第8話:同行志願

オレが向かう先はネロの父親――バルデウス・D・アーク公爵というらしいが――の私室。幸いというべきか、青髪メイドさん以外には誰とも出くわさず到着することができた。

扉に近付くと、中から複数の声が漏れ聞こえてきた。

オレは周りに誰もいないことを確認し、そっと扉に耳を当てる。


『――旦那様、先ほどの地震の原因が判明しました』

『――何だというのだ』

『――王国の中央広場付近に謎の建造物が地面からせり上がってきたそうです。おそらくは、その際の衝撃かと』


おおっ、やっぱり廃遺跡ルインの出現イベントが起きたっぽい。

さらに耳を強く押し当て、注意深く聞いてみる。


『――して、被害は?』

『――不明ですが、おそらくは相当なものかと』

『――そうか。なんにせよ、その建造物とやらを見に行かねばなるまい』


コツ、コツ、コツ。

やべ、足音だ。こっちに来る。


目の前の扉が開け放たれ、中から威厳たっぷりな髭を蓄えたガタイの良い強面のおっさんが登場した。

ネロの父親、アーク公爵だ。

「……ネロか」

「あ、その、どうも……」

ギロリと鋭い目で睨まれ、オレは思わずそんな風に挨拶をしてしまった。全然息子っぽくなくなっちゃったよ。

だが、アーク公爵は特に気にする様子もなく、静かにオレに告げる。

「父は忙しい。話があるなら使用人に伝言を――」

「い、いえ! その、父上は今の地震の原因を調べに行くのですのよね?」

「……聞いていたのか」

アーク公爵は面倒くさげにそう言ったあと、ぞんざいに頷いた。

「そうだ。どうやら王国の地下から謎の物体――使用人セブルスの調査によれば建造物とのことだが――それを調べに行く」

「セブルス……」

オレがちらっとアーク公爵の隣を見ると、執事服を着た白髪の上品な老紳士が立っていた。ああ、この人はアーク公爵家の筆頭執事のセブルスさんだったっけ。使用人のトップというだけに、ネロボクでも顔くらいは知っている。


「だからネロよ、あまり時間を取らせないで――」

「その調査、ボクも連れていってくれませんか!」

アーク公爵の言葉を遮り、オレは一息にそう言った。それがここまで来たオレの目的なのだ。


廃遺跡ルインの出現イベントには続きがある。

謎の遺跡が現れたあと、王国の実権を握るアーク公爵が数名の調査隊を結成し、遺跡内部の探索へ向かう。

そしてその中で、彼らは一人の子供を発見するのだ。

このゲームの主人公――レイフォン・ルーヴェ(名前変更可)を。

あ、ちなみにここでタイトルがドーン! って表示されてゲームスタートね。


まあ余談は置いといて……

レイフォン(名前変更可)はプレイヤーの分身だ。しかし、このゲームをプレイしていたオレは今、ネロの身体にいる。

ならば、この世界のレイフォンは一体誰の分身だというのか。

レイフォン自身の人格を持った普通の人間なのか、それともなのか。

オレはそれを知るために、どうしてもレイフォンにこの段階で接触しておきたかった。

じゃなけりゃ次にあいつと会うのは五年後――学園の入学イベントだからな。


アーク公爵はしばらく押し黙って何かを考えている。

やっぱり駄目か……?

少し緊張しながら返答を待っていると、やがてアーク公爵はゆっくりと頷いた。

「……いいだろう」

「え? やった!」

思わずガッツポーズ。

セブルスさんは柔和そうな表情を崩さず、しかしほんの少し驚いたように「旦那様、よろしいのですか?」と尋ねた。

「よい。元々私兵から数人を選んで調査に赴く予定だった。息子の子守はそのうちの一人にでも任せておけば大丈夫だろう」

「しかし、未知の場所にはどんな危険が待っているか……」

「くどいぞ、セブルス」

アーク公爵がギロッ! と睨むと、セブルスさんは押し黙って静かに一礼した。

こえーよ、このオッサン……

まあとにかく、これで自分の目で『ルインズ・メモリー』のオープニングイベントを見られるぞ。

果たして廃遺跡ルインには何が待っているのか……注意しなきゃな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る