第9話 怪獣大決戦
バキバキ!
カラスのクチバシが容赦なく芋虫の肉を砕く。
「イモムシのくせに外骨格を有するとは面白イ!」
噛み砕かれている芋虫の怪物はというと、まるで意に介さずそのまま空島を追おうともがいている。
「相手にされないなんて悲しいなぁおい!」
ダイコクはミステリカの肉体から高く飛び上がり、芋虫に向かって落下していく。
そして、そのまま落下する勢いに任せて芋虫の脳天(脳があるかわからないが)目掛けて拳を突き出した。
ダイコクの拳が、容赦なく芋虫の肉体にめり込んでいくが——
「あやっぱ駄目か効いてねえ!」
ダイコクと芋虫の体の
(まぁしゃあないわな。このまま肉を抉り続けるしかねえか。それよりも——)
ダイコクは芋虫の様子を見る。
芋虫はあいも変わらず空島を追おうともがいている。
(ここまでの執着は熊でも見せんぞ。この思考を捨て去った感じ……何か概念的な存在なのかこいつ?)
「ハハハ! あくまでも無視だというなら好都合! このまま取らせてもらおうか!」
そう言いながら、ミステリカは手をかざして魔法の言葉を唱える。
「“解けロ”!」
しかし、魔法は発動しなかった。
「……おい?」
「ナ!? まさか……この皮をかぶった状態では私の魔法は使えないのカ!? なんだそれ、面白いナ!」
どうも今の人間の姿となれている代償として、ミステリカは自身の“魔法を薬に変える魔法”が使えなくなってしまっているらしい。
「言ってる場合かよ。お前思っていたより弱体化してるな! お前下がってた方がいいんじゃないのか?」
「なんの! 魔法が使えなくとも私にはこれまでがあル! さぁあの縄を吐き出せマイボディ!」
ミステリカが叫ぶと、肉体は芋虫をついばむのを止めてゲロリと白い巨大な縄を吐き出した。白い縄はそのまま芋虫へと巻きつかれていく。
「ダイコク! その縄に触れるなヨ! 特にお前にはよく効くだろうかラ!」
「良く効く? おいこの縄まさかあいつの剣と同じ……!」
ダイコクの予想は正しく、芋虫の白い縄に触れた部分がじゅうじゅうと消滅していく。勿論芋虫は自分の肉体を消そうとしている忌々しい縄を振りほどこうと暴れる。
「うおっ! おい……」
芋虫の上にいたダイコクはバランスを崩し、右腕が白い縄に触れてしまった。
当然
「あ痛って!? は!? しかもこいつ離れねぇんだけど!?」
ダイコクの右腕にひびが入る。それだけでなく、何と白い縄はダイコクの腕に絡みつき始めたのだ。
「おお! その程度で済むとはさすがはダイコクだな! ちなみにそれは赤毛の塔でとれた赤毛とあいつの反魔力を練り合わせた代物だ魔物特攻でありながら、一度触れたものは決して離さんぞ!」
「お前なんてもん作ってんだっ痛ぇ!!」
容赦なく絡みつく白い縄に苦悶の表情を浮かべるダイコク。ありとあらゆる攻撃が通用しない彼だが、その縄は彼の体に傷をつける数少ない魔道具だった。
そしてそれは芋虫に対しても同じだった。
「ぎゅああああ!!!」
「「!?」」
突如として芋虫はけたたましい叫び声をあげる。その瞬間、ミステリカとダイコクは“何か”がまとわりついた感覚があった。
「なんだ――!?」
(間違いなイ。白い縄で彼奴の行動パターンが変わっタ。恐らくはこのままだと当初の目的が果たせなくなるかラ)
(意思は感じられなイ。あくまで目的を果たすための機構。本当になんとなくだがこいつの正体が分かってきたゾ)
「ともあれここからが本番だナ……! やるぞダイコク!」
「まぁ、こっちに意識が向いたなら願ったりだ!」
そう言いながらダイコクは右手に絡みつく白い縄を引きちぎる。引きちぎられてもなお、右腕にくっついてる白い縄を見て不敵に笑う。
「丁度あいつにダメージ与えられる
ダイコクはそう言って白い縄を握りしめ、芋虫への攻撃を再開した。今度は効いているらしい
「お前にとっての
ドスッ
「ガッ」
カブトムシの足のようなものが芋虫から伸び、ミステリカの分離された肉体と精神体を同時に貫いた。
「ミステリカ!?」
そしてそれは刺されたミステリカに注目してしまったダイコクの方にも向かう。
それでもダイコクはそれに気付き、かわそうとしたが、
「————ん!?」
一瞬だけダイコクの体が回避を忘れたように動けなくなった。
ガァン!!
鈍い金属音がなったが、ダイコクの体には傷ひとつない。しかし衝撃を受けてダイコクは宙に舞う。
「やべ……!」
重力に逆らえずに落下していくダイコクだったがすんでのところでミステリカが飛ばした空飛ぶ箒に捕まることで戦線の離脱は免れた。
「あぶっないなァ! ダイコク、仕事もはたさずに地上に帰れると思うなヨ!」
「助かったぜ。しかしミステリカ、串刺しになってるが大丈夫なのか!?」
「痛いとも!! 涙出そうだ! どうもこのままではいかんらしい。せっかく着てきたが仕方ない!」
そう言ってミステリカは自分を覆っていた皮をずるりと剥いた。皮を脱いだミステリカはダイコクも見慣れた、カラスの頭になっていた。
「
ミステリカがそう唱えると、突き刺さっていた鋭い甲虫の足が溶けていく。
「あのクチバシ、顔のどこにしまってたんだ? まぁいい。今大事なのはあれだよな」
そう言いながらダイコクは空飛ぶ箒からミステリカの肉体に飛び移る。
「ミステリカ、傷の具合は……よろしくなさそうだな?」
見るとミステリカに開いた穴から数字がザラザラと落ちている。
「痛い出費だまったク。だが同時に確信も得タ」
「確信? なんのだ?」
ダイコクが聞き返すとミステリカはクチバシをカチカチ鳴らす。
「奴の正体。あれは魔法だよ」
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