第22話 キャンプしてたら無免許運転で人轢いちまったどうしよう……

「ただいまー!」


 俺はカジキを担いだままみんなのもとに帰ってきた。


「またなんか強そうな魔物獲ってきましたね」


「Sランクのキルブレードカジキって魔物みたいだぜ! 素手で釣ってきた!」


「Sランクの魔物倒したくらいじゃもう驚かなくなりましたよ」


 魔境じゃ日常茶飯事だもんな、Sランクの魔物倒すの。

 たまにSSランクのやつもいるし。


『我もたくさん釣ったぞ! 見てほら! すごいだろう?』


 零華が自慢げにバケツを指す。

 中には数種類の魚が入っていた。


 マゴチ一匹。

 カサゴ二匹。

 キスが七匹か。


 多いな。

 しかも全部ビッグサイズだ。

 俺が遠泳してたの一時間未満だぞ。


「これ全部お前が釣ったのか?」


『竿五本を放置してる間に穴釣りでカサゴを釣ったのだ!』


「スゲー! 天才! 俺よりうまいじゃん!」


「なぎさは一匹も釣れてませんからね」


「うぎぎ……!」


 事実陳列罪やめろ。

 悔し泣きで大洪水させるぞこんにゃろう。


「きゅい!」


 コンちゃんがドヤ顔でバケツ横の貝を指した。

 この貝はすべてコンちゃんが潮干狩りしたそうだ。

 小さな体で頑張ったのだろう。


「コンちゃんもスゲーな!」


 コンちゃんを撫でまくる。

 もふもふ~、もふもふ~。

 首と耳の後ろが気持ちいいか、そうかそうか!


「きゅへへ~」


「なぎさが遠泳してる間に私と龍之介たちでテント張っておきましたよ」


「おう、ありがとな! トリオ兄弟もサンキュー!」


 テント張れてんならもうメシにするか。

 燃えやすい木や植物を集めて、横島に火魔法で着火してもらう。

 上に網と鍋をセットする。


 マゴチは塩焼き。

 カジキは照り焼き。

 貝はバター醤油焼き。

 カサゴはから揚げ。

 キスは天ぷらにしよう。


 俺はちゃちゃっと魚を捌いて、それぞれ調理していく。

 カジキには鳥の照り焼き丼を作った時に余ったタレを塗る。

 カサゴとキスは衣をつけて油に投入。


「第一陣、カサゴのから揚げとキスの天ぷらできたぜ!」


 カサゴは二匹を七人分にカット。

 キスは一人一匹ずつだ。


『うまーい! カサゴとキス初めて食べたけど最高だなこれ!』


「安定のおいしさですね!」


「きゅ~」


 かじりつくなりみんなして頬をとろけさせる。

 俺も食べてみたが、どちらも絶品だった。


 外はカリっと、中はジューシーなカサゴのから揚げは噛むごとにうま味があふれてくる。

 キスはさっぱりとした白身にほどよく脂が乗っており、衣のサクサク感と合わさって超うまかった。


 量が少ないのが残念だ。

 この国の王都は海に面しているそうなので、魚市場でカサゴとか売ってたらたくさん買っとくか。


 そうこうしているうちにカジキがいい感じに焼けてきたので、照り焼きタレを塗る。

 マゴチはひっくり返して反対側も焼いていく。

 開いた貝にバターと醬油をかけると、香ばしい匂いが周囲に漂い始めた。


「うは~、いい匂いだな」


『うまそう! まだか? もう食べていい!?』


「早く食べたいです!」


「きゅい!」


「そう急かすなって」


 早く食べたいからって火力を強めればいいもんじゃないからな。

 俺は適切な火加減と加熱時間を見切ってから、それぞれ皿に取り出した。


 いっちょ上がり!

 うまいこと間違いなしだ!


「きゅ~~」


『うまい! うまいぞこれ!』


「おいし~! どれも絶品ですね!」


 マゴチは淡白な白身と塩味の塩梅がちょうどよく、貝はプリっとした触感とうま味にバター醤油の風味が合わさっていて最高だった。

 獲れたてで砂抜きしていないから少しじゃりっとする時もあるが、それを差し引いても充分うまい。


 メインディッシュのカジキの照り焼きは、身の中に凝縮された濃厚なうま味に甘辛い照り焼きがマッチしていた。


 こってりさがたまんねぇな~!

 食べる手が止まらねぇぜ!

 いくらでも食えるわこんなん!


