第8話 カエル人間

「やべ! 雨降って来た」

「カエル人間に食われちゃうぞー!」

「カエル人間、何で冬眠しねぇんだろな?」

「知らね! オバケだからじゃね?」

 しとしとと降る雨の中、傘をさす小学生達は足早に家路を急ぐ。

 1月、関東地方北西部の子供達の間では、【カエル人間】の噂がまことしやかに囁かれ始めた。道に点々とカエルの死骸が落ちている雨の日、傘もささずに歩く子供の人影を見かけたら、声を掛けてはいけない。人影と見えたものは真っ黒なカエルの集合体で、声を掛けたが最後、カエル人間に喰われてしまう。といった類の都市伝説だ。それは雨の日だけに現れる。

 子供達が面白がって話を広め、やれ、知り合いの知り合いが見ただの隣小の何年の女子が食べられただの、それは昔、どこそこの田んぼで死んだ子供の祟りだとかカエルの神様が怒っているのだとか好き勝手に噂された。


 だが、その噂が隣県へじわりと移動し始めた頃。

「おい、この報告書、変な事書くなよ」

「いや、だって……しょうがないじゃないですか」

「しょうがないって、ああ、交通警察に連絡したのか」

「だって、嫌じゃないですか!」

 もしも本当に接触していたら……。

トラックの運転手の間で、妙な噂が流れていた。雨の日の深夜、小学校入学前くらいの子供が、一人で高速道路を歩いていて轢きかけた。保護しようと車を止めたら、何も居なかった。もしくは、轢いてしまったが沢山のカエルの死骸があるだけで、子供は居なかった。ただひたすらに生臭い匂いだけがそこに漂っていた。というものだ。実際に高速道路交通警察隊へも通報が相次ぎ、目撃情報はジワリジワリと南下していっていた。ただ、不思議な事に顔は勿論の事、服装や髪型も一切わからず、ただ、幼い子供がいた気がする、と目撃者達は語った。


 噂はゆっくりゆっくり南西への一途を辿り、海に面した辺りでパタリと途切れた。

「ちょ、何か臭くない?」

「うえ、酔う」

「あの、何か腐った生ゴミみたいな臭いするんですけど」

「どこかで魚か何か腐ってるんじゃ?」

 噂が途切れたのと同じ頃、1船のフェリーで、異臭騒ぎが起こっていたが、原因はわからず仕舞いだった。


 この時、季節は三月になっていた。

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