷無しに満遍なく成長していく。
他の種族より成長が簡単で早い。
リアルに一番近い状態でプレイできる。
獣人
計5種それぞれに際立った特徴がある。基本的にその分野以外は弱い。
狼:筋力。猫:敏捷。熊:体力。兎:器用。狐:知力。
キャラクターの頭部に獣耳が付与される。
嗅覚、聴覚に若干の補正がかかる。
エルフ
敏捷と器用と知力に優れるが体力と筋力が低く打たれ弱い。
遠距離タイプにおすすめ。
キャラクターの耳が長耳に補正される。
聴覚に若干の補正がかかる。
なるほどなるほど。ザ・テンプレって感じがする並びですねー。
やっぱり私も憧れが無いわけじゃないですし、選ぶとしたらエルフですかね……って、ん? 下の方に何か……あ、そうだ思い出した。
そういえばこれ以外にも『人外』っていうジャンルがありましたね。
昨夜調べてなんだそれって思ったやつ。まさか実際に実装されてるとは……。
好奇心に誘われてそれを選択してみると、山ほどの選択肢がズラーッと出現した。
えっと、どれどれ……スライム、ゴブリン……あ、クモとかもいるんですね。
サラッと見た感じ人外=モンスターみたいな感じですかね。
そして色んなサイトを見たので結構曖昧な記憶ですが、確かこの人外、進化の要素があった気がします。
スライムはキングスライムとかメタルスライムで、ゴブリンはオーガ? でクモはアラクネみたいな感じで。
私今、結構人外側に気持ちが傾いてるんですが、こういうのになった場合って他人との対話ってできるんですかね? うーむ、咲希とやるときに不便になりそうならやめておきましょうか……。
『人外を選択したプレイヤーの頭上には青いマーカーが表示されます。対話は選択した人外に声帯さえあればある程度は可能です』
うおぉ、こういうの教えてくれるんですね、この音声。
なるほど、プレイヤーかどうかの判別はつくってことですか。対話は選ぶもの次第……まぁ最悪チャット機能で代用できるでしょう。
となれば後はもう自分の好みで選ぶだけですね、
スライムは……慣れるのが大変そう。ゴブリンは乙女的に却下。クモとかもアラクネみたいなのに至るまでが……却下。
さて、どうしましょう。もうこのまま無難にエルフかなぁ……。
と、そこでふと一つの選択肢を発見する。
……ゾンビ? ゾンビ……ゾンビかぁ……。
正直ナシだとは思うが、人外の中でまともな人型はコイツしかいない。
いや、そもそも人型を求めるなら人外から選ぶなよ……。と言われているような気がしますが、進化という二文字が私の頭に刻みついて離れてくれないのです。
……もういいや、やっちゃえ!
『人外種が選ばれました。何らかの不利益を被る可能性があります。それでも選択されますか?』
『スポーン時、確率で部位欠損が生じます。その場合はゲーム内アイテムで修復するか、特定の種族進化を行うと自動的に修復されます』
確率で部位欠損……って手とか足が無くなっちゃうかもってことですか!?
ちょっと後悔してきたかもしれません……。
名前:
種族:ゾンビ
性別:女
称号:低位不死者
種族スキル
【低位不死者】【腐爛体】【HP自動回復】
【低位不死者】
日光ダメージ極大化。日陰で軽減。
光、聖系統魔法ダメージ4倍化。
夜間時、全ステータスに補正:小
闇系統魔法強化:小
闇系統魔法耐性:小
暗視能力付与。
麻痺、毒などの肉体系状態異常を無効化。
催眠、恐怖などの精神系状態異常を増幅。
食事、睡眠、呼吸不要。
【腐爛体】
ゾンビ特有の腐り爛れた肉体。
生ゴミ以下の最高に最低な香りを周囲に漂わせる。
体全体の強度が脆く、五感機能が低下する。
水分が無いので発火、引火しやすい。
【HP自動回復】
HPを継続的に回復させる。
回復量はスキルレベルに依存する。
わ、日光ダメージにさえ目をつむれば【低位不死者】強い……って【腐爛体】……ゾンビの嫌なところをこれでもかと詰め込んだような効果ですね……。
ゾンビのメリットとデメリットの飴と鞭で思いっきり引っ叩かれた気分です。
あと、【HP自動回復】があるのは回復系であろう聖属性の魔法が使えないからですかね? どっちにしろ有難いです。
……というか、【腐爛体】のせいで街にスポーンすると大ブーイングを受けそうなんですが。
これ、嗅覚が強化される獣人さんたちにとっては最悪ですよね……。
『人外が選択されましたので、スポーン先を通常用と人外系それぞれに用意された人外用のどちらか選ぶことができます。どちらにされますか?』
あ、そんなのあるんですね。
私としても出来る限り周囲からの
『人外用が選択されました。では次に初期スキルを2つまで選択してください』
そう言って目の前にいくつか選択肢が表示される。
うーん、とりあえずあって損のなさそうなものだけ選んでおきましょうか。
【体力活性】【筋力増強】
この二つの取ったスキルは俗に言うバッシブスキルというやつですね。こういうのはあって損は無いって咲希が言ってましたし、他に特にめぼしいものも無いので。
それでは〈決定〉っと。
『初期スキル選択を完了しました。最後にお名前を教えてください』
名前……やっぱりオンラインゲームですし、本名は絶対ダメですよね。
私の本名が
いい感じですね。可愛いですし。
『アリス……重複は確認されませんでした。名前をアリスに決定します。それではこちらが最終的なステータスになります。ご確認ください』
名前:アリス
種族:ゾンビ Lv.1
性別:女
称号:低位不死者
スキル
【体力活性 Lv.1】【筋力増強 Lv.1】
種族スキル
【低位不死者】【腐爛体】【HP自動回復 Lv.1】
見事なまでにゾンビ、ですね……。
まあ、出来る限り頑張りましょう。
そして、最悪の場合は咲希にすがりましょう。
昔からゲームに関してはあの子に頼めば何とかしてくれるという謎の信頼感があります。
『それでは、キャラクタークリエイトを終了します。キャラクターを保存し、メインサーバーへの接続を開始……』
な、なんか緊張しますね……。
『接続完了しました。これよりFAOの世界へ向かいます。……これから先、あなたを待ち受けるのはとても広大で自由な世界です。あなたは様々な未知と遭遇し、この広い世界を駆け抜けて往くでしょう。その道中に、山程の楽しみと幸があらんことを』
ゲーム開始の前口上でしょう。それを言い切ってから先程まで脳内に響き渡っていたシステムの音声が途切れ、視界に変化が訪れる。
迎えるは暖かな陽光、涼やかな風、石造りの街並み──ではなく、石で出来た墓の前を「ウォォ……」と
あっ、人外用ってそういうことですか……。
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