第15話 邪竜ちゃんがストーカーと化した件

 晩メシの麻婆豆腐を済ませた後。

 俺たちは露天風呂に浸かりながら雑談していた。


「とんでもないやつだったな、邪竜ちゃん」


「まさか伝説の神獣がポンコツワガママ犯罪系幼女だったとは思いもしませんでしたよ」


『なんか……我との因縁に巻き込んでごめんな』


 零華がシュンとした様子で謝ってきた。


「零華が謝ることないですよ!」


「そうだぞ。ストーカーしてる邪竜ちゃんのほうが悪いんだし」


「それより楽しい話をしましょうよ! ほら、私たちってお互いの昔のことほとんど何も知らないじゃないですか。そこらへん掘り下げましょう!」


「おっ、いいなそれ!」


「きゅ……きゅあ……」


 雑談テーマが決定される。

 「ボクはあの地獄みたいな生活を思い出したくない」と切実な様子で伝えてきたコンちゃんは、聞き専を務めることになった。

 コンちゃんの過去については何も触れないでいてあげよう。

 俺は固く決意した。


『なぎさは前の世界でどんなことしてたの?』


「俺はな~、楽しく暮らしてたぞ!」


「でしょうね。具体的にどんなことしてたんですか?」


「飲食店で中華鍋振り回してたぜ! 後はフィールドワークで生物採集とかプラモ集めしたりとか、とにかく好きなことやりまくってたなぁ~」


「なぎさらしい答えですね」


『今とあんまり変わってないんだな』


 やりたいこととか好きなこととかはその時々で変わるけど、根っこはいつも不変だぜ。

 俺は楽しく生きるって決めてるんだ。

 犯罪犯したり公共の福祉に反したり、悪いことしない限り人は自由だからな!


「零華は今までどんな生活してたんだ?」


『我も割と気分屋だな。普段は適当に魔境の中で暮らして、暇になったら人間の街に遊びに行ったりしてたぞ』


「ゲートボールしてたり意外と社交的なんですね。零華って」


『実は一時、人間の世界でいろんな仕事してたこともあるぞ! 我は意外と社会経験豊富なのだ! ……まあ、人間社会で暮らしていた一番の理由はバハムートストーカーから逃げるためなんだけどな……』


 切実だなぁ……。


『……会社にバハムートが突撃してきた時に、逃げるのは無意味だって悟ったよ。思い出したら気分悪くなってきた……』


「会社に突撃て。業務妨害までしてたんですか」


 邪竜ちゃんのやつ、思ってた以上にストーカーしてたんだな……。

 零華が本当に苦しそうだったので、俺は急いで話題を変えた。


「次はシロナの番だぜ! 生前何してたんだ?」


「私は冒険者をしていましたね。これでもソロでAランク冒険者まで登り詰めたんですよ。……最終的にショボ死してレイスになっちゃいましたけど」


「へ~、冒険者か~。やっぱ魔物を倒してクエストクリア! みたいなことしてたの?」


「概ねそんな感じです。冒険者の仕事は他にもいろいろありますけど、魔物を倒したり魔物素材を納品したりといったのが主ですね」


「ふ~ん。結構楽しそうだな」


 まっ、俺は冒険者にはならないけどな。

 決まったクエスト内容をこなすより好き勝手に動き回る方が好きだ、俺は。


「ところで、この前に話した旅行の件どうするんですか?」


 シロナが尋ねてくる。

 あー、それな、一つ懸念点があるんだよ。


「街に神獣連れて行ったら絶対国が放っておかないと思うんだが、その辺はどうしようかなって。求めていないタイプの厄介ごとに関わるのは嫌なんだよなぁ」


『あ、それなら大丈夫だぞ』


「そうなのか?」


 零華は意気揚々と説明してくれた。


『我が昔、しつこく勧誘してくるなら国を滅ぼしちゃうかもしれんぞ? おおん? って国王を脅したから、むしろ我がいたほうが声をかけられないのだ』


「なるほど! キャッチ避けになるのか!」


「ワードチョイスのせいで急に話がスケールダウンしましたね」


 それなら好都合だ。

 余計なことを心配する必要がなくなる。

 楽しいことだけに全集中できるぜ!


「んじゃ、今度遊びに行くか! みんなでやりたいこと挙げていこうぜ~! 俺は観光したい!」


「はい! 夏なので海に行きたいです!」


「海いいな! 海鮮食べてぇ!」


『我もなぎさの海鮮料理食べた~い!』


「きゅう~!」


「んじゃ、海行くのは確定な!」


 俺たちが旅行トークで盛り上がっていると、不意に視線を感じた。

 みんなも気づいたようで、話を続けながらも静かに周囲を探る。


 少し離れた茂みの中。

 木の裏から何者かがこちらをじっと見ていた。



 よく見たら、覗き魔の正体は邪竜ちゃんだった。

 ……なぁ、邪竜ちゃんがガチのストーカーと化しているんだが、誰か助けてくれ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る