第37話 マイノ・シトリー姉妹との決闘

 ラプラスの本拠地の広さには俺は改めて感心した。


「ここは?」


「ラプラスのメンバーが訓練する訓練場ですっ!」


「…………すごいな」


 地下に広々とした空間が広がっていた。


 それだけじゃない。


 別の部屋にはトレーニングルームらしき部屋もあり、休憩室などもあった。


 もしかしたら、この地下だけで都市アルキナの広さを超えているんじゃないと思ってしまう。


「よし、じゃあ、さっそく始めるか」


 俺は体を伸ばしながら準備運動を始めた。


 しっかりと、体を伸ばさないとケガの元になるからな。


「よし、準備オーケーだ。おま…………うん、シトリーとマイノは?」


「いつでもいい」


「早くやろう」


 二人ともやる気十分のようだ。


「よしっ!じゃあ、フユナ。審判を頼む」


「わかりました」


 両者が対面している間に立つフユナはゆっくりと口を開いた。


「それでは、決闘のルールとしまして、戦闘不能、もしくは負けを認めた場合、敗北とします。では、始めっ!」


 その声とともにマイノが強く地面を蹴って、迫る。


 腰に添えられた刀を強く握りしめ、軌跡の一閃を振るった。


 素早い抜刀に迷いのない切り出し、さすが原作最強の殺人姫。


 無駄がなく、確実に殺しにきている。


 だが。


「まだ遅いな」


 体を少し傾け、よけながら、マイノの足を払った。


「え…………」


「スピードも技も十分だけど、ちょいと俺をなめすぎだな」


 一人で突っ込んでくるのはさすがに悪手だ。


 その間にシトリーが仕掛ける。


 1体の人形を操り、俺の背後をとった。


 マイノを囮にしたのか。


 さすが、姉妹。何も口にしなくても考えが伝わるってことか。


 しかし、瞬きする間に人形が切り刻まれた。


「う、うそ」


「剣術に関しては自信があるんだ」


「くぅ…………まだここからっ!!」


 体勢を立て直し、すさまじい剣戟を繰り出すマイノ。


 その一太刀は重く、同時にシトリーが何か狙っているのが見えた。


 一見して、何も考えずに戦っているように見えるけど、姉妹だからかな。


 少しだけ、反撃するか。


「んっ!?」


 初めて、マイノの剣がはじかれた。


 マイノが動揺した瞬間、俺はその勢いのままシトリーに向かって前進した。


「シトリー!?」


「私を狙うなんて、ひどいっ!!」


 言葉とは裏腹に、器用に両手を使い、5体の人形が襲い掛かる。


「人形は1体だけじゃないのか」


「ふんっ!!」


 人形は囲いながら攻めてくる。


 たしかに、囲みながら襲い掛かるのはいい作戦だ。


 ここで足を止めれば、後ろで刀を構えているマイノが追いついてくるし、同時に追い込むことができるからだ。


 だけど、それはここで足を止めれたらの話だ。


 ゼノン師匠は剣術に決まった型など存在しないといった。


 型とはあくまでより多くの人たちが手短に強くなるために作られたものであり、達人の域に達した剣士は独自の完成された剣術を持っているという。


 ゼノン師匠も修行と生死を分ける戦いの末に自身の剣術を完成させた。


 俺はずっと騎士戦術の型や防御戦術の型に頼ってきていたが、その俺はもういない。


 次に地面に足が触れた瞬間、突き抜ける風が吹き、シトリーの背後をとった。


「え?」


 そして、そのまま剣を振り切り、容赦なく背中を切り裂いた。


「あぁ!?」


「シトリー!?よくも大切な妹をっ!絶対に許さないっ!!」


 荒ぶる魔力が地面をえぐり散らかしながら、刀を強く握りしめ、血が刀身に染み込んでいく。


 あれは、血瞬剣けっしゅけんか。


 マイノの魔力が混ざった血が刀身に染み込むことで、刀身が赤く染まる血瞬剣。


 切れ味がより鋭くなり、さらには自身に興奮作用が働き、身体能力から動体視力が大幅に上昇する。


