第43話 情報収集

 結局、天理あまりは搬送された先の病院で、正式に死亡と診断される。葬儀のたぐいは、実家のある本土の方で行われるらしく、俺達に参列の許可が下りることはなかった。


 おおやけには、今回の事件は、某アイドルの怪死をきっかけとした、母親の逆恨みによる犯行ということで、広く報道。大いに世間の話題を攫ったものの、それも数日も経てば下火になり、やがて誰の話題に挙がることもなくなってしまった。


 俺達はと言えば、犯人の女性をけしかけて来た黒幕を探すため、イザナギ中を駆け回っている。女性の証言から、黒幕は以前の事件を知った上で、今回の事件に加担していたことがわかった。術式を行使していた点も踏まえ、この件にも退魔師が関わっていると見るのが妥当だろう。元から五柱の座を狙っているのが、草薙家だけとは思っていなかったのだから、その店でも合点がてんが行く。


 要するに、俺達を関わりのある人間の命を奪うことで、俺達の状況対応能力に対する評価を下げる意図があったのだ。そんなことのために天理の命が奪われたのかと思うと、はらわたが煮えくり返る。この落とし前はきっちり付けさせてもらわなければ気が済まない。


 黒幕の狙いが俺達の評価を下げることならば、これで終わりということはないはず。必ず近くで俺達を監視して、また何かしらしかけてくるだろう。


 とは言え、相手に先行させるつもりはない。自分のために他者を巻き込み、あまつさえ命を奪うような連中が五柱に入るなど、考えただけで身の毛がよだつ。これ以上ことを起こされる前に動向を掴み、一網打尽にしておきたいところだ。


冴杜さえもり、そっちは何かわかったか?」

『例の母親と接触していたらしい男がいるってところまでは、ね。それがどこの誰かまでは、さっぱり』

「その男の画像とか、あったりしないか?」

『そんなものあったら、真っ先に共有してるっての』


 スマホの向こうにいる夕菜にも、苛立ちが混じっているのがわかる。俺よりも精神が子どもの分、より大きな激情を抱えているだろうに、よくそれを抑えているものだ。肉体だけでなく、精神の方もよく鍛錬されている。


 しかし、その男。イザナギの全土に張り巡らされた、最新鋭の防犯システムをくぐって、よくことを成したものだ。前回の草薙家と違い、直接イザナギに乗り込んで来ているのに、一切画像が残っていない。そうなると、イザナギの内部にも、協力者がいると見るべきか。


 だとすれば、俺に取れる方法は1つ。イザナギ内部に潜んでいる協力者の方を先にあぶり出し、黒幕の情報を聞き出すのである。方法としては、金の流れを追うこと。これだけの事件に関わっているのだ。無償で協力していたとは考えづらい。


「わかった。冴杜は引き続き、その男を追ってくれ。追加情報があったら、メッセージで頼む」

『……あんたはどうする訳?』

「俺は俺のやり方で、黒幕を追うよ。相手は人間だ。妖と違って必ず行動には痕跡が残る」

『やり過ぎないでよ? とばっちりで、あたしまでお説教は嫌だからね』

「大丈夫だ。そんなヘマはしない」


 さて、今回はサイバーパンクな世界での経験が役立ちそうだ。クラッキングならお手の物。これで世界の危機を救った経験があるのだから、能力としては申し分ないはず。システムもセキュリティーも、向こうの世界に比べたら程度の低いこちらの世界でなら、より簡単に欲しい情報を手に入れられる。


「となれば、場所は当然ネットカフェだな」


 インターネットカフェ。時間当たりの料金を払えば、PCのインターネットを自由に使えるサービスだ。マシンパワーはそれほど高くないが、何より匿名性が高いのが利点。名前と姿さえ誤魔化せば、利用者の特定はほぼ不可能という環境。今回の作業において、これ以上の場所はないと言える。


 この日から数日間、俺はインターネットカフェに入り浸り、あらゆる知識を動員して、イザナギ内における協力者を炙り出した。使用時間の大半は、クラッキング用プログラムの作成に費やしている。プログラムさえ完成してしまえば、あとはそれをネット上に走らせるだけ。ボタン1つでプログラムを走らせてからしばし、一人の男性が、指定した条件に引っかかって、画面に映し出された。


「なるほど。イザナギの防犯システム管理会社の人間か。こりゃ、叩けばもっとほこりが出るかもな」


 とりあえず、その情報を手元のスマホに送信して、クラッキングプログラムを始めとした痕跡を消す。これで、インターネットカフェでの作業は終了。実際に、該当した男性に接触するターンだ。

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