第20話 サカバンバスピス食べてみた!

わらわがどうやって侵入したのか疑問に思っとるようじゃな!』


「侵入したって自覚があるなら出て行ってくれませんかね」


『嫌じゃが?』


「嫌じゃがじゃねぇんだが?」


 なんでコイツ不法侵入してるのに偉そうなんだよ。


わらわをつまみだしたければやってみろ! 盛大に暴れてやるぞ?』


 コイツこんなでも実力だけは本物なんだよな。

 なおさらタチが悪いわ。


「諦めるからせめてパスワード突破した方法だけ教えてくれ。対策するから」


わらわの思考トレースの前では対策など無意味じゃ! わらわは他人の性格・思考パターンを完全コピーできるからな! お主がどんなパスワードに変えようとどこへ逃げようと何もかもが手に取るように分かるのだ!』


「どこまでもキモいやつだな、お前」


『一生死ぬまでわらわから逃げられると思うんじゃないぞ』


 怖すぎるだろ! 死ぬまでストーキング宣言されたんだが!?

 俺はもう無理だから、せめてみんなは防犯対策してくれ。

 俺みたいに怖い思いをしないためにも頼む。


『あ、そーいえばアイスはわらわがすべて食ったからな! 美味じゃったぞ!』


「目ん玉からドライアイス食わすぞテメェ」


 なぜかドヤ顔で高笑いした邪竜ちゃんは、意気揚々とみんなのもとへスキップしていった。

 ……そうだ、いいこと思いついた。

 今度、激辛アイスを冷蔵庫に仕込んどこう。

 食って悶え死ね。


『おい人間ども! わらわを崇め奉るがいい!』


 リビングのほうから邪竜ちゃんの声が聞こえてくる。

 邪竜ちゃんが偉そうにふんぞり返りながら冒険者組にダル絡みしていた。


「星宮さん、誰です? この子」


「もしかしてお仲間ですか?」


「実はこの子もとんでもなく強かったり……?」


「そいつは邪竜バハムートだ」


『本物ではあるぞ。我が保証する』


「「「えええええぇぇぇええええええええええええええええ!!!?」」」


 冒険者組が一斉に驚く。

 そうだよな、お前ら『邪竜バハムートは神獣』ってことしか知らないもんな。

 どんなやつで何をしてるのか知ったら幻滅するぞ。


『ふっふっふ。そうじゃ。もっと驚け。そしてわらわを崇めよ!』


「星宮さんマジか……!」


「バハムートまで手なずけちゃったんすか……!」


「すごすぎますよ、なぎささん……!」


『……あれ? なんでなぎさが褒められてるんじゃ?』


 冒険者組が俺を尊敬のまなざしで見つめてくるが、これに関しては不名誉でしかねぇんだ……!

 「邪竜を従えし者」みてぇな称号は死んでもいらねぇ!


「あと勘違いしないでくれ。コイツは断じて仲間ではない。たとえ俺がはりつけにされても仲間だとは認めない!」


「世界が滅ぶか邪竜を仲間にするかの二択しかなかったら、即決で世界を滅亡させます」


『強さしか取り柄のないクソキモカス野郎だぞ』


「きゅう。きゅきゅきゅい!」


「「「そこまで嫌われるって何やらかしたんだ……」」」


「不法侵入、窃盗、器物損壊、恐喝は確実ですね」


『我は三百年ストーキングされ続けてるぞ。最近みんなもターゲットにされてしまった』


「人ん家の洗濯機に勝手に入るし、換気扇から侵入してくるし、さっきは冷蔵庫の中に入ってアイス盗み食いしてたぞ」


「「「えぇ……」」」


 冒険者組はドン引きした様子で、邪竜ちゃんに軽蔑の目を向けた。


「これを崇めるくらいなら死んだほうがマシだな」


「もう神獣って呼ぶのやめようぜ」


「関わりたくないタイプですね」


「俺たちの苦労を分かってくれたか……! コイツは五百年間ずっと幼稚園に通い続けてるレベルのやつなんだよ」


『嬉しいことを言ってくれるではないか! そうじゃよな! わらわは子供から好かれるような立派なお姉さまじゃからな! これを機に保育士の仕事に応募してみようかな~!』


