第2話

 学年一の美少女の本性を知ったところで、学校はなくなる筈もなく俺は自分の席に座っていた。


「皆、おはよー!」


 教室の入り口から綺麗な声が耳に入る。

 俺の肩はビクッと跳ね上がる。

 何故だか顔を上げれずに机の木目を数える。


 対してクラスメイトは「おはよう」とそれぞれ嬉しそうに返す。

 クラスのアイドルだから当然だろう。


 ポン


「ぇ?」


 誰かが俺の右肩に優しく触れた。

 俺はゆっくりと振り返る。


 そこには、樋山さんが満面の笑みでたたずんでいた。


「間宮くんも、おはよう」


 ――あのこと言ってないよね?


 笑顔だけど、視線がそう語っていた。


「お、おはよう」


 俺は首を縦に振りながら挨拶を返す。


 それを見て満足したのか、目元まで笑顔にしてどっかに行く。


「おはよー」


「あ、おはよう」


 その間に、俺と同じようにクラスで陰キャみたいな立ち位置の人にも挨拶していく。

 そのおかげで俺が変に目立つことはなかった。


 挨拶が終われば同じ陽キャ女子と楽しそうに談笑していた。


 もう、朝のHRが始まろうという時間だった。


「雫さん!」


 入り口から大きな声が教室に響き渡る。

 教室にいる人の視線が一斉にそちらに向く。


 そこに立っていたのは、爽やかな笑みを浮かべるイケメンだった。


 彼を見て教室がどよめく。


 あの人は確か、サッカー部のエース。一年生の女子に特に人気があったはず。


「なんですか?」


 樋山さんが遠くから彼に問いかける。


「今日の昼休み屋上で待ってます」


「え?」


 彼はそう残して去っていった。


 樋山さんは呆然としていた。


 そんな中、クラスはひときわ盛り上がっていた。



◇◆◇◆◇◆



 昼休みになる。


 約束通り……なのか?一方的だった気もするけど。

 でも、樋山さんは屋上に向かうようだった。


 それから、不思議なことに彼が樋山さんに告白することは学校中に広まっていて、“ついに、樋山さんに彼氏が!?”なんて噂も流れていた。


 実は、俺も樋山さんは付き合うんじゃないかな、と思っている。

 それほど、彼がイケメンだったから。端から見ればお似合いカップルだ。


 樋山さんが立ち上がり、教室を出ていく。

 学校は過去にないほどの盛り上がりを見せた。



◆◇◆◇◆◇



「はあ」


 俺は憂鬱な気分で屋上のフェンスの寄りかかる。

 下からは生徒の声が雑音となってここまで届いてくる。


 俺もその中に混ざりたい。


 でも、約束だからなあ。


 キィィ


 屋上の扉が重い音を立てて開く。


「よかった。ちゃんといたんだ」


 普段より一段と低い声で彼女は入ってくる。


「来ないと怖いからな」


 根も葉もない噂を流されそうだ。


「よく分かってるじゃん」


 こわっ。

 悪役のような笑みを浮かべる樋山さんに俺は恐怖した。


「私のこと言いふらしてないようで安心した」


 ま、どちらかと言うと、言いふらす相手がいないんだけどな。

 陰キャだし。


「信用されるようにこれからも頑張るわ。じゃ、俺は帰らせてもらうね」


 俺はそそくさと足を動かすわ


「は?帰らせるわけないじゃん。愚痴、聞いてないでしょ?」


「ですよねー」


 逃げようと思っていました。



◇◆◇◆◇◆



「――で、私が断りづらくするために学校中に噂を広めて。そんなんで外堀埋めれると思ったのかな?」


「滑稽だねぇ」



「――あいつ、告白するときですら、私の胸しか見てなかったのよ!」


「酷い話だねぇ」



「――男なんてどいつもこいつも外見しか見てないのよ!」


「その通りだぁ」



 樋山さんの愚痴は一時間にも渡った。

 今日の告白で溜まりに溜まったストレスを吐き出すかのように一方的に愚痴っていた。


 お察しの通り、樋山さんは彼からの告白を断ったらしい。

 その結果に学校中が驚愕していた。

 樋山さんとは、もう誰とも付き合えないなんてことも囁かれ出した。


 にしても、愚痴が長すぎて、俺は途中から適当な相づちを返しているだけだった。

 それでも、かなり疲れた。


 これが毎日あるかと思うと、俺は安易にこの約束をしたことをとても後悔した。

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