第3話

弥生へ


 手紙で連絡を取るのは久しぶりだね。半年ぶりくらいになるのかな、その間はLINEや電話のやり取りをしていたから、そんなに間が空いたという感覚も無いのだけど。不思議なことに話したり、LINEでやり取りする時は軽い内容が多いから、どうしても重くなりがちな話題を避けてしまっていた。触れようと思えば触れられたのに、何故だかそれが話題に上がらなかったってことは、これが弥生が言っていた手紙の不思議な力ってやつかな? 

部屋の内装の話はしたよね? 何インチのテレビを置いたか(っていっても狭い部屋だからたいしたものはおけなかったけど)君が観葉植物をおくと心が安らぐ効果があるらしいというから、休日ホームセンターに行ったりして、色々悩んだ挙句、結局水やりをこまめに出来る性格じゃない僕はサボテンを買って帰ったんだっけ。後は単行本。漫画が山のようにあるからどうすればいいのか途方に暮れていたら、荷物を預かってくれるトランクルームなるものが都会にはあるんだと君が教えてくれたから、わざわざ下見にも行ったんだよ。悲しい哉、料金もかかるし月々の管理費も馬鹿にならないから今でも単行本は段ボールの中にしまったまんまなんだけど。色々と調べてくれてありがとう……これは電話で言っても良かったかな。


折角の手紙だからこの間、君から貰った質問に答えるよ。そう、前回弥生から手紙を貰った時に僕は驚いた。弥生は何で話してもいないのにあのことを知っているんだろう、と。そのことについて喋ったこともなければ触れたこともないのに何故弥生にはあの沢での出来事がわかるんだろう? これが俗にいう女の勘というものだとしたら恐ろしいものだね。弥生には嘘は吐けないと思った。沢での出来事だよね?

実はそう、あれはただ単に足を滑らせたんじゃない。理由のある事故だったんだ。

弥生に心配をかけまいと僕が間違って足を滑らせただけだと言ったけれど、僕が足を滑らせた理由は他にある。あの時、僕は沢に君から貰ったペンダントトップを落としてしまったのを取ろうとしたんだ。いつもは見知った筈の静かな清流の筈なのに、君から貰ったペンダントトップが流れていく速さが尋常じゃなくてさ。下流に下流にと流されていくのを焦って追いかけて行ったら、石を踏み外してそのままドボンと体勢を崩して落っこちた。あとはもう君の知っている通りの展開だ。すぐに恭一が沢に飛び込んでくれて僕を引き上げ、達也が携帯で救急車を呼んでくれて救急隊員の人の処置によってあの病院に居たという訳だ。(あの二人が君の家に行ったっていうのは初耳だけど)ごめんな、あの日は本当は二人で花火大会に行く約束していたんだよな。でも、その前に景気づけという訳でもないけれど美味しい鮎を君に食べさせたくて。それで黙って行ったんだ、あいつらと一緒に。花火大会に行けなかったことも勿論そうだし、ペンダントトップを失くしそうになったこと、弥生にとても心配をかけさせてしまったこと本当に申し訳ないと思っている。


あの時の罪滅ぼし、という訳ではないけれど……その内どこか旅行にでも行かないか? 僕も働き始めてもう半年が過ぎてだいぶ給料が貯まったよ。温泉旅行に行くのもいいし、何か美味しいものを食べに行くのでもいい。あとは、最近会社の女性社員が欲しい欲しいと騒いでいるブランドの指輪のショップが散策していたらあったから覗いてみたんだけど、君によく似合いそうな可愛い指輪を見付けたんだ。星形のダイヤの可愛い指輪。それを今度君にプレゼントしようと思うんだけど、旅行と指輪だったらどっちがいい? 


真人より


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