 さらに、頭の切れまでよくなる。


 その戦いっぷりはまるで姫のように美しいことから殺人姫と呼ばれた。


「はぁっ!!」


 鋭い剣戟が白熱にする。


 早いうえによけるところでしっかりとよけている。


 さっきとはまるで別人だな。


「絶対に許さないっ!!」


 激しくぶつかり合う戦いの中、シトリーが顔を上げて、器用に人形を動かす。


「まだ、動けるのか」


 今ので決めたと思ったのにな。


「なめないでっ!!」


 前方にはマイノが、後方にはシトリーの人形。


 そして、二人の攻撃はほぼ同じタイミングで直撃し、たち煙が三人を覆い隠した。


 それを見ていた4人は目を凝らして、どうなったかを確認する。


 すると。


「俺の勝ちだな」


 尻もちをついて倒れているマイノの首元に剣先を当てていた。


 後方には破壊された人形があり、フユナはその光景を見て、声を上げた。


「この勝負、ボスの勝ちですっ!!」


 フユナは決闘が続行不可能と判断した。


「い、今のどうやったの?」


 マイノは目を見開いてそう言った。


「それについて、まじかで見ていたこの俺が説明しよう、マイノっ!ボスがとった行動はいたって単純で、マイノの剣が届く前に人形を即座に破壊し、その勢いを使ってマイノの足を払ったんだ。なんとこの間の時間は0.1秒もない。この芸当は鋭い動体視力と無駄のない剣術があっても難しい。さすがですっ!ボスっ!!」


「あ、ああ…………」


 そこまで見えてるフユナもすごいと思うが、でも、さすが原作最強キャラだ。


 もし最初に油断していたら、一気に詰められて不利になっていただろう。


 そう意味では、マイノの最初の特攻は本当に悪手だった。


「マイノ…………」


「シトリー!?」


 マイノはすぐにシトリーのもとへ駆け寄った。


「負けちゃった、ごめんなさい」


「私も最初に考えなしに行動しちゃったから」


 お互いを思いやる姉妹。これぞ、姉妹の絆というやつだろう。


 これを機会にもっと強くなってほしいけど、その前に。


「反省するのはいいが、まずはシトリーの治療からだ。さっきはごめんな、傷つけるつもりはなかったんだが、どうも手加減したら逆に負けそうだったからさ」


「別にいい。戦いはいつも死と隣り合わせ、むしろ感謝。私たちはこれでもっと強くなれる、ボス」


「そうか…………」


 シトリーは思ったよりも冷静だった。


 それに比べて。


「私はまだ認めてない。でも実力だけは認める。だから、もう一回勝負してっ!」


「こら、マイノ。ボスに対して失礼だろが!」


「まぁ、また機会があったらな。それより、ご飯食べようぜ。みんなおなかすいただろ?」


「たしかに、お腹すいた」


「お腹が空いてはいくさはできぬと言う、食べたら、もう一回!!」


「いや、だから機会があったらな」


 こうして、マイノ・シトリー姉妹との決闘が終わった。


 これで俺は確信できた。


 確実に強くなっている。それも2年前とは比べ物にならないほどにだ。


 これでやっと、安心して学園生活を送れる。


 やっぱり、青春と言ったら学園生活。


 全力で楽しまずしてどうする。


 もう勇者に殺されることはないと確信に至ったラインはラプラスが提供する豪勢な食事をみんなと楽しむのであった。


□■□


「ふむ、やはり想像以上の成長じゃったなぁ」


 ゼノンはずっとライン殿の動きを見逃さず観察していた。


 故にその成長スピードの恐ろしさにひと汗をかいた。


「あれほどの力を見せつけてなお、魔力を使っておらんとは…………これほどの実力なら魔王を倒せるやもしれん。楽しみじゃの」


 その瞳には少年らしき若く熱い期待感を宿していた。

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