第039話 南の方から来ました!

さて、ここからが本当の話し合い、というか探り合い?の開始である。

うん、開始であるのだが……


「とりあえずちょっと狭いのでローラさん、向こう側に座ってもらってもいいですかね?」

「嫌だが?」

「わがままか!」


うん、三人掛けの椅子に四人、ずっとキッツキツのままだったからね?

無駄にゴネるここん家の娘さんを懐柔して(メロンを切って与えて)お父さんの隣の席に座らせる。そして部屋の中に充満する甘く芳しい香り……。


「お兄ちゃん……リアも……欲しいなぁ?」

「リアさん、たしか貴女の一人称は『わたし』でしたよね?」

「だってコッチの方がお兄ちゃん受けしますし?」


「なっ、それは本当か!?……ヒカル、ローラももっと欲しいのだが?」

「語尾に威圧感があって可愛らしさ皆無なんだけど……葵ちゃんはどうする?ジュース?それともおにぎり?」

「逆に聞きますけど、スイーツ女子の隣でおにぎりにかぶりつく女の子はオカシイと思いませんか?」


「なんだこいつら……いきなり勝手気ままな行動を始められてさすがに困惑せざるをえんのだが……その果物らしきものを俺にも分けてもらえないかな?」

「高いですよ?」

「まさかの俺だけ有料なのか!?」


しかたがないので全員の前に適当にカットフルーツやジュースを並べておく。

オッサンが目を輝かせながら『甘っ!?てか美味っ!?何だこの……なんだ?』と混乱状態で、皮まで食いそうな勢いでメロンにむしゃぶりついてるけど、絵面が非常に汚いのでスルー。食べ終わった後も物欲しそうな顔でこっちを見つけてるけどスルー。


「いきなりのフルーツパーティというよくわからない状況になっちゃいましたけど……もう謝礼のお金だけもらって帰ってもいいですかね?」

「もちろんよろしくないのだがな?そもそも金銭だけで支払えるほどの財源はこの領地にはない!」

「父上、聞いていてせつなくなってしまいそうですのでもう少し迂遠な言い方にしてください……」

「どう取り繕おうと貧乏領は貧乏領だから仕方ないだろう?」


うん、腹を割って話そうとは言ったけど、ハラワタまでさらけ出せとは言ってないんだけどね?


「さて、話の続きなのだがな。娘から聞いた話があまりにも荒唐無稽すぎて……正直、何をどう対処するのが正解なのかまったくわからんのだが、俺はどうすればいいと思う?」

「いや、いきなりぶっちゃけてきましたね……まぁ確かに逆の立場だったとしたら俺も娘さんの心の病気を疑うかもしれませんが」

「なにげに酷い言われようだな!?父上、少なくとも私は嘘など一切ついておりませんし、大げさな話もしておりません!」

「もちろんそれはわかっている。わかってはいるが……それを納得出来るかどうかはまた別の話なのだ。それで、娘の話を全部……いや、話半分でも信用するとしてだ。その場合、二人はこの領地、いや、この国の最重要人物となりえる……そんな相手に、こんな僻地の領主がどう対応すればいいのだ?」


いや、知らんがな。てかそこまで卑下されたらこっちも答えにくいわ!


「それ、対応される本人に聞くことではないと思うんですけど……そもそも今、俺たちの目の前にいるのは王様ではなく子爵様ですので国の話とかされても困りますし……いえ、それもたまたま怪我をした娘さんを助けただけのご縁でしかありませんからね?その僻地のご領主様としては、どうなさりたいのですか?」

「そうだなぁ……とりあえずどちらかを娘か息子の伴侶として取り込んでおきたい……と思ったのだが、アオイ殿の目がとても怖いので半分諦めた」

「半分は諦めてないんですね……残念ですが、少なくとも私はこちらに嫁入りする気などございませんし、もしも無理やりにそのような話を進めるというのならハッキリ敵として対応させていただきますが」

「ほら、な?やっぱり怖い。アレだぞ?悪夢魔を退治したとか聞かされてる人間からの敵対宣言とか恫喝とか脅迫と同意語だからな?……で、ヒカル殿の方はどうだ?ローラはこんなに愛らしいぞ?命の恩人でもある貴殿が望むならば結婚……を前提とした婚約……に向けた友達付き合い……のための面接からどうだ?」


「とても面倒くさそうなのでいらないです。いや、そもそも俺は愛情のない相手との政略結婚はちょっとご遠慮したいですね」

「なっ、なんだと!?目の前にいるのは王国一の愛娘であるローラだぞ?もしも親子でなければ俺のお嫁さん候補ナンバー1のあのローラだぞ!?……ああ、なるほど、ヒカル殿は薬師の娘御のような青い果実が好みだと」

「この子も普通に成人してそこそこ経つらしいですけどね?」

「むしろわたし、この部屋の中にいる女性の中で一番年上なんですけどねぇ?」


……えっ?そうなの!?てか、ローラさんって一体何歳なんだろうか?


