第11話 苛立ち

 ギリギリまで通信魔道具でコーザに連絡を取ろうとしたのだが、連絡がつかなかった。何してんだろうか。


 作戦を伝えたかったんだが、仕方がない。

 

 「それではまいりましょう」


 馬車に揺られながら俺は社交会に胸躍る気持ちでいた。本当に呑気だったのだ。


 再びやってきた煌びやかな舞台。

 一回目の同じ顔ぶれを眺めながらコーザを探していた。なんだか、暗い表情の人達が何人かいる。一体どうしたというのか。


「ごきげんよう! オルト様ー! 今日はお話できますか?」


 話しかけてきたのはメラルダだった。忘れてた。毎回絡まれるんだった。


「ごきげんよう。ちょっと探している人がいてね。また後でお話しましょう」


「えぇ? じゃあ、また後でお願いしますね?」


 そういうと引き下がってくれた。

 俺はコーザが見当たらないことを確認すると、ダクアを探した。

 ララに話しかけているのを確認できた。


 作戦通りやっているみたいだな。俺はエマと仲がいいマーニーに話をかけに行くことにする。


「ごきげんよう。マーニー様。今日はお話しましょう」


「あー! オルト様だー! 有難う御座います。お話しましょう!」


 笑顔のマーニーは可愛らしい。赤い髪が情熱的な雰囲気を作り出して、この胸の張り具合も素晴らしいなと思ってしまう。


 料理を取りに行きながら色々と聞き出そう。


「マーニー様はお料理は何がお好きなんです?」


「私はねぇ、サラダ! って言いたいところなんですけど、そんな事はなくてお肉が大好きです」


 そのボディーは肉がないとできあがらないのではないだろうかと勝手にそんなことを思ってしまう。

 好きな物の話をしながらお肉のある所へ歩いていく。一緒に肉を取り、俺は野菜も取りながらだ。マーニーはホントに肉しか食べていなかった。


 あんなに肉ばかり食べていてよくあのウエストを保てているなと感心してしまう。それとも、そんな体質なんだろうか。たまにいるよな。食べても食べても太らない人。


「サラダはお嫌いですか?」


「あまり好きではありません」


「そういえば、エマ様もサラダが嫌いだそうですよ?」


 そんなことをアルスが言っていたのを思い出して思わず声に出してしまった。


「そうなんですよぉ。私たちそれで意気投合したんですよぉ。仲がいいんです! エマちゃんと!」


「そうなのですね。エマ様は何が好きなんでしょうね?」


「うーん。あんまり食事は好きじゃないみたい。服とかアクセサリーが好きって言ってた気がするんですけど」


 なるほどな。だから、前回はドレスの色の種類が少ないから嫌だと言っていたんだ。たしかに髪留めもシンプルながら凝った細工のものだったと記憶している。


 プレゼントを上げるならそういったものがいいかなと考えながら情報を得られたことに満足していた。マーニーとはここまでにしようと思い話を切りあげる。


 そして、次はアルスとまた仲良くなろうと思い探しているとエマと話している。楽しそうに笑顔で話していることを見るとやはり仲がいいのだなと改めて認識させられた。


 こちらをアルスがちらりとこちらを見ると手招きする。

 不思議に思いながら近づいていく。


「ごきげんよう。オルト様。マーニーとはもういいんですか?」


「あぁ。少し話が出来て良かったよ。エマ様と同じでサラダが嫌いだとか……」


「えぇ!? なんでオルト様が私がサラダ嫌いだって知ってるんですか!?」


 エマ様が目を細めてこちらを見ていたので固まってしまった。まずい。もしかして嫌われてしまったか?


「はははっ。僕が話しちゃったよ」


「もーっ! なんでよぉ! 恥ずかしいなぁ」


「はははっ。恥ずかしいことなどありませんよ。私はサラダは食べますが、あのパンは好きではありません」


 指さしたのはパンに干しぶどうが入っている所謂いわゆる、レーズンパンの様なもの。あれはこの体になってもダメだったな。苦手意識があるんだろう。


「えっ!? あれが食べれないんですか!?」


「あぁ。メイドにもおいしいと言われたんだが、どうにも美味い気がしないんだ。そんなものですよ。誰にでも好き嫌いはある」


「ふふふっ。それはそうなのかもしれないですね」


 エマの笑顔が垣間見えた。これはかなり前進したと思っていい。アルスに感謝しないとな。チラッとアルスに目配せするとコクリと頷いた。


 やっぱり仲良くなっていてよかった。心からそう思ったのであった。


「僕もあの生の魚は食べれません」


「俺は好物だが?」


「えぇっ!? あれの何がいいんです!?」


「美味いじゃないか」


 俺とアルスはあれが好き、これが嫌いで話が盛り上がった。

 エマはそれを見てクスクスと笑っていて俺の作戦は上手くいっているという事を実感した。


 このまま行けば絶対にエマと上手くいくはずだ。


「そういえば、コーザ殿を見なかったか?」


 何気なくアルスに聞くと、眉をひそめた。


「あれ? まだ耳に入ってなかったんですか? コーザ殿、何者かに殺されたらしいですよ? 物騒ですよねぇ」


 俺の頭の中にコーザの笑顔が浮かんだ。


 昨日訪ねてきたのは何かを察したから助けて欲しかったのかもしれない。

 俺はまんまと討伐に出ていて居なかった。


 ハクト。許さん。

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