第3話 総理、忍者隊を作りましょう!

「総理、忍者隊を作りましょう!」

「えーっ」 総理は智子の言葉にいつも驚かされる。

「総理の警備隊の中に特殊警備隊と称して忍者隊を作りましょう。人選は済んでいます。」

「忍者隊?」

「100人体制です。」

 日本で開かれるG7直前に、各国の大統領や首相は、テロリストに脅かされて、為す術を失っていた。

 総理は驚きつつも、智子に同意せざるを得なかった。今まで、智子の言うようにして、総理になり、すべてを乗り切ってきたから。

 公安も警察庁も自衛隊も、個人情報に触れることができる幹部以外は、眼の前にいる人物の素性を知らない。ある時、急に名簿になったかと思うと、急に消える。上層部がやったことだと、妙に分かったような気でいるだけで、実は、真実は藪の中。今回も、各所属から人選されて、官邸に来た人物の素性も誰も知らなかった。智子が命じた育明がすべて仕組んだことだった。総理に話す1年も前のことだ。


 G7が始まり、各国の代表が空港からホテルへ、いつの間にか観光もして、会場に向かって行った。育明が言った、「智子、各国首脳のルートが全て漏れている。テロリストは工夫に工夫を重ね、警官の弱みを握って巧妙にVIPに近づいている。」 育明は智子の秘書であるが、智子と呼び捨てにしていたのは、アメリカで学生の時からの友達であり、親しみが優先していた。各国首脳が自分の都合で動き回っていたが、「G7の間、何も起きなかった。」と、世界のニュースチャンネルで好評されていた。裏では、かなりの人数が逮捕されていた。一部をご覧に入れよう。

 スキンシップの好きな国の代表は、握手をして回っていた。老若男女が、その国の国旗を持って、握手に向かった。ポケットにはナイフ、銃や弾薬、卵が入っていた。それを彼らが取り出そうとしても、いつの間にか、ポケットに無かった。手に毒を塗りつけたテロリストは、手首を持たれて、くるりと後ろを向かされ、縛られて、テロリストと書いた紙を持たされていた。離れたところから、目つぶし、手裏剣も飛んできた。向かってくるドローンは、飛び上がっても、すぐに落ちた。

 智子の耳に「低空でステルス機編隊が来襲。迎撃開始!」と届いた。

「総理、ステルス機編隊を退治します。被害を最小限度に留めます。自衛隊、アメリカ軍は気づいていません。彼らに、何もしないよう通知します。民間飛行機、ヘリコプター、船舶等、全て、避難させます。」

 1ヶ月前、智子は、会社のあるチームを集めていた。物理学、航空宇宙工学、電気電子通信工学、音響工学等の博士号を持った精鋭が集まっていた。「ステルス機やミサイルが飛んできた場合に、対処してほしい。国民に怪我をさせないで。貴方達なら、できるわね。私はあなた達を信じて、全責任を取る。あなた達は自分の能力を信じて。万が一、想定外のことが起きたら、あなた達の脳の閃きを信じて行動して。あなた達よりも優れた人は存在しないのよ。さあ、始めよう!」そう言われて、Noというものはいない。彼女に信頼されているという自尊心が、彼らを勇気づける。

 会社の人工衛星の10機は静止衛星軌道上にあり、他の10機が地球全体を回っていた。搭載されたAI探知システムがステルス機を見落とさなかった。レーザーでステルス機を落とすことが可能だが、国民の生命を脅かしかねない。チームに命じたのは、ステルス機の共鳴振動数に合わせた音波システムと、ステルス機の受信を利用した電磁波攻撃により、操縦不能にさせ、母艦に引き返させるという作戦だった。もちろん、ハッキングは始めている。日本上空に入るまでに、衛星と船舶からステルス機の阻止システムが作動した。船舶から飛び立った大型ドローン2万機が、様々な周波数の妨害電波を出し、ステルス機編隊の相互通信を途絶させた。ステルス機編隊は、やっとのことで母艦に戻っていった。

智子は気を緩めなかった。直ぐに、「ミサイルが向かってくる。迎撃システム作動!」という連絡が入った。

「総理、ミサイルを撃ち落とします。VIPを官邸のシェルターに移します。」

 アメリカ軍のパトリオットミサイルでは、国内に落ちて、甚大な被害が出かけない。F16など、緊急発進しても役に立たない。

 ミサイルが日本の領空に入り、ロフテッド軌道に移る前に、会社の人工衛星10機からレーザーが発射され、撃墜された。戦争目的ではなく、止むを得ない防衛手段だ。

「良くやったわね。ありがとう! 貴方達ならできるって信じてたわ。」女性秘書官は、ねぎらいの言葉を投げかけるのが常であり、その言葉に社員はしびれていた。美しく優しい女王様に褒められたら、誰でも再び難題に取り組んで、また、褒めてほしいと思うだろう。智子の声は、皆の心に染み入り、皆の心を包み込む、彼女はそういう人なのだ。


 お嬢様、アメリカ大統領から電話です。

「見事だった。高速度カメラでVIPの警備を撮影させていたが、何も写っていなかった。忍者がいるのではないかと、CIAが言っている。アメリカで行うG20に彼らを派遣してくれないか?」

「いいわよ。彼らに特別権限だけ持たせてね。」

「ところで、ミサイル防衛システムは米日で協力して研究、実用化の筈が、開発能力、予算、共に頓挫していた。既に、君の会社は完成させているじゃないか! ぜひ、アメリカの防衛にも協力してくれないか?」

「あくまで防衛システム。平和目的よ。スタッフを派遣するわ。」

「アメリカ合衆国を代表して感謝する。」


「総理、アメリカに忍者隊を派遣しましょう!」


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