第26話 秋の交流会(1)


 秋の交流会――とは。

 各国の王侯貴族が通うサービール王国の王立学園には春と秋に大がかりな交流会がある。

 ただし、一年生が参加するのは秋の交流会から。

 なぜ一年生に春の交流会への参加が不可かといわれれば、他国からの留学生への配慮である。

 私のように長い間サービール王国に滞在している者はともかく、夏頃までは生活環境の変化に戸惑う者が大多数。

 自国の貴族であっても、ぬるま湯のような中等部から上がったばかりだと突然の高等教育や課題の倍増具合に慣れるのが大変。

 なお、そんな中でも二ヶ月近く体調不良で休学許可が出る私は座学学年首席の座を掻っ攫った。

 うふふ、おかげさまでサービール王国の貴族の皆様にものすごく睨まれました。

 だって男女混合の順位でも首席でしたので。

 高等部で初めての大きな試験で一番になれたのは、故郷のお父様たちに胸を張って報告できる!

 でも、スティールが来年留学してくるのなら、姉が優秀だとハードル高いかしら?

 

「姫様、噴水を確認してまいりました。祝石ルーナができておりましたよ」

「え、本当に!?」

 

 コキアにカジュアルドレスを着つけてもらっている最中、ハゼランがハンカチに包んだ祝石ルーナを見せてきた。

 薄いピンク色のハンカチに載せられた、ラウンドブリリアントカットのアクアマリンのような祝石ルーナ

 綺麗……。

 

「お持ちになりますか?」

「ええ、そうね。今の時期はブタクサの花粉が漂っているもの」

 

 花真かしん王国ほどではないけれどサービール王国にもブタクサがちらほら……あるんだよねぇ……。

 手に取って祝石ルーナを使ってみると、体が膜に包まれる感じがする。

 

「いかがですか?」

「ええ、見た目は変わらない?」

「はい。問題は祝石ルーナを身に着ける術がない――でしょうか?」

「ネックレスに加工するには一時間はいただきたいですね」

「うーん……じゃあ、コキア、お願いできるかしら?」

「かしこまりました。すぐに作業に移ります。ハゼラン、姫様の準備の続きを頼みますね」

「わかりました。さあ、姫様! ニグム様からいただいた髪飾りを着けましょうね!」

「え、ええ……」

 

 パステルカラーのオレンジのカジュアルドレスに、フラーシュ王国の国花、フラーシュの花を模した髪飾りを着けられる。

 フラーシュの花はコスモスに似た花。

 華やかで可愛い。

 

「姫様の淡いベージュピンクの髪によく映えますね」

「そ、そうかしら。いえ、まあ、あの……ニグム様が私に合う、と言ってくださるのなら、まあ……」

 

 お洒落に関して自分の感覚を信じられないけれど、ニグム様とコキアとハゼランがそう言うのならそれを信じる。

 姿見を見ると、確かに可愛くなってる、と、思う。

 

「姫様、ニグム様がお迎えにいらっしゃいましたよ」

「え!? は、早くないですか!?」

「ふふふ、早く姫様にお会いしたかったそうですわ」

 

 屋敷のメイドに呼び出され、応接室に向かう。

 あああ、緊張する……と、思いつつハゼランが応接室の扉を開く。

 ソファーから立ち上がったニグム様は、いつも下ろしている髪をオールバックに整えた洋装。

 洋装というか、中央部文化圏の装い。

 あまりにもスマートに着こなしていてカッコいい。

 

「フィエラ」

「はあっ……!? お、おは、おはようございます……!!」

「おはよう。フィエラが選んでくれた礼服を着てみたが、妙なところはないだろうか?」

「え? ええ……どこも変なところはございませんが……」

「本当か? アリヌスが自信がないと落ち込んでいて、直せるのなら直せる時間がいいかと――」

「ああ、それでこんなにお早くいらしたのですね」

 

 ニグム様の後ろにいる老人執事がペコペコされる。

 中央部の礼装が不慣れで心配だったということらしい。

 ハゼランの方を見て、確認してあげるよう促す。

 

「はい。問題はないと思います」

「ありがとうございます」

「本当に申し訳ない。アリヌスも中央部の装いは勉強したらしいんだが」

「ええ、完璧です。フィエラシーラ姫様と並んで歩かれたら、皆様の羨望の眼差しを独り占めでございますよ!」

「そ、それは……!」

 

 それはちょっと、微妙。

 私は恥ずかしいから、目立ちたくない。

 

「そういえば、学年首席おめでとう、フィエラ」

「まあ、四属性の幻魔石! しかもこれは――ランク4の幻魔石ですか!?」

「ああ。俺は五十八位とまったくダメだった。君の一位を祝して……受け取ってくれ」

「ありがとうございます!」

 

 箱に入った手の平サイズの大きなランク4の幻魔石!

 すごい、嬉しい!

 普通の店で購入できるのはランク3まで。

 ランク4~6は王族の城や貴族の屋敷、幻魔神殿のご神体、研究用など。

 なかなか手に入りづらいのに、まさか四属性を揃えていただけるなんて!

 

『やー! フィエラシーラ姫~! わいからも祝福を贈るで! おめでとうやで!』

「フラーシュ様! ありがとうございます!」

 

 ニグム様の肩に現れるフラーシュ様。

 あああああ、もふもふが飛び込んできてくださった!

 幸せ! もふもふ! 祝福ありがとうございます!

 肉球むにむに……いいいいい……!

 

「いいのか? フラーシュ」

『まー、今回はご褒美やで』

「ありがとうございます! フラーシュ様のもふもふ、ありがたいです!」

 

 ニグム様にエスコートされながら、ソファーに座りフラーシュ様のもふもふを堪能する。

 本当に最高。幸せ。フラーシュ様ならカジュアルドレスに毛もつかないし、いくら撫でてもアレルギー反応も出ない。

 最高でしょう、もう!!


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