第19話 俺達が家族になってやる

 洞窟を抜けても俺達は走った。

 後ろから勇者に追いかけて来るような気がしたのだ。

 俺の手には聖剣が握られていた。接着剤で付いているみたいに手放すことができない。

 走り続けていると目の前で走っていたデッキが足を止めた。

「どうしたんだ?」

 と俺は尋ねた。

 彼女が後ろを振り返る。

 そして木々を見た。

 木々ではなく、この森にある家を見たのだろう。

 デッキが息を吸った。息を吸えば胸に酸素が入る。

 家族といた森。

 もう彼女には家族はいないのだ。

「行こう」

 と俺が言う。


 デッキは何も答えない。

 泣きそうな顔をして俺を見た。


「なにしてんっすか? 早く行きますよ」

 と少し先で立ち止まったハリーが言った。


「行こう」

 と俺は言う。

 そして俺は彼女の手首を握って走った。



 俺達は森を抜け、草原に出た。

 日が暗くなる前に寝床を探す。

 俺達が寝泊まりしていたキャンプ用品も森に置いて来てしまったのだ。

 持って来ているのはコンロとガスと焼肉のタレだけである。

 それから俺達は森を抜け、目的のヤバヤバ森林に少しでも近づくように歩いた。



 疲れた。

 誰も使っていない古びた倉庫みたいなモノを見つけて、扉を壊して中に入った。

 中は埃っぽくて、建物自体が腐っているのか、床が柔らかかった。

 重たい剣を持ち続けていたせいで、体がダルい。

 埃まみれの床にドーンと座ると、ようやく剣を手放せるようになった。

「なんだよ、この剣は本当に」

 俺は憎々しく剣を見た。

 それから少しばかり休憩して、日が完全に落ちる前に晩御飯の準備をすることにした。


 今日は疲れたので凝った料理は作る気はなかった。

 こういう時はアレだ。

 カップラーメンである。

 安いし美味い。

 スマホアプリでカップラーメンを4つ購入した。

 味が違うと奪い合いになったり、モメたりするので、しょうゆ味を4つ。しかも特大サイズのやつ。

「なんっすかそれ?」

 とハリーは興味津々である。

「カップラーメン」

 と俺が言う。

「今日の晩御飯だ」

「コレが晩御飯なんですか?」

 とミカエルは嫌な顔をする。

「こんなモノ、食べれるんっすか?」

 とハリーが言って、カップラーメンを手に持った。

「それの中身を食べるんだ」

 と俺が言う。

「まぁ、ちょっと見てろ」

 

 それから水が無いことに気づく。

 2リットルの水を購入。

 そしてフライパンで水を沸かす。

 沸かしている最中にカップラーメンのシュリンクを取って、蓋を半分だけ開ける。それを4回繰り返す。

 沸かしたお湯を少しこぼしながらカップラーメンにお湯を注いだ。

 2つしか注げなかった。

 だから、またお湯を沸かす。


 お湯を注いだことでしょうゆ味の湯気が立ち込める。

「わぁ〜」とハリーが言った。「いい匂いっすね」

「コレで食べていいんっすか?」

「ちょっと待て。3分待たなくちゃいけねぇ」

 俺は3人に待て命令をした。


 その間にお湯が沸いて、残りの2つにもお湯を注いだ。

 お箸も必要である。

 俺はお箸も注文した。

 すぐにダンボールに入ったお箸が目の前に現れる。

 ダンボールから箸を取り出す。

「今から俺が食べ方を見せるから」

 俺は蓋を開けた。

 美味しい湯気が顔を撫でた。

 ゴクリ、と3人から音が聞こえた。

「蓋を開けて、この2本の棒で中身の麺をすくう」

 そして俺はズルズルと麺を啜った。

「うめぇー」

 と俺は久しぶりのカップラーメンに感動して呟いた。


 先に出来たラーメンをデッキの前に置いた。

「お前達2人はもう少し待て。デッキ先に食べてよし」

 と俺が言う。

 獣人の女の子は恐る恐るカップラーメンの蓋を開けた。

 優しい湯気が彼女の顔を撫でた。

 初めてのお箸である。

 彼女はグーで箸を握り、不器用に麺をすくった。

 ズルズルズル。

 ズルズルズル。

 ズルズルズル。

 何も言わず必死に彼女はラーメンを食べた。


 それからハリーとミカエルのラーメンも出来上がり、2人も不器用な手つきでお箸を握り、「んっめ」「んっめ」と言いながら必死にラーメンを食べていた。


『汝、我にそのカップラーメンというモノを食わせるがよい』

 どこかから声が聞こえた。

 俺は冷めた目で剣を見る。

 コイツ、どこからラーメンを食べるのだろう?

 

 3人とも剣が喋り、カップラーメンをご所望しているのに無視している。

 俺も彼等に習って無視をした。


『汝、我の口はココにある』

 剣の口って気になるワードを出すな、と俺を思いながらついつい剣を見てしまう。

 柄の中心に口みたいな穴が空いている。

 正直に言って気持ち悪かった。


 ずっと口を開けて待っている。

 しゃーねぇーな、と思いながら麺を穴に入れた。

 剣がらーめんをモグモグしている。


『汝、そのスープもこの口に注ぐのじゃ』


 なにが注ぐのじゃなんだよ、と俺は思う。

 でも俺はついつい剣に言われたようにスープも注ぐ。


『汝、もっとじゃ。もっとじゃ。さすれば汝に力を与えよう』

「力なんていらねぇーよ」

 と俺は言いながら麺を剣に食わせ、スープを飲ませた。

 気づいた時には半分ほど持っていかれた。

『我、満足』

 と剣が言った。


 久しぶりのラーメンなのに半分しか食べられなかった。

 次からは剣の分も買おう。いや、この剣をどこかに捨てよう。


 3人はスープまで飲み干し満腹になったらしく、寝転んだ。

 ハリーは寝転びながら動画の編集をしていた。明日のためにスマホは充電器に繋げられている。

 その様子を見ていると日本のことを思い出す。


 俺は起きた。

 泣き声で起きてしまった。

 気づいたら俺も寝ていたらしい。

 ハリーも動画の編集が終わったらしく、彼も眠っていた。

 俺は起き上がり、横になって泣いているデッキの近くに行く。

「う〜う〜う〜」

 と獣人の女の子は呻きながら泣いていた。

 俺は彼女の隣で胡座になり背中をさすった。

 家族が殺されたのだ。

 すぐに心の傷が癒える訳がない。

「これからは俺達が家族になってやる。俺はお前のアニキだ」

 と俺は言った。


 う〜う〜、と呻いていたデッキが俺にしがみついて来る。

 俺は彼女の頭を撫でた。

 それから彼女が寝るまで、ずっと頭を撫で続けた。

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