弱小領地の悪役貴族に転生したので最高に美人なヒロイン姉妹と革命開拓しようと思いますっ!〜前世の便利家電を魔法で再現してたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜
第8話 悪役貴族、モヒカン肩パッドを正装と偽る
第8話 悪役貴族、モヒカン肩パッドを正装と偽る
「一応言っておきますが、父上の自業自得ですからね。人の部屋から勝手に火炎放射ドライヤーを盗んだんですから」
「ははは、悪かったよ」
父上が重傷を負って帰ってきた。
しかし、それはゴブリンキングの罠によるものではない。
厳重に保管しておいた火炎放射ドライヤーを無断で持ち出し、使用したのだ。
そして、火炎放射ドライヤーが爆発した。
しかも
魔力駆動二輪車の下敷きになって、治癒魔法でも完治に時間がかかる複雑骨折をしてしまったのだ。
やっぱり父上にはモヒカンの被り物と肩パッドをプレゼントしよう。
やってることが完全に世紀末だ。
「まったくです。あなたはしばらくベッドで安静にしていなさい!!」
「は、はい、すみません」
俺に対してはけらけらと笑う父上だったが、母上の説教には逆らえないらしい。
「あ、そうそう。ゴブリンキング、いたぞ」
「そうですか」
「ちゃんと首も獲ってきた!! たまには父を褒めてもいいんだぞ!!」
「……凄いです」
「ちょ、それだけ!? もっとこう、何か無いのか!? 怪我をしてまで勝った父親にもう一言あってもいいんじゃないか!?」
「怪我は自滅じゃないですか」
でも、本当に凄いと思う。
父上は、アスランはゲームのシナリオを変えてみせたのだ。
ゴブリンキングと罠の存在を知っていても、ゴブリンキングはいわゆるボスキャラだ。
名前すら登場しないモブキャラの父上が勝利したのは、本当に凄いと思う。
「っと、それから今回のことを王城に報告しようと思うんだが、カリーナはどう思う?」
「……ふむ。そうですね、ゴブリンキングが本当にいた以上、何らかの異変が起こっているのかも知れません。報告はすべきでしょう」
何らかの異変。
やだなー、とても心当たりがある。
たしかゲームでは、魔王が復活したのはこの時期だったはず。
ゴブリンキングの発生は、間違いなく魔王の影響だろう。
「分かった。というわけで息子よ」
「なんです?」
「魔力駆動二輪車、修理してくれ!! 王都に手紙を送ったら、今回の一件はまず間違いなく謁見の命令が来るはずだからな」
「……まさか、あれで王都に向かうつもりですか?」
「……ダメ?」
「大騒ぎになると思いますよ、あんなもの見たら」
「そこをなんとか」
うるうると瞳を潤ませながら見つめてくる父上。
うっ。
どことなく前世で飼っていたハムスターを彷彿とさせる目だ。
ああいう目で見られると餌をあげずにはいられなくなるんだよなあ。
「母上が許可したら」
「カリーナ!! 一生のお願い!!」
「……確実に騒ぎになるでしょうね。そして、それを十歳の子供が作ったとなると、クノウに必要のない危険が及びます。許可は出来ませんね」
「な、なら、途中まで!! 王都に入る手前で降りるってのはどうだ!?」
「……それなら、まあ……大勢の人に見られない限りは、目撃者がいても噂程度にしかならないでしょうけど……」
「じゃあ決定!! クノウ、修理を頼んだ!!」
「分かりました」
長距離の移動に耐えられるよう、改良もしておこう。
造形魔法を付与した諸々の道具で以前よりも加工技術が格段に向上したのだ。
耐久性を上げつつサスペンションを取り付けたり、ゴムの代わりになりそうな素材を探してタイヤを作ってみよう。
◆
二ヶ月後。
父上の予想通り、王都から王城に来るようにとの旨が書かれた手紙が早馬で届いた。
この世界は連絡手段が限られており、王都からド田舎のドラーナ領まで手紙が届くのにかなりの時間がかかったらしい。
父上の怪我の具合ももうすっかり良くなっている。
……どうやらゴブリンキングの発生は、やはり一大事らしい。
手紙の内容は、詳しい話を陛下自ら聞くから登城しろというものだった。
俺は改良を済ませた魔力駆動二輪車を父上に引き渡す。
「おお、乗り心地が全然違うな!!」
「サスペンションを取り付けて、タイヤも作りましたから」
サスペンションはバネを作るのに苦労した。
しかし、苦労した甲斐もあってその効果は間違いない。
何より褒めて欲しいのは、タイヤだ。
俺はこの世界で、ゴムの代わりになりそうな素材を見つけたのである。
「このタイヤ? ってやつは、スライムで出来てるのか?」
「はい」
ゴムの代用品。それは、スライムだ。
どんなRPGでもゴブリン以下の雑魚として扱われるモンスターである。
奴らは倒すとスライムゼリーを落とす。
そのスライムゼリーに鉄粉等を練り込むと、ゴムのような質感の素材になるのだ。
