仮題 アトリエからの逃避行

じん いちろう

プロローグ

無かった……………………


僕の番号は、無かった。


どうやら、落ちたらしい。

手応えは、少しだけ、有ったんだけどな〜


合格発表の掲示板の前、合格を喜ぶ人々を他所にボケてしまいそう。


学科は充分に合格圏内。

面接も、そつなくこなせたと思いたい。

でも、実技が……………………


実技の担当教官との相性が最悪だったしな〜?

時間内に何とか仕上げて提示した、自信作のデッサンは、一瞥しただけで、


『…………もう帰っていいよ。』


と言われてしまったからな〜


仕方ない、切り替えて行こう!

両親には、結果だけ報告。

父は、『…………そうか。』だけ。

母は、『来年が有るわよ〜、あっ、再来年もあるからね〜』と。

兄二人と妹と、妹親友でもある腐れ縁の幼馴染には、メール送信のみ。開封通知は来たけど、それ以外は何もなし。まあ、気を遣ってもらっているようだが、ソレはそれでかえって有り難い。


師事していた先生には、気が重いけど会って報告しないと。

『先生』とは言っても、現役の学生だけどね。


自分でも足取りが重くなっているのを自覚しながら、錘を引き摺るようにノロノロと歩き辿り着いた、勝手知ったるアトリエのあるマンションのオートロックを解除しエレベーターに乗り込む。

扉が閉まると同時に挫けそうになるのを我慢しつつ階数表示を見上げ、深呼吸しながら降りて通路を歩き辿り着いた部屋の扉をノックした。




※※※※※※※※※※




平成年代中盤の頃のお話になります。

高速インターネットが普及し始めて、携帯電話でネット接続が始まった時期です。

今の事情とは異なる事も出て来ますが、矛盾が有ってもスルーして頂ければ幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る