第4話 社交会、初回

 レベリングはあまり進んでいなくて今のレベルは28だ。そろそろ西の狩場に行ってもいいかもな。

 西の狩場に行けば50レベまでは上げられる。


 次期当主になってからというもの仕事まで押し付けられてレベリングの時間があまりなかったのだ。


 ただ、社交会が始まるあの一年はレベリングと社交会での婚約者探しに使える。それがゲームの舞台となる一年だ。


 もうすぐ始まる社交会に向けてレベリングしないと。そう思っていたのだが、サリアに止められた。


「オルト様、そろそろ社交会の準備のために採寸をしなければなりません。今日は外には出られませんよ?」


「はぁぁ。わかったよ」


 そういうとサリアについていった。

 その部屋には何人も採寸をとるメイドがいる。

 こんなに居るのかと疑問に思ったが、口には出さなかった。


「脱いでください」


「わかった」


 来ていた皮鎧を脱ぎ捨て、シャツとカーゴパンツのようなものを脱ぐ。俺はレベリングをしだしてから身体の作りがだいぶかわった。


 ヒョロ長かった俺は最近ではガタイが良くなり、筋肉質な体になっていた。その体をじっくりと見ているメイドたち。


 どこからかジュルリとヨダレを拭くような音が聞こえた。


「早く測ったらどうだ?」


「はっ! 申し訳ございません!」


 採寸し始めるメイドたち。

 そんなに人が必要かは謎だ。


「測ったら出るぞ?」


「なりません。同じ服で毎回の社交会に行くおつもりですか? 各服によって図るところが違うんです。五日分をとるのでじっとしていてください!」


「はぁ。わかったよ」


 そこから二時間ぐらいずっと採寸をされていた俺は疲れ果ててもうその日は狩りには行かなかった。


 そして、ついに訪れた社交会一回目。

 俺はキャラに会えるのが楽しみすぎて心が踊っていた。


「オルト。くれぐれもご令嬢達に無礼がないようにな?」


「はい。わかっております」


 父親に馬車へ乗り込む時に釘を刺されたのだが、あんまり心配した様子ではなかった。俺をある程度信用してくれているんだろう。


 馬車に揺られて二十分位だろうか。段々と速度を落とす馬車。そろそろつくみたいだな。下りる前に身だしなみを整える。


 馬車の扉が開けられた。

 開かれるのは王城の大広間である。

 ということは王子も参加されるということなのだ。


 無礼がないように気をつけないと。俺はマナーには疎い。教えを受けていると全然問題ないのだが、たまに突拍子もないことをして怒られることがある。根本的にこの国のマナーを知らないということが大きい。


 社交会では立食パーティらしいからそんなにマナーは気にしなくてもいいとメイドのサリアが言っていたからあまり気にする必要はないかもしれないが。


 窓からは王城が見えてきた。少し緊張するな。あのゲームでみたキャラに会えるなんて。


「オルト様、到着いたしました」


「ありがとう」


 御者にお礼を言い馬車から降りる。

 目の前には煌びやかな魔光が灯られていてその下にはキラキラと華やかなアクセサリをつけた令嬢たち。その周りに陣取るように煌びやかなご令息たちが屯している。


 それらを気にせずズンズンと奥に進んでいく。俺の目的は七大美麗なんだ。それ以外の令嬢、令息にかまっている暇などないのだ。


 その屯していた令嬢、令息が一気に道をあけこうべを垂れる。そこで自分が公爵家であったことを改めて思い出した。向かう先にはもうすでに食事をして楽しそうにしている七大美麗がそろっていた。さぁ。攻略開始だ。


「あー。オルト公爵様ー。一緒にお食事しません?」


 いきなり話しかけてきたのはメラルダ男爵令嬢である。

 胸元がはだけたドレスに押しあがっている双丘は目を見張るものがある。

 ゴクリと喉がなってしまった。実際に見ると衝撃がすごい。そして少しきつい甘い香水の香りが鼻を刺激する。


 惑わされちゃいかん。コイツは以前にでた最も攻略しやすくつまらないといった令嬢なのだ。

 

 脳内データでは

 メラルダ・ガンダン男爵令嬢(難易度:E)

 (腰まであるパープルの長髪。色気が凄い。ボンキュッボン。とにかく誰でも誘惑してくる。玉の輿を狙っているという設定)

 レベル10くらいあれば落とせる。

 話を合わせてくれる人が好き。


 コイツをうまくまかないとあの令嬢たちの輪に入れないのだ。そこはゲームと同様である。ここでゲームでは会話する為の選択肢が表示されるのだが、それは表示されることはない。


 だが、大丈夫だ。受け答えの選択肢のすべては俺が記憶している。だてに六ルートを攻略していない。


「これはこれは。メラルダ男爵令嬢ではありませんか。ごきげんよう。お食事のお誘いありがとうございます。しかしながら、先に挨拶をしてきたいお人達がいるので、まずはそちらに行ってよろしいだろうか?」


「それは申し訳ありませんでした。どうぞお通り下さいませ。またお誘いしますね」


「あぁ。ありがとう。すまないね」


 これがやんわりお断りする選択肢の言葉。ちゃんと断ってはいないのだが、違う人に用事があるんだと暗に伝えるのが断るときのマナーらしい。この世界のマナーだから現実世界ではどうかは知らないが。


 ようやく前が開けた。そしてみつけた。俺がこの世界で落としたい最重要人物。


 エマ・ハーマイン伯爵令嬢(難易度:S)

 (ピンクの髪のボブ。少し垂れてる目が可愛く、ふニャンとなる笑顔が可愛いと評判。小柄だが、胸はある。 天然で少しでも嫌なことをすると速攻で嫌われるので、好かれるのが難しい)

 レベルに関係なく、嫌われなければいい。

 幼馴染が好き。

 同じ伯爵のアルス・リーベン伯爵令息。

 毎回の社交界に出席して話し掛け、いい印象を残さないといけない。


 生で見ると胸が締め付けられる程可愛らしかった。


 俺、ホントに恋したかも。


 その時、こちらを凝視している人物にはまだ気が付かなかった。

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