第10話

まず私は大広間の調査を始めた。もしかしたら何か花菜さん殺しの証拠があるかもしれないと思ったからだ。


しかしそうはいかなかった。証拠らしい証拠はどこにもなく、ただ「花菜さんが死んでいる」という事実だけが残った。


椿さんはこんな状況でも仕事をしないといけないということで先に大広間を出た。


私たちも今のままではどうしようもないため、他の人たちを呼びに客室へと向かった。


私たちが客室へ繋がる階段を登ったとき、「キャーーーッ」と悲鳴が聞こえた。私は咄嗟に理解した。あの声は一織ちゃんの声だ。まさか、一織ちゃんに何かがあったのか?


走って悲鳴が聞こえた方へ向かうと、そこには一織ちゃん、礼司くん、付喪さん、菊さんの4人が1つの部屋の前で立ちすくんでいた。


私は「いったい皆さんどうしたんですか?」と尋ねた。それに対して、付喪さんが「死んでるんだよ…」とあまりに弱々しい声で答えた。


そこにいた人たちを押しのけて部屋に入った私と凪が見たものは、新たなる惨劇だった。


粉々に砕かれた石像、腹に突き刺さった刀、そして………


ベッドに横たわり、足を切り落とされた河童 作の死体がそこにはあった。


これで第二の犠牲者が出てしまったわけだ。落ち着いてなどいられない。少し油断しただけでも犠牲者は増え続ける。


その事も念頭に入れつつ、私はこの部屋の調査を始めた。何か花菜さんの殺害に繋がる手がかりが見つかることに賭けた。


私が調べていると、一織ちゃんもいつの間にか参加していた。本人曰く、「私だって探偵です。響さんばかりに任せてはおけません!」ということらしい。


そのおかげで思いのほか早く調べることは終わった。ただ、手に入った情報はほとんど河童さんの殺害にばかり影響していて、花菜さんの殺害とは関係がなさそうだった。


私が気になったことは3つある。


1つ目は彼の死因だ。頭から出血しており、部屋に砕かれた石像があったことから、撲殺かもしれないと考えた。


しかし、腹部からはより多く出血しており、腹部に刺さった刀による刺殺である気もする。


つまり、死因がハッキリしないのだ。


2つ目は部屋にあった荷物だ。何故か彼の死体があった部屋には彼の持ってきたスーツケースがないと付喪さんが言っていた。


気になって鞄の中身を見たところ、「TAMAMO」と書かれたキーホルダーが見つかった。つまり、ここは玉藻さんの部屋であり、何故かここで河童さんが寝ていたことになる。


3つ目は彼と花菜さんとの奇妙な共通点だ。2人とも死体の足がないのだ。しかし切り落とされた足はどこにもない。


私が推測した限りでは、「犯人は彼らを殺害した後に足を切り落とした」という状況が浮かび上がる。


しかしそれを指し示す証拠がない。2人がいつ、どこで、誰に、どうやって殺されたのかということは推測の域を抜け出せないうえ、手がかりらしい手がかりは一向に出てこない。


とにかく、証拠を地道に集めて、犯人を特定することが今の最優先事項だ。

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