閑話3 初代魔王の幕引き

 魔族領を支配する魔族の王。それが魔王だ。


 そして、いま私たちは人類に総攻撃をしている。


 その理由はただ本能に従っているだけだった。


「魔王様…………第3軍将軍が打ち取られました」


「そうですか…………副将軍を将軍としてそのまま任務を遂行するよう伝えなさい」


「はぁ!」


 魔王に感情などない。ただ、人類を滅ぼすためにすべてを尽くす。


 それが私の示された生き方。


 これが初代魔王ヒルメだった。


□■□


 ついに勇者が現れた。神の力と人類の力により呼び出された異世界人。長いようで短かったような時がようやく動き出したのだ。


「勇者…………やはり、あのお方が言っていた通り…………ならば、私もそろそろ動かねば」


 魔王ヒルメは魔王城の外に出ると、すると普通に暮らす魔族たちが動揺した。


 それもそのはずだ。一般の魔族は魔王様のお姿を見る機会がないのだから。


 その様子にすぐさま駆けつける第2軍将軍は魔王の足元へ跪つき、口を開いた。


「魔王様!?どこへ行くおつもりですか?」


「もちろん、戦場だ…………そろそろこの戦争を終わらせる」


「なぁ!?」


 それは魔族たち全員に対しての宣言のようにとらえられた。


 魔王様、自ら表に出る。その覚悟の行動に魔族たちの心が沸いた。


「貴様たちはただ私の後ろを歩き、ただ人類を殺し尽くせばいい、いいな!」


「「はい!!」」


 この時、戦闘訓練を受けた魔族だけでなく普通に暮らす一部の魔族たちも戦争に参加した。


 これを機に戦争のスピードは一気に加速し、それから2年後、ついに勇者と魔王が対面するのであった。


□■□


 勇者と魔王の戦い。


 たくさんの犠牲とともについに戦争は最終局面へと突入した。


「ここまでだ!魔王ヒルメ!!」


「あなたが勇者…………なんて弱そう」


「見た目で判断するのか?」


「ふん…………いや、そもそも私は異世界人が強いと思っていない。それこそ、神と加護の力に頼り切る勇者などにな」


「たしかに、いえてる。でも、そうしてでも魔王は倒さないといけない!ここで…………死んでもらう!」


「死ぬのは勇者…………貴様だ!」


 同時に強く地面を蹴って、両者の剣が重なり合う。


 強い衝撃とともに、お互いに吹き飛ばされると、魔王ヒルメはすぐに魔法を展開する。


「ダーク・ソウル!!」


 闇から生まれた骸兵が勇者を襲うが聖剣ハーレによって軽々と切り裂いた。


 さすが、聖剣、一撃で倒すなんて。でも、ここから。


「デス・ファイヤー!」


 魔法陣が展開され、そこから黒炎が放たれる。


「これは!?くぅ…………」


 勇者はすぐに黒炎から距離をとった。


 やっぱり、勘もいい。


 デス・ファイヤーは一度、触れればその身が燃え尽きるまで燃え続ける炎。触れれば私の勝ちだったけど、やっぱりうまくいかないよね。


 そこから戦いはさらに加速する。


 聖剣ハーレによる一撃は一発食らうだけで多大なダメージとなり魔王ヒルメを襲い、さらに絶望的なことにいくら魔法で交戦しようと、一切、勇者に通用しないのだ。


 神と加護の力だけでここまで強くなれない。


 なるほど、彼も彼なりに努力してきたということなのね。


 でも、だったら、私だって、たくさん努力してきた。


「はぁ…はぁ…はぁ、中々やりますね」


「魔王こそ…………」


「ふぅ………正直、なめていました。勇者明人…………だからこそ、もう出し惜しみはしません」


「僕はいつだって本気だよ」


「そうですか…………」


 魔力全開放。


 内から外へあふれ出る魔王の魔力がその場にいるすべてを飲み込んだ。


 ずっと、ずっとため続けていた。いつかくるその時のためにずっと魔力をため続けた。そして今、それを使う時がきたんだ。


 魔王ヒルメの瞳が黒色から紅の色に染まり、世界が真っ赤な血の色で染まる。


「これが、魔王…………魔王ヒルメ」


 この時、その場にいる全員が恐怖し、そして改めて認識した。


 彼女が魔王であることを。


「いくよ」


「こいっ!」


 その言葉を皮切りに、勇者と魔王の戦いはさらに白熱する。


 魔王ヒルメは純粋な魔力の塊をこぶしに込めて、ひたすら殴り続けた。


 勇者に私の魔法が効かない。なら純粋な力だけで勝負すればいい。


「くぅ…………」


「どうしたの?」


「はぁあああああっ!!」


 聖剣ハーレの一撃をこぶしで受け止め、そのまま受け流しながら勇者に一撃を与える。


 その流れを利用しさらに一発一発と強く殴り、その攻撃は勇者に効いていた。


 やっぱり、いくら加護の力でも高密度の魔力の塊で殴られれば効くんだ。


 戦いはさらに白熱し、もはや周りは眺めていることしかできなかった。


 だからこそ、勇者明人も覚悟を決める。


「ふぅ…………さすが、魔王。そう簡単にやられてはくれないか。なら僕だって!覚悟を決めたよ!」


 勇者明人の魔力の流れが変わった。


 何か仕掛けてくる!?


「聖剣開放!!」


 聖剣ハーレが神々しい輝きを放ち、その身には聖剣の魔力を身にまとう勇者明人。

 

 聖剣ハーレとの同化というべきか、聖剣ハーレの魔力と勇者の魔力がつながった。


「これで終わりだ!ヒルメ!!」


「終わるのはあなたです、勇者明人!!」


 私も全魔力を右こぶしに込める。


 お互いにこれが最後だとわかる。


 そして、聖剣とこぶしが交わると、強い衝撃とともに眩い閃光を放ち、戦場に大きな穴をあけた。


 そしてその穴の中心には二人の姿が見えた。


「はぁ…………やっぱり、理不尽だ」


「くぅ…………」


 確実に私のこぶしは勇者に届いた。でも同時に聖剣ハーレは私の心臓を貫いた。


 命の灯が消えゆく感覚が私を襲う。これが死んでいくということ。


 なるほど、と自分勝手に理解した。私は勇者に勝てない。どれだけ頑張っても勝てないと、だからあの方…………あの魔女は最後にこの体に呪いを刻んだんだ。


  私は最後、力を振り絞って嫌味のように耳元で呟いた。


「あなたの勝ちだ…………勇者。だがその身に受けた呪いは必ず、人類を滅ぼすだろう」


 私に刻まれていた呪いは私の死とともに勇者へと移っていった。


 これが初代魔王ヒルメの最後だった。


 

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