第10話 勇者との再戦

 勇者が足を踏み込んだ。

 早い。

 気づいた時には青年が目の前にいた。

 怖いと感じた。

 今まで2回もボコられたせいかもしれない。勇者に対して恐怖が体にこびりついている。

 それに彼が俺に対して抱いているモノが憎悪だった。

 確実に勇者は俺を殺しに来ていた。


 勇者のパンチ。

 腕をクロスにさせて防御して受け止めた。

 筋肉強化もしている。

 なのにバギッと音がして腕が折れた。


「みんなココから逃げろ」

 と俺が言う。

 もう腕が上がらん。


「アニキ!!!」とハリーとミカエルが叫んだ。


「いいから逃げろ」と俺は叫んだ。


 勇者が腰から小刀を取り出した。


 死んだ。

 完全に死んだわ。


 勇者が俺を殺すために踏み込んだ。


「やめるニャ!!!!」

 と獣人の女の子が悲鳴のように叫びながら俺の前に立った。

 彼女もボロボロなのに、彼女も倒れそうなのに、俺を助けるために立ち上がってくれたのだ。


「この人達は私を助けてくれたニャ。私達一家を襲ったのは、そこで倒れてるハゲニャ。アンタは勘違いしてるニャ」

 と獣人の女の子が言う。


「でも、そいつ等は盗賊だぞ」と勇者が言う。

「ハイシンシャって言ってたニャ」

「ハイシンシャ?」

「もし盗賊でも助けてくれた事には変わりないニャ」


「どうするの?」と聖女が尋ねた。

 勇者がぺっと唾を出す。

「今回は見逃してやる」と勇者が言って、去ろうとした。

「謝るニャ」と獣人の女の子が言った。

「間違って殴ってすみませんニャ、と謝るニャ。腕も治すニャ」

「なんで盗賊に謝らないといけないんだよ」と勇者が言った。


「お嬢ちゃん、いいんだ」と俺は獣人の女の子に言った。

 早く2人には去ってほしかった。

「……でも」と獣人の女の子。

 チェ、と聖女が舌打ちした。

「勇者と聖女なのに、私達が悪者みたいじゃない。仕方がないから腕だけは治してあげる」

 聖女が杖を俺に向けた。

 無詠唱だった。

 俺の腕が光り輝く。

 腕が治った。

 もうこれ以上、勇者が襲って来ない事を確信して筋肉強化を俺は解除した。


「お礼でも言ったらどう?」と聖女が言った。

「お前達が勘違いして、この人の腕を折ったニャ」と獣人の女の子。

「ありがとう」と俺が言う。

 こんなところで揉めても仕方がない事だった。2人には早く去ってほしい。

「お礼なんて言う事ないニャ」と彼女が言う。

「君も俺の事を庇ってくれてありがとう」

 

 それ以上、獣人の女の子は何も言わなかった。

 勇者と聖女が去って行く。


 獣人の女の子が3本の尻尾を持って、自分の家に向かった。

 俺は、その後を追って行く。


 ニャ〜〜、と悲鳴のような、叫び声のような泣き声を出して獣人の女の子は泣いていた。

 彼女の両親2人。それと彼女と歳が近い女の子がログハウスの中で死んでいた。


 弟分2人も俺に付いて来て、ログハウスのそばまで来ていた。

「こんなところ撮るんじゃねぇ」

 と俺は言って、ミカエルからスマホを取って配信を消した。

 そして俺は自分のポケットにスマホを入れた。


「お母さ〜ん」

「お父さ〜ん」

「お姉ちゃ〜ん」

 と獣人の女の子は、森で迷子になったように死んだ家族の前で泣き続けた。


「どうするんっすか?」

 と泣きそうな顔のハリーが尋ねた。

 もしかしたら自分自身と彼女が重ねているのかもしれない。


「あの子は置いてはいけないだろう。1人になってしまった奴はほったらかしたらロクな事はしねぇー。だから彼女が気が済むまで泣いた後は、一緒に家族を火葬してあげて、彼女が俺達と一緒にいたいなら仲間にしてやる。行く当てがあるなら、それに越したことはねぇ」


 俺は2人の弟分を見る。

「文句あるか?」と俺は尋ねた。

「ないっす」とハリーが震える声で言った。

「ちょうど妹分がほしかったところです」とミカエルが言った。


 俺は立ち上がる。

 筋肉強化して、倒れているハゲた男を担いだ。

「コイツを冒険者ギルドに連れて行く。人殺しなら賞金首になってるかもしれねぇ」

「俺が連れて行くっす」とハリーが言った。

「ハリーには盗賊を担ぐ事もできねぇだろう。ダッシュで行って帰って来るから」と俺は言って盗賊を担いで冒険者ギルドに向かった。

 獣人の女の子は泣き疲れてお腹が空くかもしれない、と俺は思った。だから美味いモンでも買って来てあげたかった。


 結果、ハゲた盗賊は賞金首じゃなかった。小物中の小物。

 俺は手ぶらでログハウスに戻った。

 ログハウスからは、まだニャ〜という泣き声が聞こえていた。














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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

 

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