第1話 300年振りの再会


 「んあ?」


 家で寝ていると、気付けば何もない真っ白な空間にいた。


 「人間基準ではかなり久々ね。元気にしてたかしら?」


 「んお? あー」


 かなり久々だな。ここ。

 何年振りだろ。数えるのも面倒くさくなって忘れちゃったな。


 「ちょっと。ちゃんと喋ってくれる?」


 「んんっ。ちょっと待って」


 森で隠居してると、喋る事も少なくなっちゃって。

 独り言は良く言ってたんだが。

 喋り方を少し忘れてるんだ。


 「久々だな。全然連絡して無かった癖に今更なんのようだ?」


 やば。めんどくさい元カレみたいな言い方になってしまった。


 「魔王討伐を頑張ってたからゆっくりさせてあげようと思って。それとも地球に帰りたかった?」


 「どっちでも良かったと思う。昔過ぎて覚えてない」


 「ふふっ。そう。まぁ、あれから300年経ってるもの。人間では無理はないわね」


 300年も経ってたのか。

 我ながら良くそんな長い時間ダラダラ出来たな。

 偶に森に入って食料調達するか、街に本を買いに行くぐらいで、ほとんど引きこもり生活だったからな。


 仕方ない。

 異世界に来てから約30年はずっと激務状態だったんだ。

 その反動で働きたくなくなっても仕方ない。

 うん、俺は悪くないな。



 俺は、地球で普通に暮らしていた中学生だった。

 いや、親がいないのは普通じゃなかったか。

 まぁ、それはさておき。


 いつもの様に朝起きて、右眼の疼き具合をチェック。

 今日もしっかりウズウズしているなと、確認し終わった後は、水性マジックで左手に六芒星の魔法陣を書く。

 その上から包帯をぐるぐる巻きにして、封印完了だ。


 朝食を食べて、さて登校しようとした時に、突然光に包まれた。


 「で、この性悪女神とここで出会った訳だ」


 「あら、失礼ね。昔のあなたはあんなに可愛らしかったのに。すっかり生意気になっちゃって」


 「あの頃の俺は不治の病にかかってたんだ…」


 そう。あの頃の俺は若かった。

 この目の前の女神に異世界転移への切符を目の前にぶら下げられたら、厨二病真っ最中の男が飛び付かない訳ないだろう。


 俺は女神の話をまともに聞かずOKした。

 それが地獄の始まりだった。


 降り立った国は崩壊寸前。見渡す限り魔物

 女神に貰った能力もまともに使いこなせないのに、唯の少年が戦える訳がない。


 初めは無様に逃げ回り、少しずつ能力の練習をした。

 思っていた感じとは違ったが、とりあえず魔法は使えたんだ。

 厨二病だった俺が心を踊らせない訳がない。

 段々と、能力を使えるようになると、付近の魔物を殲滅。


 そこに至るまで5年くらいは掛かったかな。

 一端のハンターと自負出来る様になると、各国を回って魔物を倒していく。

 倒しても倒しても減らない魔物に、何度も心が折れそうになり、辞めてしまおうかと思った。


 それでも、なんとか心を奮い立たせた。

 目の前の性悪女神がご褒美を提供してくれたからな。


 「ここの魔物を倒してくれたら、膝枕してあげますよ」

 「ここを助けてくれたら耳掃除してあげますよ」

 「分かりました。四天王一人倒す事に頬にキス一回でどうです?」


 女性経験の無かった俺はそんな甘い言葉でころっとその気にさせられ、ご褒美目当てに頑張った。

 なんて安上がりな男なんだと、今は思う。

 でも、あの時はそれがモチベーションになっていたんだ。


 「ふふっ。私とあんな事やこんな事する為に必死に頑張ってましたねぇ。とても可愛らしかったわ」


 「くそっ! あの頃の俺はなんでこんな奴の為に頑張ってたんだ!」


 こんな女神だが、顔は良いんだ。

 もう全ての男を虜に出来るんじゃないかと思うほど美貌。

 俺が欲に眩んでも仕方ない。

 大体の男は美人にお願いされるとほいほい了承してしまう生き物なんだよ。


 そして、合計で約30年程の時間をかけて、魔王の元に到達。

 もし魔王を倒したらどんなご褒美があるんだと、下心満載に魔王に挑む。

 三日三晩の死闘を繰り広げ、討伐。


 女神からの連絡を今か今かと待ち続けたが、まさかの放置プレイ。

 俺はかなり落胆したが、その内連絡はある筈だと表世界から姿を消して、魔の森にログハウスを建てて隠居した。


 そこから女神が言うには約300年。

 途中、寿命はどうなってるんだと思ったが、体は20代後半ぐらいで老化が止まっており、ずっとダラダラ過ごしていた訳だ。


 「ご褒美をくれる気になったのか?」


 「勿論よ。それとは別にお話もあるけどね」


 え、マジ? 本当にくれるの?

 ベッドインまでお願い出来る?

 俺の300年物の童貞を引き取ってくれるの?

 いや、童貞じゃないけど。ほんとだよ。


 俺は鼻息荒く、ふんすふんすしてると、女神は手で俺を制して話を続ける。


 「先に話を聞いてちょうだい。実は地球のお姉様から連絡があったのよ」


 む? お姉様?

 地球の女神と姉妹なのか。

 それは初めて知ったぞ。


 「実は、あなたを地球に返してくれとお願いされちゃって」


 「はい?」


 「地球も色々と問題が起きているみたいなの」


 「いや、それだけじゃあ全く意味が分からんのだが」


 「そうね。もう少し詳しくお話しましょうか」


 そりゃそうよ。

 いきなりそんな事言われましても、訳が分かりません。

 別に帰りたくない訳じゃないけど、めんどそうな話ならお断りだぞ?

 地球の女神が物凄い美人とかなら、話は変わるかもしれんが。

 この女神の姉か。

 絶対美人なんだろうな。



 

 

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