セフィロト

讃岐うどん

第1話 星の泉

何度も、何度も、食った。

けれど、いつまでも、満たされない。

永遠にも等しき時の中で、『王』は考える。

何故、満たされないのか。

何故、腹が空くのか。


『神』と呼ばれる者達は考える。

永遠が、欲しい、と。

"人"と呼ばれる者が生まれた頃、「神』は永遠の研究を始めた。

何度も、失敗をした。

何度も、挫けた。

千の時の果てに、ようやく、ソレは生まれた。

二つの命、ただ、永遠の装置として、動く。

その筈だった。

二人は、『神』へ反旗を翻した。

二人は、星と戦った。

それは、復讐だったからか。

『神』と『王』が協力をした。

星全体で大きな争いが起きた。

結論から言ってしまえば、『神』が勝利した。

二人は、それぞれ星の奥底へ封印された。



真流修にとって、『飢餓』という都市伝説は、馬鹿馬鹿しく思っていた。

そんな物居ない。と、決めつけていたからだ。

桜が咲き誇り、新たな世界が始まる。

学生にとって4月の始まり、それは、新たなる勉強の始まりでもあった。

ここ、須賀市では、毎年、学校とは別の始業式がある。

春休みが終わった。今日からまた、学校が始まる。

はあ、と、ため息をしながら、通学路を重い足取りで歩む。

始業式も終わり、HRが始まった。


「えー、まあ、分かっていると思うが、今日は、始業式だけで授業中は無い。部活動も無いからな。寄り道せずに、直ぐに家に帰ること」


担任が、話をしている。

2年生となり、新しいクラスになった。

修にとって、数少ない友達が、同じクラスとなった為、悪くはなかった。

HRも終わり、皆が下校を始める。

修も、友人と帰路を共にした。

雲一つない空。正直なところ、変わらない日常というのは、退屈であったが、嬉しくもあった。


「なぁ、今日ゲーセン行かね?」


ゆっくりと帰路を歩いていると、友人の秋が面白い提案をしてきた。

修は二つ返事で良いと言った。

二人は、寄り道をする。

遊んでいる時間はとても楽しかった。

時間というのは残酷で、もう、夕焼けが終わろうとしていた。


「じゃあな修。また明日」


二人は別れ、それぞれの帰路につく。

段々と空が暗くなってきた。

街灯がチカチカとつき始める。

右手に公園が見えてきた。

すると、公園を照らしていた、街灯が、ぱちっと消えた。


(珍しい事も、あるんだな)