「ついでに今回はデザインにも凝ってみました」
「あ、ああ、なんとういか、刺々しい?」
「魔物が出てきても轢き殺せるように、バンパーやタイヤの側面にトゲを付けました。ちなみにここのスイッチを押すと回転します」
しかも、この魔力駆動二輪車。まだまだ隠し機能が備わっている。
「ドラーナ領から王都まではかなりの悪路が続きます。なので木や岩などの障害物をぶった切る風魔法や道を整地する土魔法が自動で発動するようにしました。これで安全に王都まで行けます」
「す、すげえ!!」
ただ、色々と機能を載せ過ぎたせいで以前よりもスピードを出せなくなっている。
時速40km程度が最高速度だろう。
ハイスピードでブンブン乗り回したいであろう父上に申し訳ないので、更に雰囲気を出すためのプレゼントも贈る。
「父上、これをどうぞ」
「ん? これは、モヒカンの被り物と肩パッド?」
「これがバイクを運転するための正装です」
「そうなのか?」
「そうです」
勿論、大嘘だ。
ただバイクに乗ると「ヒャッハァーッ!!!!」しちゃう父上にピッタリな衣装を用意しただけである。
俺の嘘をあっさりと信じ込んだ父上は、モヒカンヘッドと肩パッドを装備し、魔力駆動二輪車改を乗り回し始めた。
ついでに森の方まで行って適当な魔物を轢き殺してきたらしい。
憐れ、試し轢きされた魔物たち。冥福を祈ってやらんこともない。
「こりゃいい!! スピードは少し物足りないが、それを差し引いてもあまりある快感だ!!」
「それ程ですの?」
「おう!! カリーナも乗ってみろ!!」
「い、いえ、私は遠慮――」
「いいからいいから!!」
アスランが母上を無理矢理バイクに乗せる。
……その後、まるで人格が変わったかのように見事なウィリーや変則的な運転を披露する母上であった。
どうやら俺の両親はすっかり魔力駆動二輪車改の素晴らしさに魅了されたらしい。
ただ、俺がモヒカン肩パッドが正装とか言っちゃったせいで母上までもが世紀末の住人になるとは思わなかった。
一応女性は身に着けなくて良いと言ったが、何故か名残惜しそうにする母上。
母親がモヒカン肩パッドで「ヒャッハァーッ!!!!」してる姿は見たくないよ!!
「よーし、これで王都まで行けるな!! クノウ、準備は済ませてあるな?」
「……え? 俺も行くんですか!?」
「ん? そりゃそうだろう。今回のゴブリンキングの一件は、お前がいたから解決できたんだしな」
「いや、それは流石に信じてもらえないんじゃ?」
ゴブリンキングがいることを知っていたとか、普通なら信じてもらえない。
下手したら魔物との内通を疑われる可能性すらある。
その旨を話すと、母上が頷いた。
「そうね。クノウがゴブリンキングのことを知っていたことは黙っておきましょう」
「え? でも、いいのか? もしかしたら報酬とか出るかも知れないぞ?」
「別に要らないです」
「クノウは無欲だなあ。ま、でもせっかくだし、お前も登城しろ。オレと一緒なら文句も言われん。お偉方に顔を覚えてもらって損はないからな。それに王都はいいぞー。美味いもんだらけでな。良いもん食ってるからか、どこを歩いてもばいんばいんの美女ばかりで――あっ」
父上が自分の失言に気付く。しかし、手遅れであった。
背後にはバイクに跨がり、アクセルをブンブン回しながら突撃準備を済ませている母上の姿が。
「ち、違うんだ、カリーナ。これは、そう!! 息子への性教育の一環だ!! そういう女の中には田舎者を騙そうとする悪い奴らもいるから、美人局には気を付けろという――」
「クノウは賢い子なので言わなくとも分かっています。――お覚悟を、あ・な・た」
「ヒエッ!!」
二人が仲良く鬼ごっこを始める。もちろん、鬼が母上だ。
「お兄様。お義母様とお父様、とっても仲良しですね!!」
「ウェンディ、あれはどちらかと言うと……いえ、何でも無いわ。貴女はそのまま大人になってちょうだい」
「うんうん。あっ、お土産買ってくるから、姉上は楽しみにしていてください。もちろん、ウェンディもな」
「ふふ、ありがとう」
「ありがとうございます、お兄様!!」
両親の仲良さげな様子を見ながら、ウェンディとフェルシィと俺は雑談に興じるのであった。
平和だなあ。
――――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント世界観設定
この世界は治癒魔法が発達しており、大怪我もすぐに治る。そのせいでまともな製薬技術、医療技術が発達せず、平均寿命は短い。
「治癒魔法が便利すぎる」「モヒカン肩パッドw」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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