第2話 封印されし魔王

「今日も一日元気に生きましょう!」

ヒソカは「はいはい」と返して再び目を閉じた。しかしすぐに自身の体を大きく揺すられた。

「だああ、もう。俺はもう一度寝るんだよ」

顔を歪めて言った目の前にエマの姿がある。ベッドにいるヒソカの上半身に両手を置き、先程から何度も揺する犯人だ。

「もう遅いよヒソカ。リツは朝ご飯食べ終わっちゃったし、ヒソカも早く起きて」

頬を膨らませるエマに、ヒソカは頭をかいて返した。

「わかったわかった。で、今日の朝飯当番のエマさん。メニューは何ですか?」

ゆっくりと上体を起こし、あくびをしながら歩き出した。洗面台で冷たい水を顔に勢いよくかけて、強制的に己を目覚めさせる。

「今日のメニューは手作りパン、目玉焼き、サラダ、ダネンジェルの香草焼きでございます、お坊ちゃま」

先程の自分の敬語を真似して言うエマに、ヒソカは軽く肩を小突いた。へへへと笑顔のエマは「昨日ヒソカがダネンジェルを狩って塩漬けにしてくれたから、少しずつ切って調理したの。お肉のジューシーさにさすがのリツもニヤニヤしてたよ」

リツのニヤニヤ顔を想像し、ヒソカは思わずぷっと噴き出した。それにつられたのかエマも同じように口元に手を当てる。

「誰がニヤニヤしてたって?」

ヒソカとエマの間から声がした。二人はひきつって「……さあ?」と言うと、声の主は二人の肩に手を置いた。

「まあおいしかったのは本当だけどね。さ、早くヒソカも食べちゃいなよ。今日はこれから魔法の修業があるんだから」

魔法の修業。それを聞いてヒソカは眉根を寄せて舌を出した。そしてそれから逃れるように、ダイニングの椅子に座ってエマが準備した朝食に口をつける。

「私達はこの地を守る魔法使いだからね。今の自分に満足せず、日々鍛錬あるのみ、だよね? リツ」

エマの問いかけにリツは笑顔で頷いた。しかし朝食を頬張りながら、相変わらずヒソカは仏頂面をしている。リツはヒソカの前に座ると、自然とエマも隣に腰をおろした。

「修行って響きが嫌なんだよな。正直俺、自分の魔力に満足してるし。何したってこれ以上増えないと思うぜ?」

フォークを片手に溜息をついた。それを聞いたリツはかぶりを振る。

「確かにヒソカの魔力は……と言うより、僕達三人の魔力は大陸随一だろう。それくらい突出していると自分でも思うよ」「それなら」「でもさ、それで満足して何もしないで、いざ魔王が復活したらどうする? もしかしたら魔王は今の僕達より数倍強力かもしれない」

真面目な顔つきになったリツを見て、ヒソカとエマの表情も同様に変化した。部屋は沈黙に包まれたが、三人の脳裏に一人の存在が浮かんでいた。

「魔王……か」

エマは呟いた。そしてヒソカに目を向けると、「そろそろ封印が解けるかもしれないからな」と目を細めた彼が言った。

「だからヒソカ。どうか僕達三人は、誰よりも強くあろう。世界を滅ぼそうと画策する魔王から、みんなを守れるように。正しい力の使い方のために、自分を過信せず日々鍛錬しよう」

リツの言葉に「……そうだな」とヒソカは珍しく同調した。そしてエマも力強く頷き言う。

「毎日を生きる全てのために、私達のこの力はある。この世界を支配する魔王には屈してはいけない」

いつも柔らかな調子の彼女とは違い、目を大きく見開き両手の拳を丸めて強い口調だった。ヒソカはそんなエマをじっと見つめる。いつか来る魔王との対峙に緊張しているのか、僅かにその手は震えていた。

「……エマ、目玉焼き、半熟がよかった」

真剣な面持ちのままそう言うヒソカに、エマは目を丸くしてから爆笑した。「ごめんね、考え事してたら焼きすぎちゃった」

それを聞いたヒソカはエマを見据え口を開く。

「火傷とか心配だから、料理中は考え事すんなよ。何かあったら俺に全部言え。それに魔王なんざ、俺がぱぱっと片づけてやるから安心しな」

エマは目を細め、「ありがとう。いつも頼りにしてるよ」と返した。

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