別れたってホント?と何度も聞かれる、疲れる

狐照

第1話

「なぁ相棒よ」


「なんだい相棒よ」


「アイツと別れたってホント?」


人生の大半を一緒に生きてきた相棒にさえそう聞かれ、俺の普段の気遣いとはなんだったのかと思ってしまう。

今度コイツが浮気して奥さんと大喧嘩しても、仲をとりなすのはやめようかな。


「まぁ別れようと思ってるけど」


正確にはまだ別れ話はしてない。

けれど近い内に別れようとは、思ってる。


「マジもんかよ…あんなに貢いでたのに?」


貢ぐとはまた聞こえの悪い言葉を使う狼だ。

いや確かに貢いでいたけれど、それはあの人には必要経費だったからであって。


「浮気でもされたのか?」


図星をつかれ黙ってしまう。


あの人の『美』を維持するにはお金はあって困る事はない。

だから遠慮なく使って自由に、美しく、輝いていて欲しかった。

俺はそれも愛情表現だと思っていた。

それがいけなかったのか、とは思っているけれど。


まさか俺以外の男と一緒に居る現場を見てしまうとは思ってなかったし。

噂されていた奴と本当に仲良さげとか目を疑ったし。

触れ合ってなければおっけー?なのかと許そうしちゃう俺も俺だし。

俺があげた宝飾品を付け煌びやかな衣装のままに、見目の良い同業者と笑い合ってる。

浮気、確定、だと思ってしまった。

いや確認すべき。

でも、怖い。

仕事のつきあい。

それはどこまで?

こわい。

ききたいけど、きけない。

そうやって判断に迷っていたら、再び別の男と居るとこ見ちゃって。

ホテルはいるとこみおくっちゃって。

もう、ショックで。

それで三日連続ステージを観に行けなかった、それだけで別れたと判断される俺よ。


「…二度とお前の浮気のアリバイ付き合わないから」


「げ!!図星!!そしてそんな困る相棒!!」


神狼にそろそろ進化しそうな相棒が、悲惨な鳴き声を上げた。

ご自慢の尻尾も丸めて、まるで群れからはぐれた赤ちゃん獣だ。

それでも中身を知っているので可哀想とは思わない。

後、ホント、俺の今までの気遣いってなんだったんだろうね?


そんな思いを笑顔に込めると、相棒が「きゅうん…ごめんなさい…」心の底から謝罪してくれた。

正直、言葉なんて要らないのだ。

でも、相棒だから。


「二度とこの話題振るなよ」


これからしようと思っている別れ話、しんどいのだ、理解しろ。


「はい…っ」


しっかり反省したであろう相棒の腰を軽く叩き、それじゃあ行きますかと歩き出す。

進む事数秒で顔見知りから「アレと別れたってホントか!?」と問われ、俺は何か悪い事でもしていたんだろうかと、必死に平常心を保たせた。

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