俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。

のんびりとゆっくり

第1話 俺は先輩に恋人を寝取られた

 俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。


 同じクラスの池土(いけつち)すのなさんと付き合っているのだが……。


 クリスマスが近づいてきたある日のこと。


 放課後、すのなさんに、校舎の外れに呼び出された俺。


 その俺の前で、ありえない光景が展開されていた。


 学校一のイケメンである先輩とすのなさんが手をつないでいる。


「この男が島森?」


「そうです。先輩。島森くんです」


 イケメン先輩は、すのなさんの言葉を聞くと、


「よく来てくれたね、島森くん」


 と言ってくる。


 イケメン先輩とすのなさん。


 二人はいったいどういう関係なんだ?


 すのなさんと手をつないでいいのは俺だけのはずなのに……。


 まさか、すのなさんはイケメン先輩に浮気をしているのでは?


 いや、たまたま手をつないでいるだだけだ。


 浮気ではない。


 そう信じたい。


 俺の心の中に様々な思いが浮かんでいると、


「それではきみに最高のショーを提供しよう」


 とイケメン先輩は言う。


「最高のショーですか?」


「きっときみも気に入ってくれるだろう」


 イケメン先輩はそう言った後、すのなさんを抱きしめる。


「すのな、好きだ」


「わたしも先輩が好きです」


 抱きしめ合い、重なり合う唇と唇。


 イケメン先輩と俺の恋人であるはずのすのなさんが……。


 俺は呆然として、しばらくその場を動くことができなかった。




 やがて、二人は唇を離し、俺の方を向く。


 今は抱き合ってはいないが、手は固く握り合っている。


「すのなさん、こ、これはいったいどういうこと?」


 俺は少しドモリながら聞く。


 すると、すのなさんは、


「この状況を見てもわからないの?」


 と憐れむように言う。


「わ、わからない……」


 俺はそう返事をする。


 いや、この状況を見て、何もわからない男ではない。


 俺の恋人であるはずの女性が、浮気をしている。


 でも俺はそれを認めたくはなかった。


「わからないのであれば、もう一度教えてあげましょうか? ねえ、先輩」


 甘えた声で言うすのなさん。


「どうやら一度ぐらいでは状況を把握できない鈍感な男のようだね」


 イケメン先輩は、俺をあざ笑いながら、すのなさんを抱き寄せる。


 そして、


「俺とすのなはこういう関係なんだ」


 と言うと、すのなさんの唇に唇を近づけていく。


 やめてくれ!


 俺は心の中で叫ぶ。


 しかし、その願いもむなしく、唇と唇は再び重なり合っていく。


 なんで、なんで、イケメン先輩と……。


 俺は全身の力が抜けていくような思いがした。


 二人は、しばらくの間、唇と唇を重ね合っていた。


 幸せそうだ。


 もし、俺がすのなさんと何の関係もない人間だったら、こうしていても、ただうらやましいと思っただけだと思う。


 しかし、俺はすのなさんの恋人。


 つい一週間ちょっと前までは、ルインで愛のやり取りをしていた


「海定くん、好き」


 と送信してくれていた。


 それなのに、なぜこんなことになってしまったのだろう……。


 そう言えば、この一週間ほどは、ルインでもそっけない対応しかしていなかった。


 この一週間で、心が変化してしまったというのだろうか……。


 イケメン先輩は、すのなさんから唇を離すと、


「きみは、すのなの恋人だったそうだね」


「そ、そうですけど。いや、『恋人だった』ではなく、今でも恋人なんですけど」


 俺は涙が出そうになりながらも、なんとかそう言った。


 イケメンであろうが、先輩であろうが関係はない。


 すのなさんは俺の恋人であって、先輩の恋人ではない!


 そう強く思うのだが……。


「きみは今の状況が全くわかっていないようだな」


 いちいち腹が立つような言い方。


「今の状況と言いますと?」


「すのなは、きみに愛想をつかし、俺のものになったということよ。もう二人だけの世界にも入っている。彼女は俺に夢中になっているのさ」


「二人だけの世界、先輩に夢中……」


 俺にとっては信じられない言葉の連続だ。


 すのなさんと二人だけの世界に入っていけるのは俺だけ。


 夢中になっていいのは俺にだけ。


 それなのに……。


 俺は心が壊れていくような思いがしてくる。


「なあ、俺に惚れているんだろう?」


 俺は、


 すのなさん、先輩に惚れているなんて言わないでほしい!


 好きだなんて言わないでほしい!


 と願った。


 しかし……。


「わたしは先輩のことが大好きです、すべてを捧げてもいいくらい好きでたまらないのです。もう島森くんのことなどどうでもいいです。先輩ただ一筋なんです」


 すのなさんから出た言葉。


 俺を苗字で呼び、憐れむように笑っている。


 その言葉は、俺の願いを粉々に打ち砕いてしまった。


 どうして、どうして……。


 俺の目からは涙が溢れ出してきた。

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