悲観主義者は空を見ない

@infinitemonkey

第1話

 灰色の分厚い雲から雨粒が際限なく降り注ぐ。川の流れは激しく、平常時よりも水位が上昇していた。

 そんな濁流の中から少年が息も絶え絶えに顔を出した。一人の少女を背負いながら。

「うぅ…」

 少女が呻き声を上げていることに気づいて少年は安堵した。息はしている。肺に水が入っている様子もなかった。

 少女を背負ったまま少年はゆっくりと立ち上がる。疲労で足の感覚はなくなりかけていたがそれでも歩き出した。

「…あれ?…私?」

「気が付いた?」

 少女は自分の置かれている状況に気が付いてまた口を閉じた。背負っている少年からは表情は見えないが、朗らかなものではないことは容易に想像がついた。

「…なんで、助けたの?私は…違うって言っているのに…」

「…理由なんてないよ。助けたかったから助けただけ」

 その答えに全身をわななかせて少女は声を絞り出した。

「………翼が、私に変なことばっか言って、私を変えたから…全部壊れちゃった…!…アナタがやってこなければ私は普通のままでいられたのに…!…翼なんて…大嫌い……!」

 言葉とは裏腹に少女は少年の体を強く抱きしめ首筋に顔を埋める。冷たい雨とは違う熱い雫が流れていることを感じて、彼は申し訳なさそうに目を閉じた。

「…本当にごめんね」

 言葉が途絶える。響くのはザアザアという雨音と少女の啜り泣く声だけ。

 長い間を置いて少女は再びか細い声を吐き出した。

「母さんの記憶も消しちゃって…もうどこにも居場所がなくなっちゃった…私、これからどうしよう…」

 悔やむような、縋るような言葉に少年はもう一度目を閉じる。そして足を止め、顔を上げた。

「…それならさ…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る