修が公園を見ていると、街灯がつき始めた。


「!」


そこにいたのは、右手を黒いマントで覆っており、白い仮面を被った男。

男は振りかえり、修と目があった。

仮面越しに感じる死。

少しでも踏み込めば、未来は無い。

修の本能は逃走を選んだ。けれど、身体が動かない。

修が固唾を飲む。汗がダラダラと出ている。鼓動が止まらない。


「!」


また、街灯が消えた。

明かりがついた時、男はいなかった。


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


過呼吸になりながら息を吸い続ける。

呼吸が落ち着いてきた。

ただ、走った。

死にたくないと。

全力で、振り向かず。

ようやく家が見えてきた。

安心した修は、家族に会うことすらせず、自身の部屋に閉じこもった。

ベッドに倒れ、布団に包まる。

疲れがどっぷりと身体を襲う。

深い眠りについた。




星の果てで二人は夢をみる。

いつか、『神』を殺すと。

いつか、二人で成し遂げると。

戦いの果てで、傷ついた身体を癒す。

何年かかるのだろうか。



目が覚めると、ベッドの上だった。

昨日の恐怖が嘘だったかの様に、目覚めは良かった。

今日から、授業が始める。

早く、用意をしなければならない。


「おはよう、修。昨日は、大丈夫だった?」


修で母親である、結衣が心配をしてくれた。

少し、嬉しかった。

朝食を取り、家を出る。

ゆっくりと、通学路を歩く。

例の公園が見えてきた。朝だというのに街灯がチカチカとついていた。

昨日のことを思い出してしまった。

何もない筈なのに、吐き気がしてきた。

公園を見ない様に走った。

一度も休憩をせずに、学校に着いてしまった。

時間はまだまだ余裕がある。

荷物を教室に置き、学校内をぶらつく。

ここ、須賀高校は、2つの校舎に別れており、本校舎は4階建となっている。もう一つの旧校舎には、誰も入ることができない。

本校舎から、旧校舎へ行くには、中庭を通らなければならない。

修は旧校舎へ向かった。

今なら、誰も見ていない。

修は旧校舎に入り、1階から3階へ普段では味わえない冒険をした。

そろそろ、HRが始まる。

急がなければと思い、修は小走りで教室へ戻る。


「!」


旧校舎の出口に男は立っていた。

まるで、待っていたかの様に。

男は何もしない。

互いに一歩も動かない。

いや、修は動けなかった。

吐き気が込み上げてくる。

こーん、と、HRの鐘が鳴った。


「……あ…」


静寂が、破られた。

時間が、動き出した。

男が一歩、一歩と、修に歩み寄る。

本能が、死を受け入れている。

死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

二人の距離は殆どない。

修の鼓動が膨れ上がる。

仮面越しに終わりが見えた。

修の意識はそこで途絶えた。





何時間経ったのだろう。

修が目覚めたのは、保健室のベッドだった。

空が黒く染まってきている。

朝と同じく、目覚めは良かった。

もう、学校は終わっていた。

早く、帰らなければならない。

荷物はベッドの隣にまとめられていた。

修は身体を起こし、学校を出る。

昨日と変わらぬ道。

昨日と変わらぬ世界。

修は小走りで、家を目指す。

また、街灯がチカチカしていた。

道端でスーツを着ていた男が眠っていた。


「おい!大丈夫か?」


言い終わる前に街灯がバチッ、と、消えた。

たった一瞬、明かりがなかった。

また、バチバチと明かりがつき始めた。


「は?」


そこには、男を貪り喰らう化け物が居た。

それは、人の形をしているが、首が無く、頭と腕がくっついていた。

男の血が溢れて、化け物の手が朱く染まる。

修は立つことができなかった。

動けなかった。力が入らない。

今度こそ、本当に死ぬ。

肉を喰らっていた化け物が修を見る。

歯が血で染まっていた。

血がポタポタと垂れている。


「あ……」


化け物が修を獲物として認識する。

修を喰らわんとばかりに、化け物がゆっくりと、歩き始める。

逃げることはできない。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


声にならぬ音。

少しずつ、距離が無くなる。

死ぬ。

修が目を瞑る。

化け物が巨大な口を開ける。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


化け物の咆哮。

修が目を開ける。


「!?」


修の目の前で、化け物の口が刃で貫かれていた。


「アウトレイジ起動。絶槍──クリシュナ」


化け物ではない、少女の声。

少女は、化け物の口に刺さった刃を振り上げる。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


化け物の咆哮。それは、修の生存を意味していた。

化け物の切り目から見える少女の姿。

金髪に、翡翠の瞳。ロシアン系の少女だった。

クリシュナと呼ばれはそれは、槍の様に長く、剣の様な刃があった。

ハルバートと呼ばれる武器だった。

クリシュナは黒く染まり、球体へと変形した。

化け物から、黄色い飴の様な物が出てくる。

少女は、それを食べた。


「赤字かな、これ」


少女は球体に話しかける。


『まあ、そんな気はしていたがな。我は無闇に使う物じゃないぞ」


球体から男の声が聞こえる。

いまだに立つことができなかった修にとって、さっきの化け物とは違った恐怖があった。


「ん、キミ大丈夫?」


少女は修に安否を尋ねる。


「……あぁ」


少女と球体が修について、話し合っている。

修には聞き取ることが、できなかった。


「キミ、名前は?」


ふと、少女は修に名を尋ねる。


「……真流修…」


諦めたかの様に名前を言う修。


「そう……修……ねぇ……うん……私の名前はアストラル。アストラル・オルゲイ。私は、キミを安全に家まで帰れる様に、護衛してあげよう」


少女……アストラルは修と共に歩き出す。

ゆっくりと歩き、家に着いた。


「じゃあ……はい」


少女が手を差し伸べた。

修には、ソレが何かわからない。


「ん?ほら、あれだよ。チップ」


少女は平然と言ってのけた。


「はぁ!?」


修には到底理解ができない。

「『飢餓』から助けて、家までの護衛でしょ?だから、ざっと千万円ぐらいかな」


あまりのことに修は何も言えなかった。


「払えないの?」


不思議そうに聞くアストラル。


「うん」


当たり前だと答える修。

黒い球体の一部を刃に変化させる。

修の首元に刃が迫る。


「払え」


実力行使にでたアストラル。


「そんな金無い」


はぁ、と、小さなため息をし、刃を戻した少女。


「そっかぁ……なら、私の手伝いをしてもらおうか」


勝手に話が進んでいる。


「私は、『飢餓』を殺す仕事をしているの。だから、私の仕事の手伝いをして。一体倒すごとに50万返済にしよう」


アストラルは星を見る。

修は木を見る。

お互い、何も喋らず、時間だけだ過ぎて行く。


「じゃあね、修」


そういうと、アストラルは夜空へと飛んでいった。


「なんだったんだ……」


修にとって最悪の一日だった。

けれど、コレは始まりでもあった。

少年は、夢をみる。

遠く、遠く、遥かな昔の夢。

懐かしく、古臭い夢。

また、明日が始まる。

全てが生まれる、その時まで。









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