「おかわりは照り焼き丼でどうぞ!」


『うおー! くれ!』


「私もおかわりー!」


「きゅーい!」


 照り焼き丼も当たり前のように大好評!

 我ながらナイスアイディアだ。


『うまかったな~!』


「私も大満足です~」


「きゅきゅきゅい」


 おかわり三杯食って堪能し尽くしたぜ。

 あ~、満腹天国。


「腹十三分目だ」


「限界越えてるじゃないですか」


 夕飯を済ませた俺たちは、ボドゲやら雑談やらしながら夜を過ごす。

 眠気が限界まで来たところで、俺とシロナは零華を枕にして就寝した。


 神獣を枕にできるなんて俺たちだけの特権だぜ。

 感触がたまんね~。

 俺はもっふもふの毛皮に包まれてあっという間に眠りに落ちた。


 そして翌朝。

 目が覚めると、シロナが俺の腕に抱き着いて気持ちよさそうに眠っていた。


「こん」


『目が覚めたか』


 先に起きていたコンちゃんと零華が小声で話しかけてくる。

 二人ともシロナを見てニヤニヤしていた。


 肌きれいだなー、シロナ。

 暇だからほっぺぷにぷにしたろ!

 もっちもちやんけ!


「ふえ……? おはようございますぅ」


 シロナが目を覚ます。


「おはよう、シロナ。腕見てみ?」


「え? 腕?」


 シロナはなんのことかわからない様子で目線を下に下げる。

 俺の腕に抱き着いていることに気づいた瞬間、茹で蛸のように顔を真っ赤にした。


「ふぁっ!?」


『随分と気持ちよさそうに寝てたが、腕枕のご感想は?』


「寝顔可愛かったぞ」


「きゅいきゅい~」


「ね、寝てる時に抱きしめちゃったのは私の意思とは関係ないからノーカンですっ! それより、お腹が空いたので朝ごはんにしましょうよ!」


 シロナは必死に話を逸らそうとする。

 俺たちはメシの間も、シロナが恥ずかしさでふにゃふにゃになるまでからかい続けたのだった。



「よーし、出発するか」


 俺たちはテントを片づける。


 目的地はこの国の王都だ。

 海沿いをこのまま西に進むとたどり着けるそうだが、それなりに距離があるらしい。


 というわけで、オフロード車を作ってみた!


「どうだ? カッケェだろ? これで森の中を突っ切るってワケだ」


『はいはいはい! 我が! 我が運転するっ!』


「んじゃ、操作方法教えるわ」


『はよ!』


 零華は持ち前の呑み込みの早さで、あっという間に車の運転をマスターしてしまった。


 俺たちはオフロード車に乗る。

 トリオ兄弟は大型バギーに乗り込んだ。

 ちなみに運転手はゴリマックスだぞ。


「おっしゃぁ! 森を突っ切って王都まで行くぜ!」


『出発進行~!』


「お~!」


「きゅ~!」


 アクセル全開!

 エンジンをうならせ車が走り出す!


「うは~。風が気持ちいい~!」


 俺は窓から身を乗り出して風を感じる。

 よい子のみんなは真似しちゃダメだぞ。


「悪い子のみんなも真似しちゃダメですからね!」


『オフロードがなんぼのもんじゃーい! 我の超絶ドライビングテクを見よ!』


 零華は悪路にもかかわらずドリフトしてみせたり、地形の起伏を利用してジャンプしたりする。


「うひゃー!? 前前前! ぶつかるー!?」


「きゅー!?」


『大丈夫だ。問題ない』


 ジャンプ先に密集した木々が!

 頼んだぜ、龍之介!


「ウキッ!」


 バギーに乗った龍之介が刀を振るう。

 見事な居合で木々が細切れになった。

 ついでに横島の魔法でキラキラな演出が入る。


『ほらな。問題なかっただろ?』


「運転には問題ありますけどね!」


『かっ飛ばしていくぜ~! しっかりつかまってろよ!』


「スピード! スピードこそ正義!」


「ぎゃ~!?」


「きゅあーっ!?」


 最高速で崖から飛び出す。

 零華は魔法で氷の道を作り、衝撃を殺しながらきれいに着地した。


「『ヒャッハー!!!』」


 車はなおも最高速度で進む。

 俺がおだてて零華がさらに調子に乗った運転をした結果、森の中に建っていた家屋に激突してしまった。


「『ヤバぁぁぁぁぁい!? 人が倒れてるぅぅぅ!?』」



 ヤッベェよ! どうしよう……。

 無免許運転で人轢いちまったぁ……!?


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