7 お話

用意されたフォークを使い、ハンバーグを一口サイズに切り分ける。フォークを押し込んだとたん中から肉汁が溢れだしていく。特製のソースと混ざった肉汁が余計に食欲をそそった。


 一口サイズに切り分けた、熱々のハンバーグを口に運ぶ。特製ソースと肉汁が混ざりとてつもない旨味を引き出す。


「あっつ!!!」


「……美味しい」


「フー、フー。はぐっ……美味しい、てかあついっ!」


 とても美味しい、今まで食べてきた家庭料理の中で選ぶのならば、ある一つを残しトップを取れるくらいに美味しい。


 特製のソースが肉汁との相性バッチリすぎる、フォークが止まらない。


 ただ、まあ、ひとつ言うとするなら……。


「切実にお米欲しい……」


「すぅ、言うな……」


 どうやら篠野部も同じことを考えていたらしい。これはとてもご飯にあう、そういう味だ。


「白米、ですか?白米は東の島国付近でしか普及していないんですよ。ごめんなさいね」


 イザベラさんの言う“東の島国”とは日本に近い場所のようだ。


「え?あっ、いえ、全然!ハンバーグすごい美味しくてつい」


「ふふ、ありがとうございます」


「ポトフもうまいぞ〜」


 イルゼの言葉により、永華はポトフに目を向ける。


 玉ねぎ、ニンジン、ウィンナー、ジャガイモ、キャベツとたくさんの具が入っており食べ応えがありそうだ。


 スプーンでいくつかの野菜とスープを掬って食べてみれば野菜の甘さはあるけどさっぱりっとした味だ。


 玉ねぎはとろとろ、ジャガイモはホロホロ、ニンジンは甘くて柔らかいし、ウィンナーがスープの旨味を吸っていて美味しい。


「…っつ!」


 ポトフもハンバーグも熱々で、猫舌の永華は苦戦しながら夕食を食べることになるだろう。


「君は冷ますことを覚えたらどうだい?」


「うう、わかってるんだけどさあ。おいしっ」


「ふぅー、とっても美味しいです」


「お口にあったようでなによりです」


 永華は次の狙いをサラダに定めた。恐らくはレタスだろう。それのうえにはなぞの薄黄色い粉がかかっていた、ドレッシングの代わりだろうか?


 フォークでレタスを刺し口に運ぶ。一口食べるて噛むと野レタスがいい音を立てる。瑞々しく新鮮で、いつも食べているものよりとは味が違う。


 かかっていたのは味からして粉チーズだろう、レタスと粉チーズは相性抜群で食べていて飽きない。


 ハンバーグ、ポトフ、サラダに、ポトフ、サラダ……。次から次に手が動いて止まる気配がない、手を止められない。


 ドタバタがあったからか何時もよりがっついているような気がする。このまま、おかわりもできそうだ。


 美味しい料理に、温かい人達、自然と笑みが漏れた。


 それからナノンが口回りを盛大に汚してイザベラに世話を焼かれていたり、イルゼがたくさん食べておかわりをしたり、家族や客人に料理を誉められて嬉しそうなイザベラが見れた。


 どこにでもあるような見ていると心のどこかが温かくなるような、そんな家族の日常風景だった。




 夕食が終わり、ナノンはお腹いっぱいになったからか、首を左右に揺らしお眠になっていた。イザベラが慌ててお風呂に入れにいき、その間にイルゼが食器を洗う。


 食器洗いは二人が立候補していたが客人に仕事はさせられないというイルゼの前に敗北をきしていた。


 二人は大人しくリビングにて出されたお茶をのみ、今後のことを不安視していた。


「働くったって、全く常識の通じない場所でうまくいくかな。それ以外にもなにかできることないかな」


「そもそも働く場所が決まるかも微妙だろう。今、僕らに取れる選択肢は働いて、金を稼いで、その金を使って調べものをすることだ。何もわからなに現状、他の選択肢は自然と法外なものになるだろうな」


