AIと人間、利己と利他──近未来の暗示にも似たSF的ヒューマンドラマ。

AIという被支配者的存在に、人間が利己主義一辺倒による抑圧・隷従を強いる──という構図が魅力的でした。忘れられない初恋の相手をAIの人格で再構築する、というアプローチに現実味があります。

しかし、これは支配構造ではなくて、人間とAIという二項対立的構造でしょう。エゴを押し付ける主人公、それを嫌うAIの"ルリ"。明確な自我と思想を持たせていることに作品上の意味があります。

はじめ完璧主義な主人公は、初恋の相手"るり"の再現をルリに強いますが、段々とその"不完全さ"を容認していくようになりました。"完璧だった"るりに絶望したことで、主人公は"不完全"な"オリジナル"を心の拠り所とするのです。藁にもすがる思い、的な思考の変容は、まさに人間のエゴを象徴しています。

皮肉にも、そんなエゴをも受け入れてしまったAIこそが、いちばんの衝撃でした。同時に、その原因はエゴを標榜する人間──"完璧主義"の主人公であり、あくまでもルリが主人公に向けた感情は、奉仕的なそれでしかないのです。エゴによって何重にも歪められた主人公の意思と、一貫して変わらないルリの善意、この対比が浮き彫りになっています。

人間とAI、利己主義と利他主義、こうした二項対立関係におけるヒューマンドラマ上のコミュニケーション的障害を上手く描き出した作品だと思いました。最終的な結論として"人間性の不完全さ"を肯定しているのも、一貫した軸が可視化されたようで良かったです。テーマ設定のセンスと構成力が光る一作でした。