弱小領地の悪役貴族に転生したので最高に美人なヒロイン姉妹と革命開拓しようと思いますっ!〜前世の便利家電を魔法で再現してたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役貴族、姉妹ができる





「は、話がある」



 夕食時、挙動不審な父上が唐突にそう言った。


 僕の名前はクノウ・ドラーナ。十歳。

 ガルダナキア王国の辺境にあるドラーナ男爵家の嫡男である。


 要するに貴族なわけだが、屋敷こそ立派なものの、男爵家なんてほとんど平民と変わらない。


 ましてやドラーナ男爵領は辺境オブ辺境のド田舎領地だ。

 ろくに開拓されておらず、街道だって整備されていないから人も来ない。


 そんな土地を治めているのが、僕の父ことアスラン・ドラーナであった。



「どうしたのですか? そのように改まって」



 母がよそよそしい父に首を傾げる。


 僕の母は同じく辺境を治める子爵家の長女で、父上とは政略結婚だ。


 しかし、夫婦の仲は良好。

 喧嘩したところを今まで見たことがないくらいのおしどり夫婦だった。


 今、この瞬間までは。



「その、実は、紹介したい子たちがいるんだ」


「……紹介、ですか」



 母の顔が強張る。



「まさかとは思いますが、また浮気したのですか?」


「ち、ちが、女の子だけど、そういう関係じゃない!!」


「……そうですか」



 実は父、一回やらかしている。


 まだ僕が生まれる前の話らしいが、父上は母上という婚約者がいるにも関わらず、仕事そっちのけで娼館に入り浸っていたとか。


 自分の父親ながら、正直凄いと思うね。


 いくら結婚までしていないとは言え、婚約者がいるのに娼館に通うとか普通はしないでしょうに。



「は、入りなさい」


「は、はい」


「し、失礼、します」



 父の一声で食堂に二人の少女が入ってきた。


 見たところ、姉妹だろうか。

 一人は僕よりも少し年上っぽくて、もう一人は年下っぽい。


 よく似た可愛らしい顔立ちをしているが、髪の色に少し違いがある。

 姉の方は白金色の髪をしており、妹の方は白銀の髪だった。


 いいなあ。

 僕は母上に似て黒髪だけど、母上ほど色艶が無いから地味なんだよね。


 ……そう言えば、この二人の女の子。銀髪の父上と髪の色合いが似てるなあ。 



「えっと、その、カリーナ」



 父上が申し訳なさそうに母上の名を呼ぶ。



「あなた、この子たちは?」


「その、えっと、エリスの娘で、オレの娘たち、です」


「……あ゛?」


「ひっ」



 母上が恐ろしい形相で父上を睨む。


 エリスというのは、たしか父上が若い頃に熱中していた娼婦の名前だ。


 ということは、つまり……。



「そ、その、えっと、で、デキてたみたい、です」


「……あなた」


「ひゃい!!」


「私とあなたがまだ婚約者だった頃、あなたは隣町の娼館に通っていましたね。ですが、それは私に魅力が無かったせいだと思って一度は許しました」



 静かに、まるで噴火前の火山のように母上が語る。



「しかし、そちらの娘二人。そう、妹の方です。その子の年齢は?」


「えっと、た、多分、十歳くらい、です」


「……そこの貴女たち」


「「は、はひっ」」



 母上が姉妹二人に話しかける。


 普段は優しいが、母上はマジギレすると本当に怖いからなあ。


 姉妹のうち、妹の方は完全に竦み上がっている。



「自分の正確な年齢は分かるかしら?」


「わ、私は十一歳です。妹は九歳、です」


「……そう、姉の方は問題ないわ。問題は妹の方よ!!」



 あ、そっか。



「アスラン。ねぇ、あなた? どうしてクノウよりも歳下の娘がいるのかしら? まさかとは思うけれど、私だけではなく、クノウを放って娼館に通っていたの?」


「そ、それは、その!!」


「通っていたの、と聞いているのよ」


「は、はぃい」



 まじかよ父上最低だな。



「……今すぐその二人を追い出しなさい」


「な、そ、それは待ってくれ!! その、この子たちの母親は、エリスが病で亡くなったんだ!! だから、その、うちで引き取ってあげたいと――」


「あ゛?」



 母上の一睨みでヒュッと息を飲む父上。


 それはそうと母上、とても怖いです。



「引き取るなど以ってのほかです。そもそも本当にあなたの子かも怪しい。娼婦は水商売。何人もの客と寝ているのですから、誰の子かも分からないでしょう。まったく親も娘も穢らわしい」


「お母さんの悪口を言わないで!!」


「こ、こら、ウェンディ!! ご、ごめんなさい!! 妹には言い聞かせますから!!」


「どうしてフェルシィお姉ちゃんが謝るの!! お母さんは私達のためにお仕事頑張ってたんだもん!!」



 ふむふむ。

 姉の方がフェルシィで、妹の方がウェンディか。


 ん? フェルシィ? ウェンディ?

 なんだろう、どこかで聞いたことがあるような無いような……。



 ――その刹那。



 歯の間に食べかすが挟まった時のようなの違和感が一気に膨れ上がり、僕の、の中で変化が起こった。


 同時に膨大な記憶が頭に流れ込んでくる。



「お、追い出すのだけは勘弁してやってくれ!!」


「いいえ、我慢の限界です。その子たちが出て行かないなら、私とクノウが出て行きます。このことは実家にもきっちり話しますから。行きますよ、クノウ。クノウ? クノウ!? 白目を剥いてどうしたの!? それはどういう表情なの!?」



 思い出した、全てを。


 フェルシィとウェンディ。そして、俺のクノウという名前。


 俺はこれらの名前を知っている。


 クノウ・ドラーナとして生まれる前の人生、いわゆる前世で知っている!!