「むむむ……では次点として、家臣として取り込むという話になるのだが……あれだ、ちょうど村長一家が居なくなった村があるのだが、い・ら・な・い・か?」

「もちろん、い・り・ま・せ・ん!けどね?というよりも、とくに立身出世なども望んでませんので……」

「だろうな。娘の話が本当ならそれだけの力を持った二人がどこかの領主に、いや、どこかの国に仕えるメリットがまったく見いだせんからな。ということでこちらはお手上げ状態なのだよ。つまりそちらからの希望、かなうならばその他の情報も聞き出したい感じなのだがな?いかんせん初対面の相手、二人の沸点が何処にあるかわからぬのでな、世間話を振るくらいしか対処のしようがないのだ」

「ならず者じゃないんでそこまで気を使っていただく必要はないんですけどね?そうですね、希望……ですか」


いきなり希望って言われても……ねぇ?

こちらの世界に転移してきた理由と、日本に帰る方法があるなら知りたいってのはあるけど……その話をするとなると俺と葵ちゃんが『異世界人』だと伝えなきゃいけないし。


(そうだねぇ……葵ちゃん、何か欲しい物とかある?)

(いきなり雑な振り方ですね!欲しい物といいますか、そもそも私達が人里に出てきた理由を考えればいいんじゃないですか?)

(出てきた理由……なんとなく人恋しかったから?いや、葵ちゃんがいたから恋しかったわけでもないかな?あれ?出てきた理由……探検?)

(一言でまとめると確かにそんな感じになっちゃいますね)


カワウソ妖怪以外の知的生命体も見つけたし、この星全体が灼熱の砂漠ではないことも確認できたし。ついでに、わけの分からない『悪魔』なんて生き物がいることまで知ってしまったけど。


「必死に考えてみた結果……とくに無かったです」

「無いのか!?」

「いや、そもそもの目的が探索と交易でしたので。ああ、探索って言っても諜報活動的な意味合いは無いですよ?そもそも報告する国とかありませんし。気がついたらいきなり岩山しかないクソ暑い荒れ地に放り出されてましたからね……」

「荒れ地……?いや、聞いていいことなのかどうか分からぬが……そもそも二人はどこから来たのだ?娘の話で『魔の領域』で出会ったということだけは聞いているのだが?」


「別に聞かれて困ることでもありませんので構いませんよ?信じてもらえるかどうかは別ですけど、てかあの何にもない草原って魔の領域なんて御大層な名前で呼ばれてるんですか?そのさらに南、徒歩での移動なら数ヶ月はかかりそうな荒れ地と岩山しかないクソ暑い所から来ました」

「それもうアレだよな?ここ数百年の間雨が振ることもない、水一滴存在しない灼熱の荒れ地、魔物すら住まない不毛の大地」

「ああ、確かにそんな場所ですね。そこに少し前に放り出された感じです」

「どうしてその状況で生きてこれたんだ!?」


もちろんすべてシスティナさんのおかげ……いや、ちみっとだけ葵ちゃんのおかげもあるかもしれない。


「いや、しかし……仮に、そのようなところにいきなり放り出されたとして、そして今までどうにかこうにか生きてこられたとして、どうやって売れるほどに大量の穀物やこのような、この国の上級貴族の食卓にすら並ばないような果物を持っているんだ」

「もちろん育てたからですが」

「魔物すら住まぬ土地だといったよな?草木も育たぬ枯れた大地だといったよな?そのような場所でどうやって作物など育てると……」

「企業秘密です。ちなみに交易で欲しかったのはお肉ですのでどこかお肉屋さんを紹介してもらえたら嬉しいです。あとチーズとかバターとか生クリームとか作りたいので牛乳もあればなおよしです」


「秘密……なのか。もちろん肉屋を紹介するのは構わない……いや、よければ他の果物や野菜なども見せてもらえないだろうか?そして、できれば取引は我が家を通して貰えればありがたいのだが……どうかな?」

「そうですね、こちらとしましても細々と取引先を探すよりまとめていただいたほうが手間が省けますので構いま」

「条件によりけりですね!そのへんのお話は私が伺いますので後ほど!」

「お、おう、お手柔らかにお願いする」


てことでほぼ何も喋らなかった(途中から肩にもたれ掛かって寝てた)リアちゃん以外はちょっとお疲れ気味なのでその日はお開き、そのまま子爵様のお屋敷でお泊りすることとなり、夜には歓迎の宴を開いてもらうこととなった。

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