第21話 ダイジェスト版


 選ばれし者しか抜けません系の剣は憧れを抱いていたけど、勇者に狙われるぐらいだったら捨てたい。不燃ゴミに出したい。だけどゴミ収集車が来ないので剣を置いて出て行った。


『汝、我を忘れているぞ』

 と剣の悲しき呟きを聞いて、倉庫みたいな小屋を後ににした。


「剣を置いて行っちゃっていいんっすか?」とハリーが言う。

「アレを持ってたら勇者に狙われるだろう」と俺が言う。

 

『汝、汝、汝』

 と聞きたくない声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには置いて来たはずの剣があった。

 捨てたはずの日本人形が、戻って来たぐらいの衝撃だった。

「ひぇーーーー」

 と俺が叫ぶ。

 剣は宙に浮き、俺を追いかけて来たのだ。


『汝、驚くことはない。我、食事を頂き、力が戻ったなり』


「剣単体で行動してんじゃねぇーよ」

 と俺が叫ぶ。

『これで汝のこと追いかけれるな』

 と剣がベッタリと俺にくっ付いて来る。

「剣が甘えるな。刃が怖ぇーじゃねぇーかよ」

『我に似合う鞘を買ってもいいんだぞ』


 ミカエルは静かに動画を撮影していた。


「可愛い剣だニャー」

 とデッキが言う。

「お手とかできるのかニャー?」

「野良犬みたいに扱うな」

 と俺が言う。

 ハリーが柄の部分を擦った。

「なにしてんだ?」

「撫でてるっす」

「野良犬みたいに扱うな」と俺が言う。

 デッキが剣の柄を草で巻いた。

「なにしてるんだ?」

 と俺は尋ねた。

「一応、野良犬と間違われたら嫌だから首輪をしとこうと思ったニャー」

「飼い犬にすな」

 と俺が言う。


『我、犬ではない』

 と寂しそうに剣が呟いた。


♢♢♢


 それから俺達は町に行き、剣の鞘を探した。だけど剣に合う鞘は見つからず、特注で作ることになった。

 町には腕のいい頑固なドワーフがいるみたいで、ソイツのところに行った。

 頑固ドワーフはウルボロスの皮が無いと、この剣の鞘が作れないと頑固な事を言い出した。

 

 本来なら頑固ドワーフとのエピソードがあったり、ウルボロス編があったりするのだが、円高の影響でダイジェスト版で送らさせていただく。(円高の影響ってこんなところでも出るんだな)


 頑固ドワーフのところに行った俺達はウルボロスの皮が無いと鞘が作れない、と聞いたので、ウルボロスが生息する沼地にダイジェスト版にするために物理的にも猛ダッシュで向い、なんやかんやで町を滅ぼす級の魔物を倒す。

 ウルボロス戦の途中で死にかけて、巨大でカチカチになるスキルを購入したのが良かった。

 巨大でカチカチになるスキルというのは、ロボットのような兵器に体がなるんじゃなく、体の一部のアレが巨大にカチカチになり、鈍器のように扱う事が出来るのだ。


 戦いの最中、剣はというと宙に浮いて見守っていた。『我、女の子の日なのだ』と剣は言っていたけど、たぶん、それは嘘で戦うのが怖いだけなんだと思う。俺達が戦っている最中、剣は悲鳴を上げていた。


 俺のアレがカチカチで巨大になって、ウルボロスを倒したことで、その配信が大バズり、欲しかった空間収納と炊飯器と米を購入。

 ご飯を食う。

 沼から町に向かう最中に強敵を4体ぐらい倒す。アレを鈍器にして。


 倒した強敵は冒険者ギルドで売る。周りの冒険者達が阿鼻叫喚。俺達はそんなんじゃないんで、みたいな会釈をして報酬の金貨を貰う。そしてウルボロスの皮をドワーフの元に持って行き、女の子の日と主張する剣の鞘を作ってもらった。

 この剣に鞘もクソもいらねぇーんじゃねぇーの? というのが我々の思いだったけど、剣は新しい鞘を貰えて喜んでいた。

『我、嬉しい』

『我、似合ってるか?』

『我、こんな鞘が欲しかった』

 なんか鞘に収まった剣が照れていた。

 もしかしたら剣はメスなのかもしれない。



♢♢♢


 ダイジェスト版になったので物理的に猛ダッシュでヤバヤバの森林に行く。

 三日三晩走りすぎて、しんどい。

 なぜかハリーの前歯が3日の間で折れている。急ぎすぎて転んで前歯を折ってしまったのだ。途中の町で回復薬を買おうと思ったけど、ダイジェスト版になったから傷を治すシーンをカットするために、途中の町にも寄らなかった。

 

 この三日間で強敵の魔物とも戦った。剣を使おうと試みたけど、鞘を脱ぐのが恥ずかしくて、お剣様は鞘を抜かしてくれなかった。


『汝、女性のさやを無理に脱がそうとするではない』とお剣様が言ったのだ。

「それじゃあお前は何のために産まれて来たんだよ」と俺は怒鳴ってしまったのだ。

『汝、それは差別的な発言か?』

 とお剣様は泣きそうな声を出す。

「アニキ、それは無いっす。女性にそんな発言はマジで童貞あるまじき発言っす」

「剣を女性としてみるな」と俺が言う。

「その発言も最低ニャー」とデッキが言った。

「剣だから女性として見れない、扱わないはダメニャー」

「炎上もんですよ」とミカエルも言う。

 ココまで言われたので俺が間違えているような気がして、「わかった。もう2度と鞘から抜かない」と俺は言った。


『……シクシク』と剣が泣き始めた。


「本当に女の子の気持ちわかってないニャー」

「そうっすよ。アニキ」とハリー。

「俺はどうしたらいいんだよ」

 と俺が尋ねた。

「夜中に2人っきりの時に、コッソリと鞘から抜けばいいんですよ」とミカエルが小声で教えてくれた。


 そうか、夜中に2人っきりの時にコッソリ鞘から抜けばいいのか。

 武器として使えなねぇー。

 そう思ったけど、お剣様を傷つける事になるから口に出して言わなかった。



 ヤバヤバ森林に辿り着く。

 そして獣人族の集落を発見する。

 集落に獣人はいなかった。

「誰もいないのニャ?」とデッキが呟いた。


 1人の老獣人が目の前に現れた。

「アンタ達は?」と老獣人が尋ねた。

「この子を獣人の集落に連れて来たんだ」と俺は言う。

 老獣人はデッキを見て、コクリと頷いた。


「ダイジェスト版だから色々と説明は省こう」と老獣人が言った。

「戦うのじゃ」と老獣人は叫んだ。


 その説明は必要なんじゃないか?

 ダイジェスト版って、そんな大切な説明も省かれるのかと俺は愕然とした。

 それに、戦うって何と戦うんだよ。

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