第17話先輩対小太刀

『神威!!!神威!!!死ぬでない!!!神威!!!』


浪詩に斬られたオレに椿が必死に話しかけてくるが、今はそれどころじゃない。

なんたって死にかけてるんだから。


「はぁ…はぁ…悪い、今余裕ねぇ」


「まだ生きてるのは大したもんだな」


褒められてる?いや、褒められてる気がしねぇ…


「まぁいい、ほっといても死ぬだろうが、トドメはオレの手で刺してやる」


うーわっ嬉しくねぇ、

オレに向かってゆっくりと歩み寄ってくる浪詩、だがオレは床に埋められた足のせいで逃げられない。


「させぬ!」


人の姿に戻った椿が、オレの盾になろうと目尻に涙を浮かべながら浪詩の前に立ち塞がる。


「馬鹿!!死にてぇのか!!逃げろ!!!」


「嫌じゃ!!絶対に逃げぬ!!!逃げる時は神威と一緒にじゃ!!!」


「逃げれねぇんだよ!!!ならお前だけでも逃がすしかねぇだろ!!!ガフッ」


「神威!!?」


大声で叫んだせいで、オレは吐血し椿の心配を煽ってしまった。


「やかましい奴らだ。安心しろ、お前を殺したらそっちの刀もすぐに後を追わせてやる」


「テメェ!!!」


今の発言は見過ごせねぇ、椿を殺すだと?そんなことオレがさせねぇ。


「いい気迫だ。けど、止められねぇだろ」


「ぐっ…」


確かに、いまのままじゃ止められねぇ。けど、この足さえ何とか出来りゃあいいんだろ?なら簡単だ。


「椿…刀になれ」


「何をする気じゃ?!!」


「足ぶった切ってでもアイツを倒す」


パァン!!!と平たい音が鳴り響き、気がつけばオレの頬は赤く染まっていた。

椿がオレの頬を引っぱたいたんだ。


「たわけた事を抜かすでないわ…もしまた今のような言葉を抜かしてみよ。妾はここで舌を噛み切って死んでやるぞ!!」


「じゃあどうしろってんだよ!!!2人まとめてここでくたばる気か?!!」



「いつまで喧嘩してんだオメェら」


「「!!」」


オレ達が言い争っているところに来てくれた里見先輩、今この瞬間がどれだけ心強い事だろうか。


「先……ぱぃ……」


そこから先はオレは意識を手放し倒れ、後の事は覚えていない。



里見視点


ドサッ


「神威!!!」


オレがやって来たと同時に倒れ込んだ八九師、ほっとくとマズイな。

オレは斬撃で八九師の足元の床を壊すと、椿に1枚の名刺を投げ渡す。


「椿!今すぐそこの病院に行け!そこの先生はオレ達の事情を知ってるから絶対に助けてくれる!!見たところ八九師の出血が酷い、手遅れになる前に急げ!!」


コクリと頷いた椿は、そのまま八九師を背負って出口へと走り出した。

急げよ…手遅れになるとヤバイからな。


「さてと、残る1人もオレが相手をしようか」


『ねぇ、やっぱりあの子達いらないんじゃない?アタシ達より弱いじゃない』


分かってないなコイツは、何でオレが八九師達を選んだのか、簡単なことだ。


「アイツらは、いずれ化けるさ、オレが保証してやるよ」


『そうかしら?アタシにはそうは見えないけど』


「テメェ、真幸はどうした、アイツはそんな簡単にやられるような奴じゃねぇはずだ」


小太刀を持つ男が、オレを睨みつけてくる。

まぁ、さっきまで自分の味方と戦ってた敵が1人で自分の戦闘に割り込んできたら睨みたくもなるわな。


「倒した。それ以外に言葉がいるか?」


ダッ!と男はオレに向かって小太刀を構えて突っ込んできた。

そして勢いよく刀を引いて刺突を繰り出してくる。


ガキィンと鍔迫り合いになると、男は怒りをあらわにしてきた。


「嘘つくんじゃねぇよ、アイツがお前なんかに負けるわけがねぇ」


