第14話 密室トリックいんまいはーと


 敬愛してやまない哲学者が「退屈を感じるのは人として中身が空っぽだから」とか何とか言っているため、私は退屈を感じると君のことを考える。人は考える葦だそうなので、私も何かを考えようというわけだ。そしてその題材は、いつだって君だ。

 なんて、これは勿体ぶった言い方だなと思う。

 言ってしまえば、君のことを考える癖がついているだけだ。人が退屈を感じるのは大概やることが無い時だと思うのだけれど、そんな思考の隙間、心の落ち着いた瞬間に、君という存在が割って入って来る。

 正直怖い。鍵を掛けていた部屋に不審者がいるくらい怖い。君は堂々と私の思考の真ん中に陣取っているけれど、そんなことを許可した覚えはない。

 本当はもっとマシなことを考えたい気もする。敬愛する哲学者の思想について、深く掘り進めるなんてのは有意義そうだ。あるいは書き途中だったミステリー小説のディティールを詰めるべきな気もする。

 とにもかくにも、私はこれ以上君を考えている場合じゃない。

 考えたくないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る