第14話

「じゃあ、また明日」


「うん、バイバイ」


 放課後、教室で樋山さんと手を振る。

 いつもは、こんなことせずに屋上に別々に向かうんだけど、今日は行けないからここでお別れだ。


「あれ、はるちゃん。しずちゃんと間宮っちってこんなことしてた?」


「んーん。あ、もしかして付き合ったー?」


 手を振っていると横から森さんと水瀬さんがニヤニヤしながら入ってくる。


「なわけあるかい。樋山さんとは友達だよ」


 水瀬さんの冗談に俺はふざけ気味に返す。


「………」


「………」


「………」


 あ、あれ、滑った?

 三人の顔から表情が無くなっていた。


「ごめん。もう帰る」


 悲しくなったのと恥ずかしかったので帰ることに。


「あー、ごめんごめん!」


「間宮、たぶん勘違いしてるから!」


 三人が追いかけてくるけど、俺は逃げた。


 ごめんなさい、友達一人できたからって調子に乗ってしまいました。そうでした。俺は陰キャでした。


 殺してくれ。



◆◇◆◇◆◇



 校門前まで少し大股に足を動かす。


 近づくと、うちの高校とは違う制服を着ている女の子が立っていた。


「明莉!」


 俺は明莉の名前を呼ぶ。


「あ、お兄……ん?なんか、追いかけられてるよ!?」


 明莉が俺の後ろを指差す。

 俺は振り向くと、樋山さんや森さん、水瀬さんがこちらに向かっていた。


「あー、先頭にいる人が友達で、後ろの二人がー友達の友達だ」


「ふーん。そっかぁ」


 明莉が何度か頷き、不適に笑う。そして、何故か俺の方に近づき、俺の右腕に抱きついてきた。


「ちょ、何してんの!?」


 明莉の奇行に動揺してしまう。いつも、こんなことしないのに。


「――ま、間宮くん?そ、その子は?」


 と、そこで樋山さんが追いつく。


 追いついた樋山さんの表情は驚きと悲しみに染まっていた。


「は、ははっ、これは予想外だね」


 その後ろで森さんが乾いた笑い声を上げる。


「ばかっ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!雫がっ」


 水瀬さんは慌てて樋山さんに近づく。

 そして、「大丈夫?」と声をかけている。

 本人は呆然としていた。


 ……え、どういう状況?

 隣にはニコニコと笑顔の明莉。そして、目の前には泣きそうな樋山さんと、それを励ますように取り囲む森さんと水瀬さん。


 俺は状況を飲み込むことができずに、ただ立っていた。


「……間宮くん、隣の子は、誰?」


 震える声で樋山さんが俺に問いかける。

 俺は答えようと口を開いた。


「――小林明莉です。一応、こういう関係です」


 明莉が俺の右腕をより一層強く抱き締める。


 それを見た樋山さんの瞳の縁に涙がたまる。


 ……わけが分からない。でも、駄目な感じがする。

 というか、樋山さんもだけど、明莉もよく分からない。


 何故、わざわざ旧姓を使ったのか?

 それに、“こういう関係”で兄妹だって伝わる筈がないだろ。それどころか、誤解を生む表現だ。

 現に、たぶん三人とも違う捉え方をしている。


「……行こ、間宮くん」


 明莉が俺の腕を抱きしめたまま歩き出す。


「ちょっ」


 俺の足は引っ張られる形で動き出す。


 後ろを見ると、樋山さんの瞳から一筋の雫が溢れていた。


「あ……」


「いいから!」


 俺の足が樋山さんの方へ向かおうとするのを、明莉の大声が止めた。


 ……明莉の大きな声なんて久しぶりに聞いた気がする。


「こんなんで諦めるぐらいなら、私は認めないから。絶対にあげないから」

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