【第二章:科学探偵クラブ(3)】

2時間目の社会科しゃかいか授業じゅぎょうが終わったあと、真中しずえは相葉由紀と空木カンナと一緒に早足はやあしで旧校舎の図書室にかっていた。


「私、実は旧校舎に入ったことないの」と、空木カンナは言った。「そっか、カンナは去年きょねんこの町にしてきたんだもんね。たしかに5年生のときは旧校舎に行くことはなかったね」と真中しずえが答える。


「うん。去年の授業は全部、私たちのクラスがある新校舎だったし、あえて旧校舎に行く理由りゆうもなかったから。でも、相葉さんは旧校舎にはよく行ってるの?」

「ううん、そんなには行かないよ。旧校舎の古い図書室に行くときくらいかな。」

「旧校舎の図書室と新校舎の図書室ってそんなに違うの?私、去年この学校に転校してから実はまだ一回も図書室には行ってないんだ。」

「え、そうなの?もったいないよ。色んな本があるんだよ。読書はきらい?」

「大好きだよ。本はいいよね。自分が知らなかった新しい知識ちしきが入るし、他の人が体験たいけんしたものも吸収できるし、色々な人生を送った気になれるわ。」

「そうよね。私も読書は大好きなの。でも、今の空木さんのセリフ、すごい大人おとなっぽいね。」


「でしょー!」と、真中しずえが二人の会話かいわに割って入る。


「カンナってこんなに可愛らしい女の子なのに性格せいかくは大人の女の人みたいなの。」

「またその話?しずえちゃんっていつも私のことを年上としうえあつかいするんだよね。大人の女ならまだいいけど、時々ときどきオバさん扱いすることもあるんだよ。」

「え、私そんなこと言ったっけ?ごめーん。」

「あんまり反省はんせいしてるようには見えないけど?」

「反省してるって。ごめんね。でも私、本当にカンナの大人っぽいところが大好きなの。尊敬そんけいしているお姉さんって感じ。」

「ま、今日はそのくらいでゆるしてあげるわ。」


「ぷっ」と相葉由紀はき出した。


「どうしたの?」と真中しずえが聞く。


「なんか二人のやり取りが面白くて。すごく仲の良い姉妹しまいみたい。私、空木さんがこういう性格だって知らなかった。」

「そうなのよ。空木さんってクラスでは静かにしてるでしょ。でも、すごくたよれるお姉さんキャラなのよ、本当は。お人形さんみたいに可愛らしい見た目なのに。」

「いいなー、私もそんな友達がしかったな。私、友達を作るのが苦手にがてで。だからいつも学校では本を読んでたの。」

「私たちもう友達だよ。だって由紀ちゃんも科学探偵クラブの一員いちいんでしょ。これから幽霊の謎を一緒にくんだから。」

「え・・・?」


「しずえちゃん、相葉さんがこまってるよ。勝手に科学探偵クラブの一員にしたら可哀想かわいそうよ。私だって、知らずに科学探偵クラブの一員にされてびっくりしたんだから。」

「カンナちゃんは私の相棒あいぼうだから当然とうぜん!」

「またそうやって誤魔化ごまかす。まあいいわ、図書室に着いたから中に入ろうか。私、ここには初めて入るからちょっとドキドキするわ。」


「由紀ちゃんは昨日どこら辺の席に座ってたの?」と、図書室に入ろうとしていた真中しずえが聞いたのだが、相葉由紀は図書室の入り口で立ち止まって下を向いたまま返事をしなかった。


「どうしたの?」

「昨日のことを思い出しちゃったの。図書室に入るのが怖いの。」

「大丈夫だよ。入ろ?」

「でも・・・」


「じゃあ、私が見てくるね。どこら辺にすわってたの?」と、空木カンナが聞いた。


「え、そんなの悪いよ。」


「大丈夫よ!」と、真中しずえが空木カンナの代わりに答えるのを聞いて、空木カンナは苦笑にがわらいをした。


「えっと、一番奥の席だった。図書準備室にはいるとびらの近く。」


「じゃ、行ってくるね」と言って図書室に入っていった数秒後すうびょうご、図書室の奥の方から「あったよー。幽霊も人間も誰もいないよー」という空木カンナの声が聞こえた。


「由紀ちゃんの筆箱あったみたいよ。一緒に行こう」と言って、真中しずえは相葉由紀の手をとって図書室に入っていった。相葉由紀が昨日座っていた席のところにつくと、一足先に図書室に入っていった空木カンナは図書準備室へと続く扉の前にいた。


「カンナ、何してるの?」

「私、ここに入るの初めてだから、ちょっと散策さんさく。これが幽霊がいるって言われてる図書準備室への入り口なのね。」

「そうね。やっぱりかぎがかかってるね。」

「うん。数字を回して鍵を開けるタイプの南京錠なんきんじょうか。『0』から『9』までの目盛めもりがついたダイヤルが4つ。組み合わせは一万通まんどおりか。ランダムにためしても開かないわね。」


「空木さん、計算けいさんが早いんだね」と、自分の筆箱とノート、それに昨日読んでいたアガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』の本を手にした相葉由紀が、真中しずえと空木カンナに近づきながら言った。


「そうかな。『10』の四乗だから、そんなに複雑ふくざつな計算じゃないよ」と空木カンナが答えると、「よんじょう?」と不思議な顔をして相葉由紀が返した。


「カンナ、それって中学で習う内容じゃないの?」

「あれ、そうだっけ?」

「もう、カンナって本当に小学六年生なの?」

「あー、またそうやって年寄としよあつかいしてる。」


と、そのとき『キーンコーンカーンコーン』と三時間目の授業が始まるチャイムの音がり始めた。


「あ、まずい」と真中しずえが言って、走り出した。「幽霊探しの続きは放課後にしよう」と言いながら走る真中しずえのあとを追っていた相葉由紀は、「なんかとんでもないことにまれちゃったな」と思いつつも、これまでとは少し違う学校生活に少し心がウキウキしていた。


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