第10話 雨の日の出来事(宮里咲楽)

 絵画の賞を取ったっていっていたよな。

 そうか、そこから彼女を追うことができないだろうか!?


 僕は、スマホのWEBアプリを立ちあげると『絵画 公募』と検索をした。するとトップページに出て来た賞の名前を見て僕ははっとした。というのも、妙邦寺で良い写真が撮れたら自分もここに作品を出してみようと思っていたのだ。


『三科展』


 もしかしたら、彼女はこの80年の歴史を持つこの三科展で賞を取ったかもしれない。ここで賞を取った多くの人はプロとしてその道の第一線で活躍しているという。

 そうだ、明日、朝一番で、市の図書館に行ってみよう。もしかしたら、受賞作品を掲載したカタログが年代毎に閲覧できるかもしれない…。


 僕は、はやる気持ちを抑えつつ、無理矢理早めにベットに入ると、夜が明ける少し前に漸く浅い眠りについた。



「サ—————、ザッ————」


 ん?朝の6時か…。

 なんだろう、雨か!?


 僕は、カーテンを開け外の様子を見渡す。

 すると町中が朝靄の中に包まれているような今まで見たことがない光景が目に入る…。


 もしかして、今日!?

 今日、彼女に会えるんじゃないだろうか?


 僕は、はやる気持ちを抑え、身支度を調える。

 どんなに早く行ったとしても妙邦寺の開門は朝9時なんだから…。


 そうは思ってはいても僕は、まだ一時間も前なのに部屋を出て階段を降りて行く。


「ねぇ、ちょっと…。大丈夫!?」


 いきなり呼び止められ少し身構えた僕は、見慣れた顔を確認してほっと頬を緩ませる。

 赤い傘をさした竹下栞奈たけしたかんなさんは、僕の前にゆっくりと歩いてきた。


「おはよう。驚いたよ。雨の中どうしたの?大丈夫って?」

「だって…、凄く顔が赤いけど…」

「ん?赤い?そんなことはないと思うけど…」


 僕がそう言い終わらないうちに彼女の手が僕の額を触る。すごく冷たくて気もちがいいや…。


「ほらっ。熱あるってば。しかも、かなり高いよ。こんな時に出かけちゃ駄目だって」

「でも、今日、行かないと…」


 彼女の手を払いのけて前に進もうとするが足が動かない。ゆっくりと世界が回っているようでとても気持ちが悪い…。

 結局、僕は、激しい目眩でその場にしゃがみ込んだ…。



- - - - - - - - - - - - -


「もう。だから駄目って言ったじゃない。自分の体のことをしっかりとわかってやらないととんでもないことになるわよ」


 栞奈さんはそういうと、「はい。少しは食べて薬飲まなきゃね」と言って、お粥を僕の口許にスプーンで運ぶ。


「えっと、感想は欲しいかな…」

「お、美味しいよ。ありがとう」

「もうっ、それじゃ、無理矢理私が言わせたみたいじゃない。まぁ、いいかっ。漸くゆっくりと話が出来そうだしね」


 彼女はそう言いながら甲斐甲斐しくも僕を看病しながら、最近大学であったことや大家のアルバイトのことなど、ユーモアを交えながら話をしてくれる。

 最初は、その話に相づちをうっていた僕だが、お腹に暖かいものが入った事と薬が効いたのか…、いや、昨夜は興奮で眠れなかっただろうか…、すぐに深い眠りについた。



 しばらく経って、『カサッ』という音で目が覚めた。

 ベットの上に置かれた上着か何かが床に滑り落ちたようだ。


 ん?暖かい……。

 今さらだが、僕の手を柔らかく包む暖かい温もりに気づいた僕は、はっとする。

 そこには、僕の右手を小さな両手で包み込んだまま眠る彼女の姿があった。


「んっ?いけない。私まで吊られて眠っちゃった。気分はどう?」


 気分はすこぶるいい。

 でも、僕の右手は熱を帯び、それがまた頭に登っているようだ。


「ん?だいぶん下がったみたいだね。じゃあ、夕方も何か食べやすいもの作ってくるからそれまで大人しくしていて」


 彼女はそういうとお粥を作った際の鍋や茶碗、スプーンなどを手際よく洗うと水切りの上に置いていく。


「ちょっと強引だったかな…」


 独り言だろうか?なんの事を言っているのだろう?


「それじゃあ、また後で。ゆっくりとしてるんだよ!」


 そういうと彼女は部屋から出て行った。


 一人残された僕は、さっきまで右手に包まれていた温もりを思い出していた。あの時、妙邦寺の洞窟で出会った吉川観鈴さんと肩が触れた時の温もりに似ている…。

 僕はその柔らかい感触を思い出しながらもう一度眠りについた。



- - - - - - -


作者コメント:

さりげなく咲楽をみている栞奈さん、、、。

僕は好きだな〜。


毎日少しずつですが書いて投稿しています。

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