加速する性の消費

 クリエイティブな才能を持った人々のスキャンダルに、セクハラやドラッグが多いのは何でだろうな。まあ、情報通信技術が発達して誰もがインターネットに触れることのできる昨今、一部の芸能人が麻薬所持や性加害で逮捕されると瞬く間に拡散されて悪目立ちするから印象深いってのもあるんだが、海外でも有名アーティストがその強い立場を利用して誰彼構わず手を出したとか、薬物乱用で腕がまともに動かなくなってコンサートを中止したとかいう事例は、枚挙に暇がない。


 「ふーん、確かにそうかも。だけど、私には関係のない話だなあ」と思った、そこの諸君。本当にそうかね。最近の小説界隈を見ると、特に18禁だの性描写注意だのっつー前置きもなく、当たり前に性を消費する描写が冒頭からふんだんに使われた作品が星の数ほど多くあるように感じる。


 例えばだな、何の作品とは言わないが、いい年こいた会社員がとぼとぼと家路に就く途中、夜遅くに路上で暇を持て余したJKと目が合って「お兄さん、家に泊めてよ」と迫られる。すったもんだありつつも、放って置く訳にもいかず渋々家に上げると、訳も分からず女性の方から身体の関係を迫られる。はっきり言って、意味が分からないな。


 人様の表現の自由にとやかく文句をつけたい訳ではないが、こういう描写ってな、まずリアリティに欠けるし、若い女性を作品における一種の舞台装置としてしか見ておらず、ただ「性」を消費するだけの極めて陳腐で安っぽい表現だなと感じる。その手の作品に限って何故か人気があるのは、果たしてその作品が本当に面白いからか、はたまた初っ端からきわどい描写で「性に飢えた消費者」たちをまとめて取り込んでいるだけか。


 小説家ってのは、どれだけ想像力豊かなやつでも、自身の人生経験と大きくかけ離れたことは書けない。罪を犯して刑務所に入ったことのあるやつでもなければ、豚箱の劣悪な環境や囚人の苦悩を描写できないし、そこにを持たせられない。だから、この手の性犯罪未遂みたいな描写にはリアリティがないから、その書き手には前科がないのだろうと一安心するのだが、将来が心配になる。


 男性諸君は逆の立場になって考えてみろ。何かやむにやまれぬ事情があって家出したとしよう。行く当てもなく街を放浪し、夜も更け、見知らぬ異性とすれ違って「仕方ない、この人に泊めてもらおう」ってなるか。ならないよな。まずは警察に相談がベターだし、警察には話せない特別な事情があるのなら、それも覚悟した上で家出すべきだ。そんな訳の分からん思考回路をした人間が作品の主人公あるいはヒロインだったら、まあ読みたくないわな。


 こういう、性を消費するためにその他のリアリティある描写を犠牲にするといった風潮は、ここ最近加速し続けているように思える。性を売り物にすれば客は沢山寄ってくるし、表現物と現実は別物だという大義名分のもと犯罪描写ですら何だって許容される世界だがな、それがスタンダードとなった時に、溢れ出る歪なボーイミーツガールは本当に安っぽくてくだらない。どんな純愛ラブコメだろうが第1話はベッドインからってか。アメリカ人かあんたらは。


 ──おしまい。

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