「嘘なんかついてどうすんだよ。オレよりもあいつの方が弱かった。それだけだろ?」


『アタシ達があの薙刀くんより弱いと思われてたのは侵害ね、コイツにも分からせてあげましょ』


「なら証明してみろ、このオレを倒して」


「説明するより楽そうだ……なっ!!」


オレは奴の刀を弾き、鍔迫り合いに押し勝ってみせた。


奴は後ろに弾き飛ばされると、その場に足をつけて床を刀で突き刺す。

すると、そこの床にヒビが入り、オレの足元まで一気に地割れが起こった。


「!」


『康太!!!』


オレは咄嗟に地面を蹴り上げて空中へ逃げ、そこから斬撃を奴に向けて撃った。


ガキィン!!と鋭い音が辺り一帯に響き渡る。

へぇ、上手く防いだな。

さっきの薙刀男といい、もはや初見で防がれてもあまり驚くことは無くなったな。

その証拠に春華も『やっぱり防がれるわね』とか言ってるし。


「春華、斬真・天をやるぞ」


『あら、もう決めちゃうの?』


「あぁ」


あんまり時間をくってられない、八九師の事も心配だからな。

オレは春華を大きく振って斬撃をもう一度飛ばす。


「シッ!」


さっきよりも大きめのサイズの斬撃だ。防がれた瞬間に斬撃が消えることは無いし、弾く以外に方法は無い。


「チィッ!!!」


ガキィィンとまたも反響した音が鳴り響き、今度は奴は斬撃を後ろに弾き飛ばす。

それを見て、春華は弾き飛ばされた斬撃を能力で空中に留めた。


『いつでも行けるわよ』


春華の合図を元に地面に降り立つと、オレは崩れていない足場を見つけて大きく飛び出し、3歩で奴の目の前まで飛び込んだ。


「……ッ!!?」


ズバン!!とまずは一太刀、奴の身体に浴びせてやる。


「ぐあぁっ!!」


だが、勢いはまだ止まらない。オレは飛び込んだ勢を殺さずに、奴の後ろまで飛ぶと空中で反転し、先程弾かれた斬撃を足場にして後ろから飛び込んだ。


「!クソッ!!」


だが、反転したあとの一撃は、紙一重でかわされてしまう。

が、オレはもうひとつ攻撃手段があるんだよ。


「斬真・静動」


そう、先程足場にした斬撃を奴に向けて方向を変えて動かしたのだ。


「……なっ!!?」


やつの刀が先に気づいたのか?男が後ろを振り返り小太刀で斬撃を防御しきっていた。


『あら、残念もう少しだったのに』


「そんなに簡単には倒しきれねぇか」


『面倒ねぇ〜天乱で早急に倒しちゃえばどう?』


それでもいいが、天乱が上手く決まったのはさっきの男が薙刀で攻撃寄りの武器だったから出来た事だ。

防御寄りの小太刀だと防がれる可能性も十分にありうる内はあまり手の内を明かすのは得策ではない気がする。


「今はまだ早い、時期を見て使うさ」


『いけると思うのになぁ〜』


オレ達が奴の動きに注目していると、奴の小太刀が女性の姿になった。


「チッ、またおされてんのかよ」


「うるさい、さっさと治せ、勝負はここからだぞ」


女が男に手を当てて、傷を素早く塞いでいく。

治癒の能力か?


「春華、奴の能力をどう見る?」


『普通に考えたら治癒の能力よね』


だろうな、だがオレは何か引っかかっている。


「あぁ、だがおそらく奴の能力は治癒だけじゃない」


『だけじゃないって……能力を2つ持ってるとかそーゆー事?』


「さぁな、だが気を抜くなよ?奴は何か隠してる」


傷を塞ぎ終えた奴が、オレを睨みながら女性を刀に戻して立ち上がる。


「待たせたな、第2ラウンドと行こうか」


「いや、第2ラウンドじゃねぇ、コレが最終ラウンドだ」


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