第12話

 あぁー、慣れない。


 俺は身を小さくして席に腰を降ろしていた。

 慣れないのは、俺に集まる視線。

 嫉妬や恨みが籠ったものだ。


「ま、間宮くんっ」


「……っ、ひ、樋山さん?」


 後ろから聞きなれた声で名前を呼ばれたので振り返ると、そこには下手くそな笑みを浮かべる樋山さんが立っていた。


 びっくりした。

 いつもは前の扉から皆に挨拶してくるから。突然後ろから来られるとびっくりする。


「お、おはようっ」


「お、おはよう……?」


 疑問系になってしまったのは、樋山さんが俺にだけ挨拶をしてきたから。それも、わざわざ俺の傍にまで来て。


「うぉぉー、やったね、しずちゃん」


「いぇーい」


「森さんと水瀬さんまで?」


 後ろの扉から樋山さんと同じようにやって来た二人に驚く。

 二人は流れるように樋山さんと両手でハイタッチをしている。


 え、なんなの?


「間宮っち、おはよー」


「お、おはよう」


「間宮、聞いたよー。雫を先輩から助けたらしいじゃん。カッコいいとこあんじゃん」


 水瀬さんが俺の頬をグリグリとえぐる。


「助けたって感じではないけどね。たぶん、俺が来なくても樋山さんだけで何とかなってたよ」


「間宮っちは謙虚だね。さすが、しずちゃんが惚れ――」


「な、なな、何言ってるの美晴!?」


「ふぐっ!」


 森さんが親指を立てて俺に何かを言おうとしていたけど、物凄い勢いで樋山さんが介入して口元を押さえられる。

 樋山さんは相当焦ったのか顔を赤くして肩で息をしていた。それでも、樋山さんは森さんを睨み付けているけど。


「水瀬さん、二人は何してるの?」


 俺は傍らで楽しそうに二人を眺める水瀬さんに聞いてみることにした。


「あー、あれね。にしし、間宮が美晴に取られそうで怖くなったんじゃない?」


「は、遥香っ!」


 森さんの口元からは手を離さずに、樋山さんがこちらに顔を向けて水瀬さんの名前を叫ぶ。


「きゃっ」


 水瀬さんはわざとらしい悲鳴を上げて俺の背中に隠れる。


「間宮、助けてぇ」


 甘えるような声が耳を撫でる。


「ま、間宮くん、遥香から離れて!」


 何故か俺が樋山さんから怒られた。


 えぇ、理不尽だ。


「というか、取られるってどういうこと?友達って取られるもんなの?」


 長らく友達というものと無縁の生活だったけど、いつの間にか友達の在り方は変わっていたらしい。


「…………」


 何故か、三人が静かになる。


 何かしたか?


「タイムタイム!」


 森さんが両手で“T”の形を作る。

 樋山さんと水瀬さんが森さんの元に集まり円になる。

 何か、話し合っているようだけど、少し離れてて俺の耳にまでは届かない。



◆◇◆◇◆◇



「……あれは本物だ。雫の好意に全く気づいてないよ」


「……ちょ、ちょっと、私が間宮くんに惚れてるみたいに言わないでよ」


「しずちゃんは黙ってて」


「…………」


「ヤバいよ。こんなんじゃ間宮取られるよ。雫もこんなんだし」


「うんうん。今の間宮っち意外と人気だからね」


「え、そ、それ本当!?」


「え、知らないの?間宮、優しいじゃん。顔も垢抜けたし、今人気上昇中だよ?」


「あ、もしかして、優しくされてるのしずちゃんだけだと思った?聞いた感じ、結構前からちょいちょい手助けとかしてたみたいだよ?」


「うそ……」


「これは、なりふり構っていられないよ?」


「挨拶なんかで満足してないで、もっとグイッと行かないと」


「そ、そうだね。あ……べ、別に間宮くんのこと好きってわけじゃないんだけどね!ただ、間宮くんに彼女ができたら一緒にいれなくなるから、それが嫌なだけだから!」


「それが好きって言うんだよ」


「自爆すんなし」

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