第39話 いざ、アルゼーノン帝国の王城へ

 ラプラス本部。


「まさか、シリグアム皇帝が動くなんて」


 一室で一枚の紙を眺めながら、フユナは頭を抱えていた。


 いずれ、シリグアム皇帝が動くことはわかっていたが、早くても2年後ぐらいだと思っていた。


 だが、その予想が外れ、こうして一通の手紙が届いている。


 しかも、本部に届くということは、シリグアム皇帝はある程度、ラプラスのことを認知しているということにもなる。


 ここでこの会談の申し出を断れば、敵に回すことに他ならない。


 そうなれば、今成長中のラプラスは壊滅状態にまで追い込まれるだろう。


「はぁ…………これは俺だけじゃ解決できない。心苦しいけど、ボスに頼るしかない」


 会談はトップ同士の話し合い。


 そこで、副ボスである俺が出れば、何を言われ、付け込まれるかわからない。


 シリグアム皇帝のことだ、何かといちゃもんをつけて、ラプラスの掌握、もしくは叩き潰しに来るはずだ。


 俺は両手で2回手をたたくと。


「御用でしょうか」


 ラプラスの暗部に所属する黒服に身を包んだ女の子が膝をつき、姿を現した。


「ボスにさっきの内容を包み隠さず伝えてきてほしい。いなかったら、アルルさんに伝えて」


「わかりました」


 瞬きした瞬間には、姿を消していた。


「一体、シリグアム皇帝は何を考えているのか…………まぁ、最悪敵対しても大丈夫なように対策はしておくけど」


□■□


 アルゼーノン帝国の皇室。


「ラプラスか…………」


 アルゼーノン帝国だけでなく各国で名が挙がるラプラス。


 その実態は調べてもわからず、不気味な立ち位置にあった。


 だが、ここ最近、活発に活動し始め、表舞台でも名前を聞くようになった。


「すでに、ラプラスの本拠地は特定しております」


「どこだ?」


「都市アルキナです」


「シノケスハット家の領土か…………」


 ラプラスの活動は主に都市の再開発が目立つ。


 都市アルキナがいい例だ。


 2年前の都市アルキナの面影はなく、今では引っ越してでも来る者までいるとか。


 このままほっておけば、いずれ国に迫る力を得る可能性がある。


 ここはつぶすべきか?いやだが、もう一つ気になることがある。


 それはシノケスハット家の領土にラプラスの本拠地が位置しているということだ。


 シノケスハット家の長男、ラインのミノタウロス単独討伐の功績はアルゼーノン帝国に大きな利益をもたらした。


 そして、ラプラスのおこなったさまざまな結果もアルゼーノン帝国の利益になっている。


 貿易の拡張の加え、他国からの評価も徐々に上がっているのだ。


「一体、何が目的なのだ…………」


 シリグアム皇帝が考えていると隣にいる側近がしゃべりだした。


「少しよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「ラプラスをどうするのか、悩まれるのでしたら、ラプラスという組織のトップと会談をしてみてはいかがでしょうか?」


「なるほど、それは良い案だな」


 会談でラプラスの本当の目的を見抜ければ、今後、対応の判断材料にもなる。


 それに、一度会ってみたいとも思っていた。


 ラプラスという組織を引っ張るトップをな。


「今すぐ、本拠地に手紙を出せ」


「はっ!」


「ラプラス、その化けの皮…………しっかりと見定めてくれるわ」


□■□


 月日が経ち、シリグアム皇帝との会談当日。


「どうして、俺が出席しなきゃいけないんだよ」


「すいません、ボス。俺が不甲斐ないばかりに」


「いや、いいんだ。いつかこうなると思っていたから」


「さすがですっ!ボスっ!まさか、こうなることをよんでいたとは、いや…………やっぱり、ボスに任せて正解でした」


 瞳を輝かせながら、俺はボス専用の軍服ならぬ正装に着替えながら。


 こんなよめるわけねぇだろぉおおおおおおおおおおおおっ!!


 っと心の中で叫んだ。


 そもそも、ラプラスって組織はフユナの引き入れるための口実で作っただけで、まさかここまで大きくなってこんなに影響力がある組織になるなんて、だれが想像つくんだよ。


 このままじゃあ、勇者じゃなくて、シリグアム皇帝陛下に殺される。


 しかし、ここまで来た以上逃げるわけにはいかない。


 それに、もしラプラスとアルゼーノン帝国がうまく手を結べば、危害を加えることはなくなる。


 それどこから、お互い支援しあえる関係になれるかもしれない。


「素顔を見られてはいけませんから、これを…………」


 フユナから渡されたのは模様が描かれた仮面だった。


「なんだこれは?」


「自身の取り外し以外では絶対にとれない仮面です。これで、ボスの素顔を隠せます」


「おお、すごいな…………ただ」


 デザインが正装に合わせて作られてるな。


 こう言っちゃんだが、中二病くさくて、ちょっとかっこいいな。


「ご主人様、今、ちょっとかっこいいな~~って思ってます?」


「うわぁ!?アルルか、いつのまに…………」


「ついさっきです」


 笑顔でそういわれても、気配を消して近づいてほしくないんだが、まぁいいや。


「これで大丈夫ですっ!ボスっ!」


「ありがとう」


 準備が整った俺は階段を上り、都市アルキナの屋敷に戻ると、正装を着て、俺が手に持っている仮面と模様違いの仮面をつけているラプラスメンバーの幹部たちが待っていた。


 原作最強の魔法使いノータ。

 原作最強の剣士ゼノン。

 原作最強の傀儡使いシトリー。

 原作最強の殺人姫マイノ。

 原作最強の指揮官フユナ。

 原作最強の暗殺者アルル。


 そして、ラプラスのボス、ライン・シノケスハット。


 うん、なというか、すごいメンバーだなと今さら、この光景を見て思った。


 でもすべては、自分のために、そして、いずれ来るかもしれない勇者との戦いのために。


 ノータは杖を掲げ、転移魔法を展開し、俺はゆっくりと仮面をつけて、みんなに正面を向けて告げた。


「みんな、いこう」


 転移魔法の光に包まれた俺たちは、初めてアルゼーノン帝国の王城へと足を踏み入れるのであった。





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