第25話 ミノタウロスの枷

 時間は少しさかのぼる。


「助けに行くとは言ったけど、場所がわからねぇ」


 魔力で足を補強し、より早く南東側を探し回るもなかなか見つからず。


「何か目印があればいいんだが」


 すると、少し遠くから一筋の光が見えた。


「あれは、まさか、アリステラの神聖魔法!?」


 神聖魔法を使わざる負えないほど、追い詰められているってことかよ。


 急がないと、ストーリーが始まる前に聖女が死んでしまう。


 そうなれば、勇者も見つけられず、ストーリーバットエンド。


 それだけは絶対にダメだっ!


「急ごうっ!」


 さらに魔力を使って加速する。


 光の柱が見えたほうまで一気に駆け上がると、そこには膝をついたアリステラと目の前で斧を振り下ろそうとするミノタウロスがいた。


 間に合えっ!!!


 風を切るほどのスピードで、俺はアリステラを抱きしめ、その場から距離をとり、助け出した。


□■□

 

 といった感じで現在に至る。


「おい、本当に大丈夫か?」


「あ、はいっ!」


「それだけ声出せるなら、大丈夫そうだな」


 アリステラは驚いた表情を見せた。


 だけど、俺はそんなこと気にせず、ただ無事であることに安堵あんどする。


『なるほど、貴様が、ライン・シノケスハットだな』


 こちら見てしゃべるミノタウロスの姿。


「…………しゃ、しゃべった!?」


 あり得ない光景に思わず声を上げた。


 魔物がしゃべるってどいうこと!?原作でそんなのないんですけど!?


『ふん、驚くのも無理はないが…………それよりシャルガーはどうした?』


「ああ、シャルガーか。あいつなら、殺した」


 サラッと冷たく言った。


『そうか、全く使えないやつだ。役目すら果たせないとはな。だが、おかげでより楽しい戦いになりそうだ』


「戦闘狂な奴だな」


 てか、あのしゃべるミノタウロスの魔力量、普通にアリステラ並みにあるんだが。


 道理で神聖魔法を使うわけだ。でも、使って勝てないってことは、相当強いな。


「重いからおろしていいか?」


「あ、はい…………って重くないです」


 っと軽く胸をポンポンっとたたかれる。


 俺は抱えていたアリステラをゆっくりと下した。


「ライン様…………」


「ここからはバトンタッチ。ゆっくりしていろ」


 っと頭を軽く叩いた。


 アリステラは耳を真っ赤にした。


『一人で我に勝つ気でいるのか?』


「さぁな…………ただ大切な仲間を傷つけたんだ、絶対に殺す」


『あははははははははははっ!その心意気、よしっ!!』


 正直、勝つ自信はシャルガーほどない。


 だが、負ける自信もない。


 だってこの世界に勇者以上に強い奴なんていないんだからな。


 ミノタウロスは勢いよく飛びあがり、斧を振り上げる。


 いきなり、正面からかよ。


 シャルガーと比較にならないほどの強さ、油断せず、惜しみなく魔力を使う。


 剣に魔力を奔流させ、手足にも魔力を集中させた。


『ふんっ!!』


 そして、剣と斧が衝突した。


 いびつな金属音が地面を伝って鳴り響く。


 一撃おっも!?こんなやつ相手に戦ってたのかよ、アリステラは。


 魔力で剣の強度を上げて、手足も魔力で補強してやっと耐えられるレベルだぞ。


『わが渾身の一撃を受け止めるか』


「ふぅ…………軽いな」


『ほざけっ!!』


 斧と剣のせめぎ合いが続く。


 ミノタウロスは確かに強く、スピードも速いけど、攻撃事態は単純でよけやすい。


 つまり、ミノタウロスを超えるスピードさえそなわっていれば、簡単によけられるということだ。


『くぅ…………やるではないか』


「…………そろそろきつくなってきたんじゃないのか?」


『何を言っている。われはまだまだいけるぞっ!!』


 魔力がかなり減っている。


 多分、あのスピードもパワーも魔力で強化しているんだろう。


 問題は、俺の魔力と集中力がどこまで持つかだ。


『これほど楽しい戦いは初めてだ。これが、これこそがっ!我が求めていた戦いだぁぁぁぁ!!!』


 高らかに笑いながら、その笑みは歓喜、そして戦いに飢える獣のようだった。


「俺はなるべく戦いたくはないけどな」


『ふんっ!!!』


 大きく振りかぶるミノタウロスは笑みを浮かべながら俺を正面にとらえた。


 前より早い!?


