第46話 訪れるかもしれない未来

 得体の知れない不気味な感覚が全身を襲う。


 アルルはその場で立ってすらいられないほどに、だが俺は普通に頭めがけて手刀をくらわした。


「いてぇ!」


「もう戦えないやつが殺気立つなよ」


「あ、ばれてた?どうやら、もう私は戦える体じゃないみたい」


 灰色の魔女からほとんど魔力を感じない。


 やっぱり、これも原作通りか。


「それじゃあ、俺たちは帰るから」


「君…………何を考えているから知らないけど、世の中には大きなあらすじというものがある。それは決して逃れられない運命なの…………だから、がんばってね」


「大きなお世話だ」


 俺はアルルを連れて、こっそりと王城を出た。


 大きなあらすじ、そして運命か。


 どんなに原作ストーリーから外れようと重要なストーリーイベントは必ず起こる。


「どうして、この体に転生したんだろう…………はぁ」


 そんなため息を漏らしながら、宿に戻るのであった。


□■□


 目が覚めると、見知らぬ女の子が布団の中で眠っていた。


「うぅ…………何しているんだ、灰色の魔女」


「うぅ…………うん?やぁ、起きたの?早いね」


「…………はぁ」


 俺はゆっくりと体を起こし、普通に着替えた。


「おいおい、こんな美少女が一緒に寝てあげているというのに、その反応はないだろ?」


「美少女ね…………歳を考えれば」


 そう言うとした瞬間、鋭いげんこつがほほをすれすれで通った。


「何か言った?」


「いえ、なにも言ってません」


 てか、どうして同じ宿に灰色の魔女がいるんだ?


「なぁ、どうしてここにいるんだ?」


「え、退屈だったから」


「はぁ?」


「ほら、自由になったはいいもののさ、やることないし、働きたくないし…………もう前見たいに力もないし、だったら君のすねでもかじろうかなって」


「勘弁してくれよ」


 頭を抱えていると、アルルが部屋に入ってきて大騒ぎ。


 事情を説明しながら、なんとかその場を収めた。


 宿を出た後、灰色の魔女は興味津々にいろいろ質問してきたが、基本的に無視した。


 だって、めんどくさいし、それにこれと言って予定がないからだ。


 別に屋敷に戻ってもいいし、この大都市セイカを堪能してもいい。


「あの、ご主人様!」


「何かしたいことでもあるのか?」


「服が見たいですっ!大都市セイカではファッションにかなり力を入れていますし、一度寄ってみるのがいいと思います」


「いいねぇ、服は女性の良さを引き立てる武器。ここで君の好みを知るのもいいかもしれないな」


「まぁ、いいけど」


 いわゆるショッピングというやつか。


 そういえば、前世でショッピングに付き合わされた時、地獄を見たような気がするが、記憶があやふやではっきりと覚えてないな。


 いろんなお店を回りながら、服を見て回ることになった。


「ご主人様!これなんてどうですか?」


「いいんじゃないか?」


「君、この私の美貌はどうだい?」


「お前、呪いは大丈夫なのかよ」


「おい、服をみんかい…………はぁ、呪いは魔力で抑えているからね。多少影響はあるかもしれんが、まぁ大丈夫だよ」


「信用できん」


 それからなぜか、ファッションショーのように次々と服を見せられ、気が付けば3時間が過ぎていた。


「つ、疲れた」


 疲れ切った俺は、楽しんでいる二人の様子を眺めた。


 どうして、急にあんなに仲良くなってんだよ。女性って不思議だな。


 ショッピングを終えると、一緒にご飯を食べ、次は別のお店で服を見せられた。


「もうショッピングなんてしない」


「楽しかった」


「今の時代、これほどセンスのいい服があるとはな。時代の流れを感じたな」


「新しい宿をとらないとな。お前ら、宿を取りに行くぞ」


「はいっ!」


「ふかふかのベットがいいな」


 灰色の魔女の適応能力にちょっとドン引きだわ。


 普通に見かけて宿屋に部屋を三つ取り、俺はベットで横になった。


「今日はいつも以上に疲れたな…………」


 アルゼーノン学園の入学時期が近付いている中、こうしてのんきにショッピングをしていいのだろうか。


 いや、俺のことはどうでもいいか。


 アルルにとって息抜きになったのなら。


「やぁ!」


「うわぁ!?び、びっくりした」


「君はベットの上だと隙だらけだね」


「ふん、ベットの上ぐらい気楽にいたいんだよ。それに殺気は感知できるしな」


「甘えじゃない?」


「甘えかもな…………」


「…………君ってさぁ、いったい何がしたいの?」


「うん?それはどういう意味だ?」


「そのままの意味さ、私から見た君は何をしたくて行動しているのかわからない。人のことを思っているのか、ただ自分のために突き進んでいるのか…………どうして、そんなに自分の死を恐れているのか?君は周りの人たちと比べて異常だよ」


「ふん、ひどい言いようだな。俺はただ…………」


 自分が死ぬという未来を変えたいだけだ。


 その未来さえ変えられれば、きっと楽しい人生を送れる。悩まずに楽しく生きられるはず。


 そう信じている。ただそれだけのはずだ。


「少し意地悪だったね…………君にいいものを見せようか?」


「いいもの?」


「まだ確定はしていないが、もしかしたら、訪れるかもしれない…………を」


 灰色の魔女は俺の頭に手を置くと、白い光が部屋全体を覆った。


 未来か…………少し気になるな。


 俺は抵抗することなく、目を閉じた。

 

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