 この世界は、俺が前世で何度全クリしてもセーブデータを消してやり直しまくっていたゲーム『ファンタジスタストーリーズ』の世界。


 フェルシィとウェンディはプレイヤーに絶大な人気を誇る美人姉妹キャラだ。


 そして、クノウはその二人を虐げる悪役!!


 今はまさに、シナリオ通りのキャラ関係となる一歩手前のイベント。


 この後、父上ことアスランの必死の説得で母上ことカリーナが渋々了承するのだ。

 だが、二人に待っていたのは虐げられる日々。


 これはまずい。とてもまずい。


 近い将来、ゲームの主人公がやってきてフェルシィとウェンディを助け出した後、裏で色々と悪事に加担していた俺は処刑される。


 それも結構雑に!! 開発陣にキャラデザを用意する余裕が無かったのか、たったの三文で死ぬ!!



――フェルシィとウェンディを助け出した。


――主人公あなたはクノウの悪事を暴いた。


――クノウは死刑となった。



 で、死ぬ!! フェルシィとウェンディというヒロイン二人を早急に仲間に加えるため、早急に俺が死ぬ!!


 あれ? でも待てよ? 別に悪いことしなければいいんじゃない? うん、そうだよな。それだけの話だ。


 大事なのは……。



「?」


「えっと……?」



 前世でめちゃくちゃ好きだったヒロイン(未成長)がいるということ!!


 これは、お救いせねば!!



「母上、少し落ち着いてください」


「な、何を……」


「良いですか、母上。悪いのは全部父上です」


「うぇ!?」



 俺の一言に父上が素っ頓狂な声を上げる。浮気野郎は黙ってろ。



「母上に注意されても娼館通いを辞めなかった。フェルシィとウェンディの二人は、悪いのでしょうか」


「……いいえ」


「なら、子供がデキてしまった二人の母親が悪いのでしょうか。僕はそれも違うと思います。二人の母親は、二人が大きくなるまで自分の身体を売って得たお金で育てた立派な人だと思います」


「そ、それは……」


「だから、悪いのは父上です。それに」



 俺は椅子から立ち上がって、ウェンディの方に近づいた。


 ウェンディが不思議そうに俺を見つめてくる。



「こんなに可愛いんですから、追い出すのは可哀想です!! 何より」


「な、何より?」


「俺は兄弟姉妹が欲しかったです!!」


「……」



 これは本音な。


 俺、前世でも一人っ子だったし。今も一人っ子だし。

 美人な姉妹ができるとか最高すぎる。



「悪いのは父上です。追い出されるべきは父上だけです」


「クノウ!? そ、それは、流石に……」


「くそったれ父上は黙っていてください。母上、どうか二人を、俺の姉として、妹として迎えてあげてください」


「……クノウ……」



 父上が「く、くそったれ……」と落ち込んでいるが、事実だからな。


 俺の必死の説得に、母上は溜め息を零した。


 どうだ?



「……はあ、これじゃあまるで私が悪者みたいじゃない」


「ということは!!」


「分かりました。二人をドラーナ家の養女として迎えます。ただし!!」



 母上がビシッとフェルシィとウェンディを指差して言う。



「男爵家の娘となる以上、二人にはどこに出しても恥ずかしくない令嬢になってもらいます。字の読み書きは無論、マナーに関しても徹底して教えます。泣き言を言ったらすぐに家から叩き出します」


「は、はい、ありがとうございます!!」



 目に涙を浮かべてフェルシィが頭を下げる。



「それと、ウェンディだったわね」


「……」



 母上に名前を呼ばれたが、ウェンディがそっぽ向いてしまう。

 自分の母親を侮辱したことを怒っているのだろう。


 大丈夫だ。



「貴女のお母様を侮辱したこと、心から謝罪します」


「……え?」


「クノウの言う通り、立派なお母様だわ。自分の身を切り売りして子供を育てるなんて、私には出来ないもの。頭に血が上って、酷いことを言ってしまったわ。本当にごめんなさい」



 ウェンディは何も言わない。だが、こくりと小さく頷いた。


 母上は良くも悪くも単純だからな。


 気に入らないものはとことん気に入らないが、一度でも懐に入れたら寛容な人だ。


 ゲームではアスランがやらかしていたこともあり、クノウと一緒に二人をいじめまくっているはずだが……。


 愛している息子の言うことなら不義の子でも受け入れてくれる辺り、根は良い人なのだろう。


 俺は笑顔でパンッと手を叩く。



「これで万事解決ですね!! よろしくお願いします、姉上。ウェンディ」


「は、はい、ありがとうございます、クノウ様!!」



 フェルシィが俺に頭を下げてくる。俺は笑顔で応じた。



「姉上。これからは姉弟妹かぞくなんですから、どうか俺のことはクノウとお呼びください」


「え、で、でも……」


「ほら、早く早く!!」


「ク、クノウ、くん……?」


「はい、何ですか? 姉上!!」


「ふふっ、あははは」



 フェルシィとウェンディが、ここに来て初めて微笑む。

 流石はヒロイン。笑顔の破壊力が半端ない。



「フェルシィ、ウェンディ……。良かっ――」


「あなたにはお話があります」


「あ、ハイ」



 その後、父上と母上が食堂から出て行った。


 翌日、家の庭でボロ雑巾のようにボコボコにされていた父上が発見されるのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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