第11話 宣戦布告

「おいおい。こんなとこにいたんだな、敷和くん。どしたん? 今日、なんかおかしくね?」


 楓と佐ケ野。


 二人を連れて体育館裏へ来たのだが、肝心な話を聞こうとしたところで、氷堂たちと遭遇してしまった。


「別におかしくはないと思うけど。何の話だ?」


「いやぁ、おかしいでしょ。今日は朝からやけに小祝さんと一緒にいるし、昼休みもこうして二人……いや、三人か。三人で弁当食ってるじゃん」


 氷堂の言葉を受け、楓は俺の制服の袖をギュッと握り、佐ケ野は気まずそうな表情でうつむいている。


 俺はそれを見て、色々と察しつつ、ため息交じりに奴へ返す。


「三人で弁当食べる。それのどこがおかしいんだよ? 親しい人と昼食を摂るってのは、お前らもやってることだろ? 現に氷堂は小笠原くんたちと今一緒にいる。それと同じだ」


 俺がそう言うと、氷堂は仲間と目配せし、やがて面白げに笑い始めた。


「まあ、まあね。敷和くんは昨日転校してきたばっかだし、うちの人間関係とかさすがに何も知らないから、こうなるのも無理ねーわな。ごめんごめん。俺が悪かった。こういうの、あんま言うべきじゃなかったよなー(笑)」


「……? どういうことだよ?」


「いやいや。別に。ただ、一つ言うなら、ちょっと選ぶ人間色々間違えてない? ってことくらいかな」


 小笠原が氷堂に同意し、「それな」と笑いながら言う。


「もちっと時間かけたら、誰と仲良くするべきかって色々見えてくるんだけどな(笑) 運が悪かったとしか思えん(笑) ドンマイ、的な(笑)」


「見る目ない系の男の子、だったり?」


 橋上さんもクスッと笑いながら毒づいてきた。彼女は続けてくる。


「てかさ、何なら朝から敷和くん、小祝さんのとこいたよね? どしたの? 好きになっちゃった? この子、可愛いし」


「好きかどうかとか、そういうのを誰彼に話すつもりはない。あと、いけないのか? 俺が朝から楓のとこにいるのって」


 楓。


 その呼び方に、氷堂たちは目を丸くし、また仲間内で互いに目を合わせ合う。


 ニヤニヤと、不愉快な笑みを浮かべながら。


「え? 何なん? どゆこと? 楓って、下の名前呼び?」


「ガチじゃん。うわぁ、ヤられてるわぁ」


「あっははは! また一匹男子引っかかってるしー! 爆笑すぎ!」


 貶すように笑って、氷堂が俺の方へわざとらしく顔を近付けてきた。


 傍にいた楓は、怯えるようにして俺の体の後ろへ隠れる。


「もうそこまで拗らせちゃってんなら言っとくわ、敷和くん」


「……?」


「その子さ、とーんでもない女なんだよ? 知ってた?」


「とんでもない女?」


「そそ。めっちゃ男たぶらかしてさ、好き放題すんの。エロいこととか、勘違いさせて楽しんだりとか」


「……またそれか」


「ん? またそれかってどういうこと? 知ってたん?」


 知ってるに決まってる。


「朝、名前もまだ知らないクラスの女子から似たようなこと言われた。しょうもない話だよ」


「うっひゃぁ! 盲目じゃんよー! やべぇって、やべぇってぇ!」


 俺のセリフを楽しむかのように、後ろにいる橋上さんたちへ共有する氷堂。


 当然、それを受けて彼女らも俺をバカにする流れだ。橋上さんなんかは、「めちゃめちゃ勘違い童貞っぽいw」なんて言ってる。間違ってない。童貞だ、俺は。勘違いしがちな奴かどうかは違うと思うが。


「敷和くん。ちょっとな、言っとくわ」


「またか。一つじゃなかったのか? 言うことって」


「えーから、そういうの」


 呆れたような表情を作り、図々しく、奴は俺の肩に手を置いてくる。


「俺ら、いや、この学年の全員に言えることだけどさ、小祝さんと仲良くしてる奴とは誰も仲良くなりたがんないよ?」


「……は?」


「それだけな。そんじゃ。好きになる女の子とか、もっと慎重になって選びなよ? っはは」


 言って、氷堂たちは俺の前から去ろうとする。


 待てよ、と声を上げた。


 奴らは立ち止まり、振り返ってくれる。


「お前らが言いたいこと言うんなら、俺にだって何か言う権利はあるだろ?」


「ん? 何? 何かあんの?」


 あるさ。


 俺は一息に思いの丈をぶつけてやる。


「お前らに何を言われようが、俺は楓と仲良くさせてもらう。それだけだ」


 氷堂たちは呆気に取られた後、また嗤って、


「何それ? 宣戦布告? 戦争したいん、俺たちと?」


「そんな物騒なことするつもりはないよ。ただ、俺は思ってることをそのまま言っただけだ」


「笑う。それが戦争始めますよって意味になるんじゃん? 頭悪過ぎん? 結構俺の中で君の評価下降してってるけど?」


「そういうのは好きにしてもらって構わない。別に好かれようとも思ってない。楓をそんな風に言う奴らになんか」


 ジッと氷堂を見据えながら言う。


 奴は、いや、奴らは、それを受け、鼻で笑って、


「ならいいわ。仲良くできるかなって思ってたけど、君ってとんでもない奴だったんだな」


「そりゃこっちのセリフでもある。びっくりだよ」


「あっそ」


 ――後悔するなよ?


 ゴミでも見るような目で俺を見つめ、氷堂はそう吐き捨てて行った。


 これでいい。


 いや、これでなくちゃダメだ。


 訳のわからない理由で楓を貶める奴らとなんか、仲良くするつもりはない。


 氷堂たちが見えなくなって、俺は泣きそうになりながら震える楓を優しく撫でてあげた。


 ほんと、何でこんな風に俺の幼馴染は悪く言われてるんだろう。


 佐ケ野の方を見て、首を傾げるのだった。

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