「アクセルっ!!」


 即座に加速魔法で後方へ下がる。


 やっぱり、あのスピードは厄介だな、ならここは。


 後方へ下がりつつ、地面に触れて唱えた。


「フリーズ・フローズン」


 凍結魔法フリーズ・フローズン。


 触れたところから一瞬にして冷気が広がり、凍りついた。


『これは…………』


「これで、自慢のスピードは出しづらいだろ?」


小癪こしゃく小細工こざいくだな』


「誉め言葉として受け取っておこう」


 ふう、キツイ。


 ここまで真っ向から戦った経験がないからか、体力的にきつい。


 ミノタウロスは斧を下ろすと。


『貴様、戦った経験がないな?』


「んっ!?」


『貴様の戦い方は確かに素晴らしいものだったが、どうも決定打にかけている』


「だからなんだ?」


『そろそろ終わらせよう。貴様の実力は十分理解した。ゆえに、貴様は我には勝てない』


 そう言ってミノタウロスは獰猛な獣の雄たけびを上げた。


「な、なんだ…………こ、これは」


 叫び終えると、ミノタウロスの魔力がさらに跳ね上がった。


 これはどうなってるんだ。


 魔力が回復したわけじゃない、魔力総量が上がっている。


『我は自ら枷をかけていてな。一つ目は魔力を封じ、二つ目が魔力制限、この二つ枷を相手によって解放するか見極め、われは戦っている。喜べっ!貴様は我を本気にさせたのだっ!!!』


「…………だからなんだ。ちょっと魔力が増えたぐらいでいい気になるな」


『本当に魔力だけが増えたかどうか、すぐにわかるぞ』


 その瞬間、視界からミノタウロスが消えた。


 すぐに後ろを振り返ると、目の前に斧が迫っていた。


「え…………」


 瞬時にすれすれでよける。


『今のをよけるか』


「ふん」


 は、早すぎる。後ろに振り向いたら、目の前に斧ってマジでよけられたのは運がよかった。


 とにかく、今は距離をとるしかない。


 すぐに後方へと下がる俺だが、次の瞬間にはミノタウロスはおらず、上を向くと斧を振り上げるミノタウロスがいた。


『ふんっ!!』


「あぶなぁ!?」


 またまた運よくよけた。


『いつまでよけられるか楽しみだ』


「俺は早く終わらせたいけどな」


 やばい、やばい、やばい、超やばい。


 スピードだけなら俺を上回っているし、目を離せばすぐに消える。


 攻撃する隙もないし、超ピンチかも。


 さらに猛攻が続くが、ほぼ一方的な攻撃だった。


 俺はよけることに精一杯になり、ミノタウロスはひたすら力のある限り攻撃した。


 そして。


『なぜだ、なぜ当たらんっ!!』


 慣れてきた。何度もよけて、何度も見て、そのうちに目が慣れた。


 やっぱり、早いだけだ。


 だが。


「はぁ……はぁ……はぁ…………」


 体力の限界が近かった。


 よけることに集中していたからか、呼吸が整えられず、魔力もかなり消耗している。


 このままよけ続けても勝つことはできない。


「なぁ、そろそろ決着つけようぜ」


『くぅ…………』


 ミノタウロスの不機嫌な顔に思わずにやけてしまう。


 あれ、どうして俺は笑っているんだろう。


『なんだ、その顔は、我を侮辱しているのかぁぁぁ!!!』


 正面からの攻撃。


 これを待っていた。


 この絶好の隙を。


「アイス・エッジっ!!!!」


 遠くからアリステラの声が聞こえた。


 ミノタウロスの足場に氷の刃が突き刺さり、動きを止める。


『これは!?』


「俺は一人じゃなくてね」


 ずっと、アリステラは魔法を打つ隙をうかがっていたことはわかっていた。


 でも、ミノタウロスの早さにどうしても打つことができなかった。


 だから、ずっと打てるように動いていたんだが、まさか自ら隙を見せてくれるなんてな。


「さぁ、そろそろ終わらせようか、ミノタウロス」


 この気持ちはなんだ?


 この高揚感はなんだ?


 どうして、俺は楽しんでいるんだ?


 この感覚は一体、だれのものなんだ?


『なめるなよ、われはこんなところでは死なぬっ!!!』


 突き刺さった氷の刃を砕く。


「うそ…………ん?」


 アリステラが俺の隣に立った。


「ライン様、私も戦います」


「さっき魔法を使ったばっかだろ?休めよ」


「いえ、戦います。それが聖女としての役目ですから」


「ちょっと違う気がするが、頼りにしてる」


「え…………はいっ!!」


 アリステラは耳を真っ赤にしながら顔を両手で抑えた。


『貴様らなど、肉片一つ残さぬ』


 本来なら敵同士になるはずの聖女と隣り合わせで戦うなんて思ってもみなかった。

 

 

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