第13話 休学明け(2)
あ、この『幻魔石採集、ランク5の幻魔石を発掘する』っていうのも面白そう。
まだまだ勉強不足だし、帰りに図書室で幻魔石についての書籍を借りてこようっと。
「フィエラシーラ姫」
「うわ!?」
カーテンが開く。
顔を上げて声のした方を見上げると、なんとフラーシュ様を肩に載せたニグム様。
ものすごくムッとした表情をなさっている。
な、なになに? 私なんにも悪いことしていないはずなんだけれど!?
「転んで怪我をしたと聞いた。女に嫌がらせをされたんじゃないんか?」
バレてーら。
じゃ、なくて。
「机の脚に躓いただけですわ。二ヵ月も引きこもって休んでいたんですもの。すぐに人様を悪しきように言ってはいけませんわ」
「しかし……さっき俺のところに来た女生徒がフィエラシーラ姫のことを貶していたぞ。なにもないところで転んでいてどんくさい、だの、足をかけられて転ばされたのに、なにも言い返さない女は王太子妃には向いていないだろう、だの」
「ま、ま、まあ~~~~」
せっかくフォローしたのに台無し~~~!
いや、言い方的に何人かの女性が告げ口しているのかな?
足の引っ張り合いと貶し合いと他人下げしまくっているのか。
「目撃者がいるのでしたら隠している意味はなさそうですわね。ですがユーフィアがなにかするつもりのようですから、私たちはなにもする必要はないでしょう。ニグム様には、ご不快な思いをさせてしまったようですが……」
「ああ、とても不快だった。ああいう他人を貶めて自分がいい格好に見えると思っているような頭の弱い女は視界に入れるのも、な!」
ああああ、イライラを隠しもしない。
でもそのイライラを私に向けられましても~。
と、思ったらニグム様が私の横、ベッドに腰かける。
顔が、急に近……!?
「あ、あ、あ、あのあのあの!?」
「君がそんな頭の弱く、心の意地汚い女に傷つけられるのは許せない」
空気が熱いのに、冷たい。
肌がビリビリする。
本気で怒っているのが伝わってきた。
ニグム様は、本当に私を心配してくれるんだ?
頬に触れる指先に、恐る恐る指先を掴むと険しい表情がゆっくりと和らいでいる。
私の顔をジッと見つめてくる、視線が熱い。
心配してくれている。
私を貶されて、悔しくて怒ってくれている。
「……あの程度で私は傷つきませんよ」
「だが怪我をしたのだろう?最初は軽い怪我かもしれないが、こういうのはエスカレートしていく。君が心配だ。……正式に俺の婚約者になってほしい。俺に君を守らせてくれ。頼む」
手を握られて、真剣な面持ちで再求婚。
驚きがないのが驚いてしまった。
そういう雰囲気、熱が伝わっていたからだろうか。
でも、わかるのに、困惑した。
「私、ニグム様に好かれるようなことをした覚えがないのですが」
「フラーシュを撫でる姿が可愛かった」
「え」
「研究する姿が、頑張り屋で少し危なっかしくて、応援したくなる。俺の国にいる寄生虫のような女と違っていて、自立していて、家族思いで、無気力な俺と違って夢があって羨ましい。君の夢を手伝えれば、俺にもなにか夢ができるような気がした。生きていくために努力をしていて尊敬している」
次々出てくるニグム様の気持ちに顔がどんどん熱くなり、目を見開いて信じられないと彼を見つめた。
でも、あの反抗期っぽい彼が柔らかく微笑んできて恥ずかしくて涙が滲んでくる。
私はただ、自分が生きやすく生きられるために故郷を捨てたような自分勝手な女なのに。
いや、帰れるものなら帰りたいと思っているけれど。
そういう私の気持ちも全部汲んだ上で十六歳のニグム様がそう言ってくださっているのか。
そこまで、私を過大評価してくれているのか。
「……わ、私、やっぱりそこまで言っていただけるような人間ではないと思っているのですが」
「自己評価が低いな」
「だ、だって……」
顔を覆う。
右手はニグム様に捕まったまま。
でも、仕方なさそうに笑われてもうどうしたらいいのか。
「もうすぐ夏季休暇だが、君は故郷に帰れないんだろう?だったら、どうだろうか?俺と一緒にフラーシュ王国に来てみないか?」
「え?わ、私がですか?」
「ああ、嫁入り先とか、そういうことは今回考えず観光として」
確かに私は夏でも花の咲き乱れる
フラーシュ王国は花の種類が少ないけれど、実際行ってみてどうなのか、というのは気になるところ。
行ってみたら別なアレルギーが出て花粉症で死にかける可能性も無きにしも非ず。
というか、いつの間にか左手もニグム様に捕まっている……!?
「俺の客人として歓迎する。妹のことも紹介したい。どうだろうか」
『マジ歓迎するで~。ニグムとの婚約はフィエラシーラ姫が返事したいときでええし、フラーシュ王国に来てみぃへん?』
フラーシュ様にまで言われてしまっては断れない。
それに、フラーシュ王国の幻魔石は火と風が多いと聞くし、珍しい火と風の幻魔石が安く手に入るかもしれない。
「うちの国にしかない蔵書も用意するように伝えてあるし」
「行きます!」
即決した。
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