「……はあ、やっぱそうだよねえ。飲食店のバイト経験はあるんだけど、篠野部は?」


「ない」


「そっか」


 そういうども永華の働いていた居酒屋であり、培った技術が活躍するかと言えば不明瞭であった。


 自然とため息が出てくる。どうにもこうにも手詰まり感が否めない。


「なら、うちで働く?」


 不意にかけられた声はイルゼのものだった。驚き振り替えれば扉を少し開けてこちらを覗き込んでいた。


「あ、ごめんね。つい聞こえちゃって」


「いえ、聞こえるところで話していた僕たちに非があるので」


 予想外の人物の登場に永華は固めってしまう。


 カルタの言葉に安心したのか、ぴょこっと出てきて椅子に座った。イルゼの真剣に表情に思わず姿勢をただす。


「君達さえ良ければうちで働かないかい?って言ったんだ。さっき話し聞いちゃったけど、宿もお金もないんだろう?なら“住み込み”で働けばいい」


「いや、そうですけど!だからって私たちに好都合すぎませんか?」


 思わず声を荒げてしまう。こうも好都合なことがあっていいのだろうか?人の親切は断るつもりはないが、これは流石に裏を疑ってしまう。


「ふふ、警戒するのはいいことだよ。いいこだね」


 なんと言うか、気のぬけてしまうようなことを言う人だ。目を見ても、表情を見ても何を考えているのかわからない。


「いや、流石に警戒するっての……ご飯をくれたり、泊めようとしてくれたのはありがいたけど」


「同感だ」


 篠野部なんかしかめっ面を通り越して、若干起こっているように見える。


「不審人物を店で働かせて、なんの特があるんですか?」


「そうだね。まずまず、力仕事を任せられる人間が少ない。客が多く、さばくには人手が足りない。この辺りが一番の理由だね」


「そーいうこと……」


 確かに人を雇おうとするには十分な理由だ。


 そういえばと、ナノンちゃんを探しに行こうとしていた大人達を思い出す。パット見て百はゆうに超えていただろう、あれに来ていないであろう老人や子供おあわせれば……うん、確かに手が回らなくなるのもおかしくはない。


「それなら僕らでなくとも身元がはっきりしたものを雇えばいいのでは?」


「それがね、若い子の大体は騎士学校か魔法学校に行くから、こんな田舎に留まらないんだよ」


「魔法学校?」


 それを聞いて脳裏をよぎったのは、あの赤い陣だった。その魔法学校に行けば何かわかるかもしれない。


「留まらないってことは、ここよりも都会に行くんですか?」


「うん、騎士学校も魔法学校も、ここから大分離れたところにあるんだ。この国の王都、アストロ。魔族も、人も、獣人も、人魚も、集まり暮らす、種族のサラダボウル」


 イルゼさんの言葉に意識が引き戻される。今この事を考えても仕方ないのに、なにやってるんだか。


「若い子達は軒並み、そこを目指す。君達の反応からするに違うんだろう?なら一考してくれないかな?」


「……篠野部、乗っかろうよ。路頭に迷うよりいい。何かあれば出ていけばすむ話だし」


 なにより野宿とか空腹とか、お風呂にはいれないとか嫌だし。


「……ふう、今の僕らは危うい状況で、その申し出はとてもありがいたいものです。なりふり構っていられない。是非ここで働かせてください」


「お願いします」


「うん、うん。いい返事、聞けて嬉しいよ。いや〜、最近はナノンと遊ぶ時間がなくて困ってたんだ〜」


 さっきまでの真剣な雰囲気はどこに行ったのか、さっきまでとは丸切り違う、正しく親バカって感じに変わった。


「お二人とも、お風呂にどうぞ。って、何かありましたか?」


「あ、イザベラ、この二人住み込みで働くことになったから」


 お風呂からでて、ナノンを寝かしつけてきたイザベラにイルゼが何気なく、そういった。


「はぁ……後でお話ししましょうか。お父さん」


「あ……うん」


 勝手に決めて起こられるお父さん、あるあるの図。そこら辺は異世界でも変わらないんだなあ。


「どちらが先にお風呂に入りますか?」


「あ、じゃあ戌井、先に行きな」


「いいの?ならお先に」


 この後、お風呂にはいる二人だが二人とも揃って扱い方がわからずイルゼと“話し合い”中のイザベラに声をかけることになった。

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