「いや、園児のほうな」


『留年とかいうレベルじゃないじゃろソレ!? わらわの評価低くない!?』


「高くなる要素ないだろ。少しは成長してくれ」


わらわはすでに生物として完成され過ぎとる不変な存在なんじゃが?』


「マジかよ一生園児のままじゃん」


 せめてちょっとは成長してくれよ。

 幼稚園卒業できたら善悪の区別くらいつくようになるだろ。

 ……クソ。

 かくなる上は勝負を挑むしかないか。


 邪竜ちゃんは殺し合い的なガチバトルであれば最強クラスだが、ボドゲを始めとしたお遊び系はクソザコイモムシだ。

 性格・思考トレースで相手の考えを読めるのに、変にプライドを持っているせいで正々堂々戦うことしかできない。

 その結果、三百年間も零華に負け続けるという負けヒロインもびっくりの負けっぷりを発揮している。


 こちらが逃げられないのであれば、邪竜ちゃんの心をへし折って退散させるまでだ。


「きゅう!」


「コンちゃんがお前と神経衰弱タイマン勝負をしたいんだとよ。まさか伝説の神獣様が逃げたりしねぇよなぁ!?」


『ハァ~~~!? わらわが日和るわけないじゃろ! 余裕で勝って実力見せつけてやんよ!』


 こうして始まった二人の勝負は、コンちゃんの圧勝で終わった。

 驚くほどあっさりと邪竜ちゃんは負けてしまった。


「五百歳児が二歳児にボコボコにされててワロタァ!」


「勝負する前はあんなにイキってたのにダサいですね」


『五百年も生きてるからボケが始まっちゃったのかな?』


「こーんこん」


『うぅ……みんなしてわらわをいじめおって……!』


 俺たちは邪竜ちゃんがッ! 逃げるまで(言葉で)殴るのをやめないッ!

 たとえ世間から幼女をいじめるクズ集団だと認識されても、邪竜ちゃんを追い払うためなら躊躇はしないッ!


『次は負けないからなぁ! うわーん!』


 邪竜ちゃんは大泣きしながら逃げていった。

 ……ふぅ、これで二、三日は平穏な日々が訪れるな。


「いろいろと衝撃的過ぎたな……」


「あれが邪竜バハムートかぁ……マジかぁ……」


「ちょっと脳が理解を拒むレベルですね。知りたくなかった事実ランキング第一位ですよ、余裕で……」


 ……あ~、俺もどっと疲れが押し寄せてきたな。

 気分転換に鼻歌でも歌うか。


「サカバンバンバスピス。サカバンバンバンバスピス。サカバンバンバンバンバババババ~ン」


「……」


「……」


「……」


「サカバンバンバ」


「無限ループやめろ。なんです、その歌は」


「サカバンバスピスの歌だ。俺が作った」


「それ魔境にいますよ」


「え!? いるの!?」


「なんなら私の【アイテムボックス】にサカバンバスピスの鮮魚ありますよ」


「マジで!? 見たい!」


 一時期ネットで馬鹿みたいに流行ったあの魚を生で見れる日が来ようとは……!

 この世界のサカバンバスピスも何も考えてなさそうな表情してるんだろうか?


「よかったらサカバンバスピスあげましょうか?」


「いいの!? くれ! ありがとう!」


「いろいろとお世話になったお礼です」


 うおおおおおお!!! やったぜ!

 俺はサカバンバスピスの鮮魚を手に入れた!


 ので、煮つけを作ってみた!


 サカバンバスピスはかなり骨の部分が多くて可食部の割合は少なめだったが、サイズがサイズだけに量はそれなりにあったぞ。

 三メートルほどのデカさであの虚無顔はインパクトありすぎだろ。

 シュールすぎてクソ面白かったぜ!


 作った煮つけのほうは、意外にもうまかった。

 サカバンバスピスってまずそうな見た目してるが、意外といけるもんだな。

 ちゃんとみんなからも好評だった。


「それじゃあ、俺らはここいらで帰らせてもらうぜ」


「これ以上迷惑をかけるのも気が引けるしな」


「なぎささん、それからみなさん。短い間でしたがお世話になりました!」


「「お世話になったっす!」」


「おう! ここにはもう二度と来るんじゃねぇぞ。邪竜ちゃんに死ぬまで粘着ストーキングされることになるからよ!」


「怖っ!? 死ぬまで!?」


「了解です! 魔境に来てもこのエリア周辺には立ち入りません!」


「肝に銘じておくっす!」


 俺たちは冒険者組を見送る。

 彼らの姿が見えなくなったところで、俺たちはそそくさと旅行の準備を始めた。


 邪竜ちゃんを追い払った直後だからな!

 平穏に旅行するなら今しかない!


 邪竜ちゃん撃退後に旅行しようと前もって話し合っていた俺たちは、あっという間に準備を終えた。


「行くぞ、海!」


『海鮮食べ放題するぞ~!』


「バカンスを楽しみましょう!」


『きゅう!』


 さあ、旅行だ!


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